エクセプション

黒蓮

文字の大きさ
131 / 213
第八章 戦争 編

戦争介入 9

しおりを挟む


side ティア・ロキシード

 私にとって、改革派閥の反乱から始まる一連の騒動はまさに激動の日々だった。

 学園トーナメントの乱入に端を発した騒ぎは、やがて王国中へと広がりを見せた。学園は休校となり、私はしばらく屋敷から出ることが出来なかった。お父様の仕事の関係で、それなりの情報には触れることが出来たが、そこで聞いた話はにわかには信じられないようなものばかりだった。

(公国が今回の反乱に関与した疑いが?しかも、マーガレットを捕らえて幽閉してるなんて・・・)

  彼女とは同じクラスの学友としてだけではなく、フロストル公国へ一緒に行ったほどだ。ドラゴンが現れるという騒動もあって、予定より滞在は短かったがとても楽しかった思い出がある。マーガレットも立場上忙しかっただろうに、私達の面倒を見てくれていた。そんな彼女が幽閉されているなんて信じられない気持ちだった。

 とは言っても、ただの子供である私には何も出来ない。彼女を助け出すことも、待遇改善の嘆願を出すことも出来ない。何故なら、私も所詮お父様の政治利用される道具の一部に過ぎないと分かっているから。

 お父様は私が異性と知り合うのを良く思わない。表向きの理由としては、私を大切に思っているからだと昔からお母様や使用人には聞いていた。でも、大きくなっていろんな事を学ぶうちに、そうでは無いのだと気づいた。

(お父様は私を政略結婚の道具と見ている・・・)

 侯爵家の娘として、宰相の娘として生まれた私には自由に恋愛したり、自分の選んだ結婚相手と結ばれる未来はないと理解はしていた。それでも、成人に近づくにつれ覚悟はしていても憂鬱な気分になってしまうのは否めなかった。

(ダリアと『神人』について議論を交わしたのは楽しかったな・・・)

 今思い出しても頬が緩む。身近にそんな話が出来る人がいなかったので、その思いはひとしおだった。

(またダリアと話したいな・・・)


 それから数日、また驚く情報を聞いた。

(ダリアが改革派閥の盟主を討ち取って、貴族に叙爵じょしゃく!?)

 確かに、王国で反乱を起こした派閥の首魁を討伐したということはそれだけの価値はあると思うが、成人もしていない子供に貴族位を約束するなんて前代未聞だと思った。それと同時に少し考えてしまった。

(ダリアほどの実力者なら将来は有望・・・もっと爵位が上がってもおかしくない。それなら、ダリアと結ばれる将来もあるのかな・・・)

 ふっ、と浮かんだ妄想だった。でも、そう意識した時、彼との楽しい思い出が浮かび上がってくる。

(それも・・・良いかな!)

 どうせ結婚させられるなら、一緒に居て楽しい相手の方が良い。彼のことが好きだと言う訳では無いと思うが、一緒にいて疲れないし、共通の話題もあるし、なにより彼ならばどんな困難に陥っても助けてくれそうな、そんな安心感があった。


 そんな空想をしてニヤニヤしていた翌日、お父様の書斎に呼ばれて、更に衝撃的な報告を聞くことになった。

(ダリアが反逆者!?しかも、フリージアとシャーロット、マーガレットを連れて国を去った!?)

 訳がわからない混乱の中、お父様から更に衝撃的な話を聞くのだった。

「よいかティアよ、此度の件が落ち着けばお前は第二王子と婚約することになる。王族の一員となっても恥ずかしくないように、更に研鑽に努めなさい。これでお前の将来は、幸せが約束されたも同然だ!」

 第二王子と言えば、私よりも少し年下だったはずだ。王族に望まれる【経営】の才能を持ち、将来【統治者】の才能になるだろうと、王位を継ぐことを熱望されている人物だ。しかし、そんな【才能】を持っているがゆえに、周囲に甘やかされて育った弊害が結構な噂となっている。正直、弟に王位を奪われまいと悪戦苦闘している第一王子の方が好感が持てる程に。

(そのやり方は置いておいてだけど)

 その話を聞いて、正直少し前までの自分の妄想が消えてなくなっていくことに焦燥感を感じた。

(ああ、これで私の人生はもう・・・)

  今なら分かる、「ダリアでも良い」ではなかった、「ダリアだから良かった」のだと。とは言え、もうお父様が話を決めてきた事。唯々諾々いいだくだくと従うしかない。

「分かった。恥ずかしくないよう努力する」


 しかし、その数日後にまたしても事態は急展開を迎える。

「わ、私が公国へ?」

「そうだ、現状王国が2ヶ国との同時戦争をするのは不味い。帝国とはある程度話はまとまったが、公国は一向に首を縦に振らぬのだ。そこで、私が直接公国へ出向き女王陛下と交渉する」

「私は何をすれば?」

「何もしなくて良い。ただそこに居ることが重要なのだ」

「・・・分かった」

おそらくお父様は、私とマーガレット殿下の情に訴える事も想定しているのだろう、もちろんそれだけでは無いと思うのだが。

「出立は明日早朝だ、準備しておきなさい」

 そう言われ、私は準備の為に自分の部屋へと戻った。2ヵ国からの宣戦布告を受け、これから王国はどうなるのだろうかという不安を抱えながら、公国へ旅立つのだった。


 公国へはどこから調達したのか、スレイプニルを使って移動した。以前にも乗ったことがあったが、やはり馬車と比べると何倍も早く移動できる。前方には、宣戦布告のために来た公国の使者の馬車が走っており、それに追従している格好だ。今回公国へ使者として行くのは私とお父様だけだ。他にこの馬車に乗っているのは護衛の騎士4人と、何故かお父様が『調しらべ』というお店から雇った女性2人組だった。

 最初に挨拶を少し交わしたが、どうも護衛という感じはしなかった。アインさんとツヴァイさんと名乗った2人は、おそらくお父様から別の事を命じられているのだろう、そんな予感がした。

 移動中これまでの事を色々と考えていたが、いよいよ目の前には美しい湖のある公国首都、レイクウッドが見えてきていた。

(これから私も王国も一体どうなるんだろう?ダリアは私の敵になっちゃったのかな・・・?)

 不安に押し潰されそうになりながらも、それを表情に出すこと無く、馬車から見える公国の景色を眺めるのだった。




 みんなと海で遊んだ翌日、公国へティアと宰相が来ていることをみんなに知らせると、シャーロットがその目的を考察してくれた。

「おそらくですが、戦時協定の交渉が上手くいかず、直接宰相が女王と交渉しに来たのではないかと。ティアさんはその付き添いと言いますか、公国側の情を引き出すための存在だと思いますわ」

「いくらマーガレット殿下と友人だからと言って、そんなことで国の動きを変えさせることなんて出来ますか?」

そんなフリージアの疑問に、シャーロットは淀み無く答える。

「本命の交渉材料は別でしょうが、少しでも有利に働けば良い程度のものでしょう」

 シャーロットのその言葉に何だか釈然としない気持ちになる。以前ティアと共にお父さんである宰相に会った時には、娘の事を大切に思っている父親という印象だったのだが、今は使えるものは何でも使うという、王族の考え方とさして変わらないように感じてしまったからだろう。

(きっとティアも宰相の娘として、色々大変な思いをしているんだろうな・・・)

 そんなことに思いを馳せていると、シャーロットが僕に話掛けてきた。

「ダリア様、私は今回の宰相が来たことの情報収集のために、一度公国の王城へ戻りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「えっ?それは良いけど、他の人に見つかったら面倒になるんじゃない?」

彼女の願いにメグの顔を確認するように答えた。

「う~ん、保養地への移動手段は伝えてありますから問題ないでしょうが、一人では不味いですね。メイドを付けますので、一緒に行動するぶんには大丈夫だと思います」

「それだったら、私も一緒に行っても良いでしょうか?」

珍しくシルヴィアがそんなことを言い出した。

「構いませんが、何かありましたか?」

メグも訝しげにシルヴィアに聞き返した。

「はい。もしティアさんに会えるのなら、少し伝えたいことと、聞きたいことがありまして」

「・・・それはもしかして、私があなたに聞いたことみたいにですか?」

「はい、そうです」

「なるほど、そういうことですか」

 シルヴィアとメグは訳知り顔で、お互いに見つめあって笑顔になっていた。何となく何をしたいのか分かった気がするが、ティアは少なくとも王国の使者として来ているので、話せる時間があるかは分からない。しかし、そんな心配とは裏腹に彼女達はどうティアと接触するかについては既に考えがあるらしかった。2人でぼそぼそと作戦会議をしているようだった。

「おそらく使者として王城に少しの間滞在するはずですので、ティアさんが一人になった時を見計らって行きましょう」

「マーガレット殿下も一緒に行きますか?」

「もちろんです!」

「良いんですか?またライバルが増えますよ?」

「新しく作らせる気はありませんが、ティアさんの想いは知らないわけでもありません。それに以前言ったように、私は平等な状況で選ばれてこそ胸を張って彼の隣に立てるのです。シルヴィアさんこそ良いのですか?」

「私も殿下のその言葉を聞いて、同じ想いになったんですよ?」

「ふふふ、そうですか」

「はい、そうです」

「「ふふふ・・・」」

 お互い親しげに話しているようで、何故か対立しているような雰囲気がそこにはあった。こういう時には下手に立ち入らない方が良いということは直感で分かっているので、そっとしておいた。

「では、私はこのリストにある書物を持ってきていただければと思いますので、ダリア君、お願いできますか?」

2人のやり取りを遠巻きに見ていた僕に、フリージアがメモを渡してきた。それは昨日、知識を得ようということで図書館から持ってきて欲しい本の一覧が書かれていた。

「分かりました。後で取りに行ってきますね」

「お願いしますね」

 こうして、これからの行動が決まった。ただ、そんな中シャーロットが何だか不安げな表情をしていたのだが、今の僕にその理由を知るよしはなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...