BloodyHeart

真代 衣織

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修羅の思惑

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「——大丈夫。全部済んでる。こっちは何時でもオーケーだ」
 警察部隊総本部内にある総合通信センターに、電話をしながら入って来たのは、後方総司令官である名糖和左だ。
「はい。ありました。御協力、ありがとうございます——」
 明るい髪色の若い女性が電話で御礼を伝えている。
「今、結城中佐に情報送ったよ」
 向かい合う眼鏡を掛けた真面目そうな若い女性は、電話を切った後で声を掛けた。
 二人の女性は、上座に座る和左から、最も近い位置がデスクになっている。
「春ちゃん、誰から?」
「電力会社からです」
 和左の問いに、明るい髪色の女性が愛想良く即答する。
 明るい髪色の女性は奥村小春《おくむらこはる》、この部署で一番若い二十三歳だ。
 春ちゃんと呼んでいるのは、個人的な好意からではない。和左は、ここでも全員を名前かニックネームで呼んでいる。
「共用ページに、詳細な情報が書かれていると、お電話頂きました。ドラキュラの一人が幻術使い。それにより侵入され、警備員の全員が殺害されました。幻術はステルスマントと同じく、サーモグラフィーには無効だそうです」
 向かい合う眼鏡の女性が説明する。
 名前は橘一華《たちばないちか》。和左からは、いっちーと呼ばれている。年齢は二十五歳だ。
「そっか。警備員は亡くなっちまったか」
 訃報に和左の表情は曇る。
「かずさん。俺等は羽月の指示で、ドラキュラ帝国の軍事広報から、人間界に関するプロパガンダを洗ってまっす」
 パソコンを見続けている四人の内、垢抜けた雰囲気の若い男が報告した。
「了解。にいや」
 和左は視線だけじゃなく、しっかりと顔を見て言う。
 にいやというニックネームで呼ばれる男は三宅豊《みやけゆたか》。普段から若者っぽい軽薄な口調が目立つ三十二歳だ。一方で年相応に、周囲に気を配る大人な一面もある。故に、周囲は信頼と親しみ易さを込めて、にいやと呼んでいる。
 軟派な雰囲気からは想像出来ないが、実はこの部署で和左の次に重要なポスト、部長だ。
「相良中佐が仰っていました。狙いが犯行声明通りなら、アメリカの原発を占拠する。ドラキュラの目的は他にあると——」
「確かに——。言う通りおかしいな」
 橘一華から伝えられた羽月の推測に和左は理解を示す。
「プロパガンダに勤しむなら、広報には本当の目的が隠れていると、教えて頂きました。ですが、こちらはまだ見つけられていません」
 そう言い、橘一華は溜息を吐いた。
「大丈夫だよ、いっちー。羽月なら対応を準備しているよ」
 和左が笑顔で言葉を掛けるのは、橘一華の不安を払拭したいからではない。羽月の作戦に、絶対の信頼を置いているからだ。
「かずさん! ありましたっ。これじゃないですか?」
 興奮しながら三宅豊が声を上げた。
 手招きされ、和左はパソコン画面を見にいく。
「間違いないな。これだ」
 目を向けた映像に和左は確信を得た。得たと同時に顔が強張る。
 見つけた映像には、これから起こす予定であろう、戦慄の目的が隠されていた。
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