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黒蓮

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第二章 冒険者生活 編

冒険者生活 21

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side フリージア・レナード

 絶え間なく負傷者が運び込まれるテントでわたくしはひたすら治癒のために光魔法を行使していた。さすがに魔獣との比嘉の戦力差が明白な作戦の為か、魔獣の討伐にしては負傷者が多過ぎる。その為、呼び水となる自身の魔力を節約しながら行使していた魔法も、段々と枯渇してくるばかりか、集中力ががれてきているのを実感するほどだった。

(くっ、これではあと数回の魔法行使で倒れそうです。まだ討伐作戦が始まって2時間程なのに・・・)

額から流れる汗も拭う暇がないほどに集中して治癒していると、隣にいる側仕えの一人が心配な表情をしながら訴えてきた。

「フリージア様!もう限界でございます!ここは私に任せて少しお休みください!」

そう訴える彼女とて、ずっと治癒してきているのでその疲労は私と同じかそれ以上のはずだ。第三位階までしか使えない私と違い、第四位階まで使える彼女はより重傷者の治癒にあたっているのだから。彼女もまた玉の汗をかきながら一生懸命に治癒している。

「大丈夫です!今は一人でも多くの騎士の方を治さねば戦線が崩壊してしまいます!それは王都に住まう全ての民達が命を危険に曝してしまうことに他なりません!」

「ですが、その前にフリージア様が倒れてしまいます!それに枢機卿猊下の予備プランで冒険者を後方に待機させていますので大丈夫です!」

彼女の切実な訴えは分かるが、今頑張らねば多くの騎士達が死んでしまう。冒険者が控えているとはいえ、その出番が来るということは前線が崩壊し、大半の騎士が死んでしまったという事になる。王国のためにその命を張って民を守ろうという気高い魂をここで散らしてしまうわけにはいかない。

「ここで諦めるわけにはいきません!貴方も変装に治癒と大変でしょうけど、お願いします!」

「フリージア様・・・分かりました、私も全力を尽くします!」

 気丈に振る舞っていたが、そろそろ本当に限界が来るという所で側仕えの一人がダリア君と一緒に現れた。それはつまり―――

「遅くなりましたフリージア様。無事ドラゴンは討伐出来たはずです」

私の後方に近づき、小声で依頼を達成したと告げてくれた。

「・・・はず、というのは?」

「実はワイバーンを瀕死の状態にして地上に落としたのですが、付近に王子殿下のチームがいまして、どうせなら止めを王子殿下が刺してしまえば今回の作戦は丸く収まると思ったのですが・・・不味かったですか?」

さも簡単なことでしたと言うような彼の口調は淀みがなく、嘘や吹聴ではないと自然と分かってしまった。分かってしまったからこそ歓喜してしまう。

(私と同年の子がドラゴンをいとも簡単に・・・ギル様やお爺様の言う通りの逸材・・・素晴らしいです!彼はいずれこの王国の英雄ともなれる傑物。是非彼には信仰を持って頂き、敬虔けいけんな信者として聖騎士の道を目指して欲しいです!)

 本来なら子供が単独でドラゴンを倒すことなど常識の埒外な出来事であるはずが、冒険者協会の会頭がもたらした情報からすんなりと信じてしまえた。しかも彼の才能は1つだけ、それは今のオーガスト王国社会の根底の1つである、才能による差別意識に一石を投じる事になるのではないかという考えがあった。

(差別のない平和な国の醸成醸成じょうせいには彼のような人物はうってつけかもしれませんね)

彼の能力について知ることで、私の理想とする未来の王国のことまで考えてしまった。

「いえ、ダリア君の行動は最善だったと思います。それに、魔獣達を指揮していたドラゴンが討伐されれば、魔獣は本能に任せて動くようになるでしょう。それはつまり本来縄張り争いや食料として襲っていたように魔獣同士でも争うということ。形勢の逆転が見えてきましたね」

今までの魔獣8000対騎士4000の構図が一気に崩れることから、この作戦の勝機が見えてくるはずだ。そんな安堵できる事をもたらしてくれた彼から更にとんでもない申し出があった。



 ドラゴンを瀕死に追い詰め、止めは王子のチームに丸投げした後、フライトスーツで大急ぎで戻り、周りを気にしながら誰の目にも触れられないようにテントの後方から戻ると、僕に変装している側仕えの人がいた。

「終わりました。本来の護衛に戻りますね」

「お、お帰りなさいませ。で、ではお着替えを」

何故か驚いている側仕えの子が僕のローブを脱いで渡してくれたので、急いで着替えてフリージア様の元に向かった。

 治癒を行っているテントに入ると、大勢の負傷者が光魔法によって治療を受けていた。その様子はまさに戦場と同じようだった。懸命に治癒しているフリージア様もその表情から、限界近くまで魔法を行使しているのが見てとれた。そんな彼女にドラゴン討伐について一通りの報告をしたところ、疲労困憊な表情から安堵の表情へと変わっていった。

ただ、疲労が消えたわけでもないし、まだまだ負傷者が運ばれて来るであろう状況下だったので、彼女に倒れられても困ることから僕からある提案をした。

「良ければ治癒を手伝いましょうか?」

「えっ?ダリア君はどの程度の光魔法が使えるんですか?」

「あ~、まぁ、そこそこです。フリージア様は少し下がって休んでいて下さい。あっ、側仕えのお二人で担いででも休ませてください」

僕がそう言うと何故か3人とも驚きのあまり動きが止まってしまって、目を丸くしたまま動かなかった。仕方ないので柏手《かしわで》を打って行動を促した。

「さぁ!動いて下さい!」

 フリージア様達が休憩の為に下がると、僕はまずテント内を見渡した。

(負傷者の大半は魔獣の爪や牙などの裂傷や骨折か・・・第三位階で治癒可能な者が運び込まれているのか)

全体の負傷の度合いを確認して最適な魔法を選ぶ。ざっと3、40人は居るので、第四位階光魔法〈範囲回復サークレット・ヒール〉で治癒しようと決める。第四位階ではあるが、治癒力を犠牲に指定した範囲内の負傷者に対して、第三位階程度の治癒ができることが特徴でちょうど良かった。

(僕の魔力制御ならこのテント内を一度に範囲指定できそうだし)

そう考え魔法を発動すると、テント内の負傷者は一気に治っていった。

「よし!さぁ、どんどん運び込んでください!」

負傷者を運び込んでくる騎士や聖騎士に向けて声を掛けると、さらにたくさんの負傷者達が運び込まれてきた。その人達を片っ端から光魔法で治癒していく。

 1時間もすると状況が変わってきて、運び込まれる人数が急に少なくなってきた。どうやらスタンピードを率いたドラゴンが居なくなったことで統率を失い、魔獣達は三々五々散らばり、大森林に戻ったり魔獣同士で争ったりしているらしく形勢がこちらに有利になったようだと聖騎士長が教えてくれた。

ちなみに、ドラゴン討伐については王子のチームが伝令を飛ばして全体に周知したことで、全体の士気も高揚したらしい。ただ、魔獣が散らばった事で騎士の防衛網を抜けて王都方面に向かった魔獣もいたらしいが、予備プランの冒険者達が問題なく討伐したという事だ。

 状況の好転により負傷者も少なくなった頃に、休憩していたフリージア様と側仕えの人達が戻ってきてテント内を見渡していた。

「・・・ダリア君は本当に素晴らしいお方のようですね!あれだけいた負傷者の方々を治癒してしまえるなんて・・・これもフローリア様のお導きです!」

急に彼女達は片膝をついて胸の前で手を組んで祈りを捧げるようなポーズをとってきたが、これでは僕に祈っているように見えてしまうので慌てて制止する。

「あ、あのフリージア様!周りの目もありますので、これでは僕に祈っているように映ってしまいますよ!」

あたふたしながら制止する僕に、彼女は柔らかく微笑むだけで止めてくれなかった。その表情は僕と同い年の女の子なのに、どこか大人びていて慈愛に満ちた聖母のようだった。

 なんとか彼女を立ち上がらせるとその直後にテントへ王子が入ってきた。最初彼は年相応に見える笑顔だったが、僕がフリージア様を立たせるために掴んでいた腕を見て、怒気も露に近寄ってきた。僕はサッと手を離し臣下の礼をとったが、どうも王子はお気に召さないようだった。

「冒険者風情が我が婚約者になんと無礼な!不敬罪でその首撥ね飛ばすぞ!」

警告とも思えないような威勢で剣の柄に手を掛けた王子をフリージア様がサッと間に入ってきていさめてくれた。

「お止めください殿下」

「フリージア、こやつを庇い立てするつもりか!?」

「いえ、誤解を解くだけです。彼は私が魔法の過剰行使で倒れそうになったので、私に変わり治癒をしてくれていたのです。その事とフローリア様のお導きに感謝して祈りをしたのですが、彼は恥ずかしかったのでしょう、慌ててめるようにと私の腕を掴んで立ち上がらせてくれようとしたのです」 

「だからと言って平民である冒険者ごときが、聖女と讃えられる君に触れていい事にはならん!」

「たしかに彼は平民ですが今回の苦難を共にした仲間・・・いえ、せっかく同じ歳ですし、友人と言った方が良いですかね」

「っ!?友人だと?貴族でもない平民がか?」

「殿下、人の魂に上も下も無いのです。共に生きることが出来る、それだけで素晴らしいことです!人生を豊かに送るには友人を持つこと、そして相手を許すことが出来る事も人として誉れ高いことなのです」

そう言いながら彼女は王子が剣の柄に添えていた手を握り、上目使いに彼を見詰めていた。その様はとても同い年の女の子には見えなかった。

「う゛、う゛んっ!今回はフリージアに免じて許してやろう。だが次はないぞ!」

 そう言いながら王子は僕の事は無視するように興奮した面持ちで、ドラゴンを討伐したことを彼女に語っていた。僕は少し離れてその様子を見ていたが、彼女にご執心なのは王子で、彼女自身は王子に対してどう思っているのかは表情から見てとれなかった。
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