BloodyHeart

真代 衣織

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タイマー

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 同じ建物にいるリリアは、必死にドラキュラ軍人を追っていた。
 何度も飛ばされる血刃を刀で振り払う。
 飛びながら攻撃を避け、左手にあるスマートフォンの画面を確認する。まだ、タイマーは起動されていない。
 ドラキュラ軍人が一階に下りたところで、リリアは追い付いた。
 一階に下りたドラキュラ軍人は剣を床に刺す。
 階段スペースだった場所が変わりだす。
 原子炉内部に変わった。
「今更無駄ですっ!」
 動じずにリリアは斬り掛かる。
「そいつはどうかなっ⁉︎」
 剣を構え、ドラキュラ軍人は余裕を言う。
 リリアの斬撃を躱した。
 リリアの刀が動かない。何処かに引っ掛かっている。
 実際の場所である階段、手摺だ。
 背中を斬られそうになるも、尻尾のシールドで防ぐ。
 左手のスマートフォン、タイマーをドラキュラ軍人は起動させようとする。
 リリアは刀を離し、左腕を振る。ピンクの刃を浴びせた。
 間一髪、タイマーの起動を防ぐ。
 ドラキュラ軍人は片手に持つ剣で刃を振り払う。
 剣から刃を出すも、リリアの左手から出すシールドで防がれる。
 ドラキュラ軍人は剣撃を浴びせようとする。
 上体を沈め、リリアは素手でボディーブローを入れた。ドラキュラ軍人は嘔吐く程度だ。
 だが、隙が出来る。リリアは落ちた刀を即座に拾う。
 両者の剣撃が交わる。
 何度か剣撃を弾き合った後、場所が元の階段スペースに変わった。
「ちっ!」
 ドラキュラ軍人が舌打ちする。
 リリアの刀がドラキュラ軍人の剣を捕えたのだ。
 動きが止まった剣撃を、リリアは体当たりで一気に押す。
「……っ邪魔くせぇ、なっ!」
 苛立ちを漏らした直後、ドラキュラ軍人はリリアの腹に強烈な蹴りを入れた。
 リリアの体が、激しく手摺に叩き付けられる。
「教えてやるよっ! この計画を、化け物作りを発案したのは誰かをなっ」
 怒りを露骨に、ドラキュラ軍人は怒鳴り散らした。今まであった余裕は、既に一切失くしている。
 リリアは痛みを堪えるのに精一杯だ。明かそうとする裏事情に反応する余裕もない。
「この化け物作りを企て、計画していたのは人間だぞっ!」
「だから、何ですか……?」
 リリアにとっては、心底どうでもいい事らしい。ただ痛みに顔を歪めている。
「ロシアだっ! 植民地を得る為に、人体実験を何度もして、化け物を作りを編み出したんだ!」
「だから、何が言いたいんですか?」
 痛みに耐え、リリアは刀を前に構えた。
「卑しく漁夫の利を狙い、毒を撒き、同じ人間を化け物にするっ! イカレた思考を持つ、醜い生物が人間だ!」
「その蛮行から、人間を守ろうとするのも人間ですっ!」
 断言し、リリアは斬り掛かる。
「おめでたい頭だなっ⁉︎ お前も愚行を見ればよかったんだ!」
 ドラキュラ軍人も斬り掛かる。
 このドラキュラ軍人は、直接目にしていた訳ではない。プロパガンダの為に、加工した映像を見たまでだ。誇大に化け物作りを推奨し、核の所持を誇示している映像だった。
「あなたも見た筈だ! 命懸けで、危機に立ち向かう人間をっ! 見てないだけで、ロシアにだっている!」
 強く踏み込み、リリアはドラキュラ軍人の剣を払った。
 剣が飛んでいく。
「これで終わりだっ‼︎」
 しまった——。
 ドラキュラ軍人はスマートフォンを見せ付けた。
 タイマーが起動されてしまった。
 仕掛けた場所も不明のまま、残り五分で爆発する。
「あめぇよ——。もう逆転のゲートは開かれている」
 羽月の声がする。
 後頭部を撃たれ、ドラキュラ軍人は銃弾に倒れた。
 階段から羽月が下りてきた。
「はっ、羽月さんっ……」
 訪れてしまった絶望に、リリアは膝から崩れる。愕然と雲らせた目を見開いている。
「よう——。意外とピンピンしてやがる」
 マシンピストルを仕舞い、歩き迫る羽月は何故か余裕に楽しげだ。
「たっ、大変ですっ。何処かに爆弾が……タイマーが……。速く避難、逃げてっ!」
 震えながらリリアは訴える。
「これだろ? 探し物は」
 羽月はボディーバッグから、仕掛けられていた爆弾を取り出した。既に回収済みだった。
「しょっ、処理班、液体窒素はっ⁉︎」
 確かに、授業ではそう習っている。迂闊に触らないようにとも教えられた。驚きながら立ち上がり、リリアは羽月の腕を掴み必死に尋ねる。
「必要ねぇよ。この程度なら簡単だ」
 羽月はナイフを取り出す。起動しているタイマーの裏面を、螺子を切って外した。
 タイマーから点火装置に、二本の配線が伸びている。
「他に使われていない色は?」
 余裕綽々と羽月は内側を見せ、質問する。
「赤です」
 落ち着きを取り戻し、リリアは答えた。
「そっ。切っちゃいけない線なら、作り手は目立たせている筈だ」
 片方の白い配線を羽月は切った。
 残り三分を切ったところで、タイマーは停止した。
 リリアはホッと、手を当てていた胸を撫で下ろす。
 そして、ハッとする。
 来る前に、怒っていた羽月を思い出したからだ。
 羽月は何食わぬ顔で、束ねていた髪を解いている。
 思わず冷や汗が出る。
 上目に顔色を窺い、リリアは申し訳なさそうに口を開く。
「あっ、あの……羽月さん。この度は、再三なるご迷惑をお掛けし……」
「何言ってんだ? 掛けられた方だろ?」
「えっ?」
「老害共に振り回されて、散々だったな」
 羽月は怒っていない。それどころか薄く笑っている。
「で、でも……」
「止めとけ。勘違いされるぜ。それとも、怒られたいのか?」
 意地悪く、羽月は問い掛ける。
「やっ、やだぁいっ」
 何時もの羽月を知らないリリアは、十分過ぎるほどの恐怖を植え付けられていた。
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