BloodyHeart

真代 衣織

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魔人はバイ?

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   米田秘書官を送り届けた後、総本部に戻って作戦確認を終え、羽月は自宅マンションに帰った。
 玄関のドアを開けると、綺麗に磨かれた靴が目に入る。左の壁に嵌め込まれている姿見鏡も綺麗になっている。
「あっ、相良少佐殿、お帰りなさい」
 リビングに続くドアを開け、満面の笑顔をリリア王女が向けてきた。
「ただいま。色々綺麗にしてくれて、ありがとな」
「お世話になってますから」
 当然の様に言うリリア王女を横目に、羽月はビジネスバッグを置き、洗面室に入る。
 洗面台も、掛けているコップも綺麗になっていた。
 メイドはいるよな……。
 手を洗いながら、羽月は頭の中で疑問を呟いた。
「お夕飯、出来ましたよ」
 そう声を掛け、リリア王女は電子レンジからキッシュを取り出した。
 魔人は寒暑にとても強い。リリア王女はミトンや布巾を使わずに素手だ。
 リビングに入った羽月は冷蔵庫を開けた。水とスポーツドリンク、ハイボールの全く同じ物が買い足されている。
 子供は酒を購入出来ないが、店員がリリア王女を外国人だと誤認し、日本語は通じない思ってしまったので購入出来た。
「買い足しといてくれたのか。助かった」
「はい。アイスボックスも同じやつを買っておきました」
「気が利くな」
 ねぇちゃんに、パシられてたのか……。
 疑問を浮かべながら、テーブルの上にあるレシートを手に取る。買っているのは、安いスーパーで安売りしてある品物ばかりだ。
 金銭感覚は普通か……。
 声には出さずに羽月は呟く。
「あの……昨日の分と、志保さんから頂いた服とかの、領収書か履歴を頂けませんか? 帰ったらお支払いします」
 控えめにリリア王女は尋ねる。
「別にいい。俺達はふざけていただけだ。あれくらい奢ってやるよ」
「駄目ですっ! ママに殺されますっ」
「んっ、女王陛下は怖いのか?」
「怖いってゆうか、厳しい……。でも、正しいですっ」
「正しい……ね」
 意味深に漏らす羽月が気になったが、根掘り葉掘り質問するのは失礼にあたると思い、リリア王女は聞かない事にした。
「美味いっ! すげー美味い」
 リスの様な顔で伊吹は絶賛する。
 絶賛しながら、ビーフストロガノフとカボチャのキッシュ、ヴィシソワーズ次々と口に運び豪快に食べ続ける。
「嬉しいっ、よかったです。お姉ちゃんが、よく褒めてくれたんです」
 食べ始めた手と口を止め、リリア王女は心底嬉しそうな笑顔を見せた。
 ——もうすぐ会える! 
 大好きなソフィア王女との再会を思い浮かべると、自然と胸が踊り出す。
「汚ねぇ食い方すんなよ。……金取れるレベルだな」
 伊吹と比べれば軽薄だが、羽月も褒めた。
 仕事が終わり自宅にいるので、羽月も伊吹も着崩してリラックス出来る格好をしている。
 羽月はネクタイを外し、ワイシャツのボタンを二つ目まで外して袖捲りし、ズボンから裾を出しいる。伊吹は上着を脱いでいて、ショルダーホルスターを着脱している。
「ありがとうございます。フォーク取りましょうか?」
 素手でキッシュを食べる二人を見て、リリア王女は尋ねたが、同時に「いい」と断られた。
 立ち上がった羽月が、冷凍庫からアイスボックス、瀬戸内レモンを取り出す。それをグラス三分の一まで入れ、冷蔵庫から出したハイボールを注ぎ入れた。
「羽月っ、俺も」
 催促した伊吹に、羽月は同様に入れて差し出す。
 氷と違い薄まらないので、この割り方はかなり人気がある。居酒屋でも注文出来るほど定番の割り方だ。
「おかわり、どうします?」
「いる!」
 透かさず、皿を前に出した伊吹の頭を羽月が叩く。
「っいてぇ」
「自分でやれよっ」
「えっ、やりますよ!」
 叱る羽月に動揺しながら、リリア王女は両手を前に出した。
「いい。リリアは客だろ」
 断りを入れた羽月は、伊吹と二杯目のビーフストロガノフを装り入れた。
「あの、折原大尉殿……」
「なげーよっ。俺等、堅っ苦しいの苦手だから、お兄さんでいいよ」
「全員、お兄さんじゃねぇか」
 椅子に戻った羽月がチクリと刺す。
「じゃあ、伊吹さん」
「なぁに?」
 遠慮気味に質問するリリア王女に、伊吹が戯けた返事をした。
「志保さんと羽月さん、どちらと付き合っているんですか?」
「えっ」
 ゴホッ……ゴホッ……。
 ハイボールを飲んでいた羽月は、思わず噎せた。 
「やめろよ……。気持ちわりぃ」
 羽月の顔にも声にも嫌悪が丸出しだ。
「やぁだ、ダーリン。十一の頃から仲良しじゃない」
 戯ける伊吹に「きめぇ」と、羽月は悪態を吐く。
 リリア王女は二人のやり取りを、きょとんとしながら見ている。
「志保が彼女だよ」
 伊吹が笑顔で答える。
「コイツは腐れ縁だ」
 断言する羽月に「ひでぇ」と伊吹が文句を垂らす。
「魔人は、バイが多いんだっけ?」
 伊吹の質問に「はい、私もです」と、リリア王女は答えた。
 魔人は両性愛者が多く、自分と同じ同性を好きになるのは当たり前の事と認識されている。羽月の反応を、リリア王女は軽蔑はしないが不思議に感じた。
  
 
 
 
 
 
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