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黒蓮

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第二章 冒険者生活 編

冒険者生活 23

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 side ギル・エイカーズ

 ダリア君がレナード家の聖女と共に退出してこの部屋には軍務卿と枢機卿を含めて3人が残った。

「こんなもので良かったかな?」

軍務卿が私に話しかけてきた。

「はい、十分でしょう。ありがとうございます」

「ギル殿が目を掛ける人物がどの程度のものかと思ったが、精神面が危ういな。そのくせ武力はこの王国でもはやトップクラスだろう。どう扱っていくかだな」

「そうですね・・・今回の件でロイド伯達への筋は通しましたし、今後の問題は彼の手綱を誰が握るかですが・・・」

 先の男爵の件は状況証拠としてはダリア君が容疑者の最有力だった。その事でロイド伯爵が彼の処刑を声高に叫んでいたが、彼の才能のことで処刑には待ったが掛けられた。禁書指定された書物にある彼の才能を利用できないかと考えたためだ。

そして今回の依頼については、利用派と排除派の折衷案が本当の目的だった。ドラゴンを討伐できるなら利用派へ引き込み、討伐で死亡すれば排除派の目論見通りだった。王子の成長については本当についでの事だったが。

「そんなもの、どこかの貴族の養子にしてしまえばよかろう。何なら我が家の養子にしてやっても良い」

「軍務卿、抜け駆けですかな?彼の能力は私も高く評価している。養子にするなら私の家で良いではないか」

「お2人も落ち着いて下さい!最初に申し上げた通り彼の実力は底が見えません。今回のあの任務を難なくこなす力があるという事は、もし彼が王国に対し不信感なり嫌気なり持ってしまうと他国に行ってしまう可能性もあります。それはあの力が王国に牙を向くという事なのです。我々は彼の味方であるという立ち位置を確立しなければなりません」

「まったく回りくどいな。平民如きにここまで時間を割く羽目になろうとは・・・しかし、あの才能を持っているからには監視は厳重にせねばなるまい。それから、禁書指定のあの本だけは彼に見せることがないようにな」

「分かっています、既に手配済みですよ。ただ、心配なのは学園での事ですね・・・。どこかの貴族が突っかかっていくのが目に浮びます」

「それについては学園長に私から伝えておこう、彼女とは旧知の仲だからな。ただ問題は、今年から始まる交換留学だな。休戦協定が結ばれたフロストル公国との和平に向けた取り組みとして留学生を受け入れ、その文化を学ぶか・・・。聞こえは良いが体のいい敵情視察にならなければいいのだがな」

私の不安については枢機卿が動いてくれるというのである程度は安心だが、年頃の子供、特に貴族の子弟は平民である彼の実力を知れば、みたそねみで感情的に動く事が想定できる。学園の教師達の優秀さを願うばかりだ。それに加えてフロストル公国からの留学生が争い事の種にならねば良いが。

「それはあちらも同じでしょう。あの事がなければまた戦争になっていたことを考えれば休戦協定は締結しえなかった。誰かは分かりませんが感謝したいですね。そうでなければ王国は国際的に非難の的にもなるところです」

「その件は一部の過激派のせいだ。とはいえ、ほとんど粛清は済んだ」

「では予定を次の段階に進めるということでいいですね?」

それぞれの意思を確認したところで解散となった。



 話しも終わり帰ろうとすると、フリージア様からお茶に誘われた。先日の作戦で多くの負傷者を代わって治癒してくれたお礼だと言われ、私室に案内された。

その部屋は白を貴重とした部屋で、艶のある木目調の家具が落ち着いた雰囲気を醸し出している。その部屋で一番目を引いたのは巨大なクローゼットだった。テーブルにつくと奥から側仕えが紅茶を運んでくれたので、お礼をして喉を潤した。

「先日は本当にありがとうございました。おかげで多くの騎士達を救うことができ、とても感謝しております」

「いえ、自分の出来ることをしたまでです」

「それでも、それを成す力と意思が無ければ出来ないことです。あなたはとても素晴らしいことをしたのですから、誇りに思ってください!」

「ありがとうございます」

「ところで、ダリア君も2ヶ月後から学園ですよね?どのコースに所属するか決めていますか?」

「コースですか?」

師匠からは学園に入学して3年間勉強する位しか聞いてなかった。コースを選ぶということは、自分の学びたいことを学べる環境にあるのだろうか。

「はい。学園では剣術・武術系統のコース、魔法コース・生産系統のコースがあり、自分の才能に見合ったコースを選択するのです」

そう言われて考えてみると、僕には生産系の才能も興味も無いので、剣術・武術コースか魔法コースということになる。

「う~ん・・・、フリージア様はどちらにされるのですか?」

すぐには決められなかったので、彼女の事を聞きながら場を繋いで時間を稼ぐことにした。

わたくしですか?そうですね・・・本当は【裁縫】の才能を活かして服飾店を経営したいところですが、聖女と称される私の将来は決まっておりますので」

彼女は『内緒ですよ?』と人差し指を口許に当てて夢を語ってくれたが、彼女の立場としてはそれは叶わぬ夢なのだろう。

「というと、フリージア様は光魔法を活かすために魔法コースですかね?」

「ええ、そうなりますね」

正直なところで言えばどちらでも良いけど、武術系統の場合に鍛練の過程で組手とかをすると、相手が怪我しないように加減するのが面倒そうだった。その点、魔法なら的に向かって放てばいいだけのように思えるので、そういった面倒がなさそうな魔法コースを選ぶことにした。

「では、私も魔法コースにしようと思います」

「まぁ、一緒ですね!わたくし同年の知り合いが少ないもので心細かったですから、嬉しいです!」

彼女は満面の笑みで喜んでくれたので、魔法コースを選択して良かったのかもしれない。

「こちらこそヨロシクお願いします!」

「そうそう、魔法や武術系統のコースは入学時に実力を測るテストがあります」

「テストですか?」

「はい。その成績に応じてクラスを分け、更に寮に下宿する方は部屋のランクも変わるらしいです」

「部屋のランク?」

「それぞれのコースの上位10人であれば個室が与えられるようです。ただ、王都の貴族達は自分の屋敷へ帰りますので、ほとんどは周辺貴族が独占するらしいですよ」

「なるほど、貴族の血筋であれば才能の数は平民の倍以上ですからそれが順当ですね。個室なら気兼ねしないで良さそうなんですけどね・・・」

「ふふふ、ダリア君なら間違いなくトップになれますよ」

「ありがとうございます」



 話しも一段落してお代わりした紅茶も無くなってきたので、そろそろお暇しようとしたが、彼女はまだ話したいことがあったらしく引き留められた。

「ダリア君は服に興味はありませんか?」

「服ですか?」

「はい!わたくしの才能に【裁縫】があると伝えましたが、服を作るのが趣味なんです!」

この部屋に入った時に巨大なクローゼットがあったのはそう言う訳かと納得した。どうやらあの中には彼女の作った服が大量に入っているのだろう。

「実はそれほど興味は無くて・・・着れればいいというような感覚でして・・・」

あまり真っ向切って興味が無いというのも失礼だと思ったので、歯切れの悪い返答になってしまった。

「ふふふ、まぁ男の子ってそうですよね。でもダリア君ほどの実力があれば、今後は社交の場に出ることもあります。ですから今の内から衣服に興味を持たれてもよろしいと思いますよ」

一応社交の場でのマナーや常識としてどのような服装がいいかは学んだが、より詳しそうな彼女からも学ぶことに否はないだろうと思った。

「確かに仰る通りですね。良ければ教えて頂けませんか?」

僕がそう言うと今まで見たこともないような笑顔で彼女は立ち上がって喜んだ。

「良かった!わたくしほとんど神殿服しか着れないもので、作っても誰にも着て貰えなかった服達が喜びます!」

どうやら彼女は自分の作った服に対しての愛着が凄いらしい。後ろの側仕えの人に指示を出しながら、クローゼットに入っている服を持ってこさせていた。

「さぁ、ダリア君!まずはこの服から着てみてください!あっ、着替えはあちらの部屋を使って下さい!」

怖いぐらいの迫力で服を押し付けられ着替える部屋に押し込められてしまった。

(あれっ?コーディネートの方法とかを教えてくれるんじゃ・・・?)

とはいえ、今さら断れないような雰囲気だったので、渋々と手渡された服に着替え始めた。渡された服は白のYシャツだが、ボタンを留める縦のラインがフリル状になっており、ズボンは黒の半ズボンでサスペンダーがついている、いわゆる貴族のお坊っちゃまが着るような服だった。

(これ、もっと小さい子向けの服なんじゃ?・・・でもサイズはピッタリか・・・)

疑問を覚えながら着替え終わると、おそるおそる扉を空けて彼女に着替えた服を見せた。

「あの~、どうでしょうか?」

すると彼女は両手を胸の前で組み、爛々と目を輝かせて物凄い勢いで近づいてきた。

「まぁ!思った通り良くお似合いです!!つ、次はこ、コレを着てください!」

彼女の勢いに押されるままに、また着替える羽目になってしまった。それから2、3着の服を着替えると更に興奮が加速した彼女はどんどんと服を持ってくる。既に着せ替え人形のように言われるままに着替えていたが、1つの服を見た時に着替えの手が止まった。

(こ、これは!?どう見てもスカートだよな?えっ、間違えたんだよね?)

そう思い、少し扉を空けて彼女に確認すると―――

「ダリア君!それが王都での・・・いえ、わたくしの提案する最先端な着こなしなのです!!」

疑問に思いつつも、彼女の圧倒的な勢いに逆らえずその服を着ることになった。ただ、僕としてはその服はどう見ても女性もので、艶のある黒い生地でフリルを大量にあしらったドレスの様な服だった。

「あの~、これ本当に男性用ですか?」

「っ!!!ダリア君・・・最高っ!!!」

着替えた僕を見た彼女にはもはや聖女然とした雰囲気はどこかへと消えて、荒い呼吸と共に恍惚とした表情をしていた。

そして、この着せ替えは彼女が満足するまで延々と続いてしまったのだった。
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