BloodyHeart

真代 衣織

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ざまぁみやがれ

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 内藤が、金庫から現金を取って来るように部下に命じる。
 アタッシュケースに入れた五千万円を、内藤の部下が羽月に確認させた。
 ボスの隣に前屈みに座り、脚の間で両手を組み、羽月は目で確認し「了解」と内藤に告げた。
「誇っていい事だ。君は部下を危険から守った良い隊長だ。合理的で人道的な英断だと、私は高く評価しよう」
 真摯な言葉を並べる内藤に、羽月は馬鹿にした顔を向ける。
「良い隊長には納まらねぇよ、人道にも……。それでも、金で信用が買えねぇ事ぐらいは分かっている」
 羽月が言い終わると、旭はバッグを置いた。鋭い眼差しを隣に立つマフィアに向ける。
「てめぇら如きに買える程、俺の狂気は安物じゃねぇよっ!」
 そう怒鳴り、羽月は応接テーブルを蹴り上げた。
 内藤は顎をぶつけ気絶し、隣にいた部下は肋骨を複数折り、血を吐き倒れる。
 内藤の後ろに立っていた部下が羽月に銃を向けるが、羽月は腕を掴み、腹に膝蹴りを入れ倒す。
 その後ろで、銃を抜こうとした構成員の顔を、旭は殴り飛ばす。
 羽月の隣に座っていた構成員が、ソファーを蹴り飛ばし、旭に殴り掛かる。
 旭は、呆然と腰を抜かしているボスの頭を左手で掴み、拳を当てさせる。血まみれの顔で気絶したボスを離し、腹を蹴り上げて構成員を倒した。
「——安上がりな連中だな」
 ズボンのポケットに手を入れ、羽月は軽々しく言い放った。
 全員を倒した羽月と旭は、煙草に火を点ける。
「そろそろ出るか……。まぁ、その前に……」
 言い出し、羽月は内藤のプレジデントデスクに目をやる。
 デスクの上にある龍の置物を手に取った。
「翡翠だ。こいつは貰って行くか」
「悪趣味ッスよ」
 眉を顰めて煙草の煙を吐き、旭は軽蔑の視線を送る。
「一人一億になる。どうせ押収される、ドラキュラから貰った違法品だ」
 言いながら、羽月は土台の底を開け鑑定書を確認した。
 五千万円の入ったアタッシュケースと翡翠を持ち、二人は社長室を出る。エレベーターで人気のないフロアの三階まで降りた後、階段で一階に行く。人目の付かない裏口業者出入口から外に出た。
 旭の車を停めたコインパーキングに近付く。
 ニヤリと羽月は口端を吊り上げた。
 ——一瞬、最上階近くに上がったエレベーターがオレンジに光った。
 轟音を立て、エレベーター付近が爆発すると、瞬く間にオフィスビル中に炎が燃え広がった。
 旭のトートバッグに入っていたのは発火装置だった。それが炎上し、大惨事を引き起こしたのだ。
 オフィスビルに入る前に、羽月と旭は防犯カメラをジャミングさせていた。二人を見た受付係の記憶以外には、オフィスビルに二人がいた証拠は存在しない。
 防火設備を外していた穂積は、ジャミングに気付いて立ち去ったか……。
「ざまぁみやがれ」
 声には出さずに計画を見抜き、羽月は吐き捨てた。
「無関係な人まで殺したな」
 秘めていた怒りを旭は漏らす。
 この計画に、旭は反対し続けたが、全く聞き入れてもらえなかった。
「どこが無関係だよ。薬物、売血以外にも余罪だらけの悪の巣窟——」
 助手席側のルーフに腕を掛け、羽月は車を挟んで言葉を投げた。
「事務所の悪事に気付いた奴らは、事故死や自殺に見せかけ殺された。売れない奴らは売り飛ばされた。そんな悪事を知ったところでダンマリ続け、犯罪に加担し続けた連中だ——。連帯責任は当然だろうが」
 納得する様子のない旭の表情に溜息を吐き、羽月は車に寄り掛かり、事実と持論を淡々と述べる。
「脅しには充分な凶行だ——。ちょっとは人の気持ち考えたらどうッスか⁉︎ リリア王女にしたって、可哀相ッス!」
 運転席側から一睨した後、旭は声を荒げた。
 旭の車は国産スポーツカー、日産のGT-Rだ。
「愛は金で買えないが、愛じゃ何も買えない」
 しれっと、羽月は口を開く。
「はぁっ⁉︎」
「気持ちの問題と現実問題は別だ。一緒にしてねぇで、分けて考えろっ」
 きっぱりと羽月は言い切る。
 腑に落ちない旭だが、何を言っても無駄だと諦め、反論はしなかった。
 
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