異世界でぼちぼちやってます。

補陀落壱號

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泥使いのオッサンのはなし

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 泥使いのオッサンのはなし
 
  
 ーーーーーーーーーー
 
 
 *01*
 
 
「ぬしゃの生得の才は『魂分け』じゃの。」
 
 見の占部と呼ばれる老婆はそう曰わった。
 
 晩飯を喰って、腹ごなしに散歩をしていたらいきなり周りが明るくなった。
 周りを見回すと、知らない街角に立っていた。
 どう見ても日本じゃない。
 狼狽えながら元の道に戻ろうとうろついていたら、ゲームに出てくる衛兵みたいな格好をした奴らに囲まれた。
 何かを話しかけてくるが全く意味がわからない。
 オレも日本語、英語、北京語、知ってる言葉で話しかけるが全く通じない。
 そのまま石造りの神殿のようなところに連れていかれて、神官のような奴らに引き渡された。
 あちこち連れ回され、いろいろやらされている内に言葉が通じるようになった。
 事情を聞いたが何も教えられずに、この婆さんのところに連れて来られた。
 
「あ~婆さん、オレはどういう状況なのか教えてもらえないか?」
 
「わしゃ、『見』るのが務めなんだがのぉ。」
 
「あちこち連れ回されて、やっと話の出来る人に会ったんだよ。どうか頼んます。」
 
「まあ、よかろ。今日の務めはぬしゃで最後だからの。」
 
「ありがたい、恩に着ます。」
 
「わしが知っとるのは、ぬしゃが街区で保護されたワタリビトで、神殿で迎えの儀を受けて、この占部に連れて来られて、才を見ただけじゃよ。」
 
「あ~、ワタリビトと言うのは?」
 
「オチビトとも言うの。よその世界からひょっこりやってくる連中のことじゃ。」
 
「ああ、やっぱり…、あの戻れるんでしょうか?」
 
「わからんの。ワタリビトはいつの間にか居なくなるからの。帰ったのかもしれんが、わしらにはわからん。」
 
「そう…ですか。迎えの儀とは?」
 
「ワタリビトはほっとくといろいろ大ごとになるんじゃ。だからの、神殿で保護するんじゃよ。そんで神様たちに報告するんじゃよ。そうすりゃ言葉が通じるようになるんじゃ。ワタリビトには妙な才があっての、わしにはそれが見えるんじゃよ。」
 
「才ですか?」
 
「ああ、こっちのもんにも皆、才は有るんじゃが、ワタリビトの才は突き抜けておっての、昔は国を潰したことも亜神を滅ぼしたこともあったのじゃ。」
 
「お、オレは?」
 
「どうかの?わからんの?」
 
「たまわけ、とか言ってたろ?」
 
「『魂分け』じゃよ。己の魂を分け与えて、魔物や精霊なんぞを操る才じゃな。」
 
「魂を分けて大丈夫なのか?」
 
「危ない時は己でわかるそうじゃ。こっちの世でも珍しい才ではあるが、持っているもんはいるからの。どういうもんかわかっとる。」
 
「そうなのか。」
 
「ただの、ワタリビトはの、こっちのもんが思いもせん使い方をするんじゃ。」
 
「…?」
 
「わしがガキの頃、ワタリビトがこのまちの半分を焼き払ったんじゃ。」
 
「え?」
 
「『火霊』の才を持っておったそうじゃ。こっちでもよくある才での、荒ごとでも生業でも使い勝手の良い才じゃよ。その頃、わしの家は、神殿の下働きをしておっての、結界の中におったんで助かったんじゃよ。」
 
「なんでだ?どうして?」
 
「さあの、だあれも教えてくれんかった。言われたのはワタリビトを粗末にするな、じゃった。何度も何度も言われたのう。」
 
「…。」
 
「ぬしゃ、神殿預かりになる。食うもん、寝るとこ、着るもん、貰えるさ、ああ、小遣いもな。だからまあ死ぬこたねえよ。」
 
 ちょうど部屋の外から声がかかる。
 
「ほら、お迎えじゃ。じゃあの、ぬしゃ、生きたいように生きたらええよ。」
 
「あ、ああ、ありがとうございました。」
 
 思わず深々と頭を下げた。
 その後は婆さんの言う通りだった。
 
 
 *02*
 
 
 副神殿長という三十半ばのやり手そうな雰囲気を持つ男が、オレの身元引受人になった。
 まあ、ワタリビトの管理は副神殿長の職掌に含まれているらしい。
 とりあえず落ち着くまで、町外れの修道場で世話になることになった。
 修道場とは、神職の適正がありそうな子どもを教育する全寮制の学校のようなものだが、10歳にならないと才を見ることができないので、実質孤児院らしい。
 才があれば神職、なければ雑用の犬神人として働くらしい。
 
 副神殿長と話しているうちに気付いたのだが、どうにも言葉の意味は通じているようだが、正しい会話として成り立っているのか不安になる。
 オレに対するインプットとアウトプットがチグハグなのだ。
 古典の古語でインプットされて、簡体字の中国語でアウトプットされてるようなもどかしさと違和感がある。
 基本漢字でやり取りしているような?
 カタカナ英語って便利だったんだな。
 婆さんのようにぶつ切りで話してくれるとそうでもないのだが、流暢にしゃべる副神殿長との会話はだんだんと不安になってくる。
 なんとか不安を抑え込んで話を聞いていると、10歳くらいの女の子が訪ねてきた。
 8号室のヘバと名乗った。
 オレ付きの小間使いだという。
 何でも、見の才を持っていて占部に内定しているが、今、導師が不在で宙ぶらりんの状態らしい。で、急遽半年ほどオレの世話係をすることに決まったというわけだ。
 
 ヘバの案内で修道場にむかう。
 途中の街区でこの城市で暮らすのに必要な場所を教わる。
 神前大通り市場。
 会合衆談合所。
 組合会館。
 迷宮砦。
 どこも石造りの立派な建物だ。
 
 合間合間に修道場でのことを聞く。
 修道場には他にもヘバの名前を持つ子が数人いること。
 ヘバは昔の聖女さまにあやかって名付けられたとのこと。
 オレの寝床は離れにあって、年大祭の宿舎に使われているとのこと。
 ご飯は朝と夜の二回食べられること。
 水場がついているのでそこで身体を洗うこと。
冬場は『火使い』『火霊』の才持ちが大人気だということ。
 発火の小魔術を覚えたこと。
 でもお湯を沸かすのは無理だということ。
 取りとめのない話をしているうちに修道場に着いた。
 
 修道場はなかなか立派な建物だった。
 どうも、大火災の後、神意を受けて、焼け野原に今の神殿を建造し、旧神殿に被災者を収容したらしい。
 で、復旧後も、そのまま孤児等を育てて修道場になったらしい。
 神様と人が近い世界はちがうもんだ。
 
 修道場長さんに挨拶した。
 50がらみの気の良いおばさんだ。
 まあ、何だ、よく喋るおばさんだった。
 夕食の準備に呼ばれるまで切れ目のないお喋りに付き合わされた。
 
 ヘバに修道場の案内をされたあと、離れについた。
 離れは元神職の宿舎だったらしく、石造りの3階建てだった。
 1階は神殿の客員用になっているので、オレの部屋は2階の階段脇になった。
 12畳くらいの4人部屋を独り占めだ。
 
 
 *03*
 
 
ここで何をするにしろ、拠り所になるのは『魂分け』の才だろうと思い、数日かけてあちこち聞いてまわった。
 はっきり言って芳しくない。
 オレには魔術的素養が無いらしい。
 なんでも、魔術とは大気中のマナを吸い込み、オドとして体内に溜め込み、オドを介してマナを操る術なんだとか。
 オレはオドを体内にまったく貯めることができない。
 もちろん魔術は使えない。
そして、オドを使った『魂分け』も当然出来ない。
 魔物、精霊、霊体なんかとは絶対無理だって。
過去にもオレのようなオド無しの『魂分け』の才持ちがいて、そいつらが魂分けできたのは、ナリソコナイという野良の魔形、屍人という特殊な死体、神が作ったといわれる魔器だったようだ。
 
 神が作った魔器は百年に一度くらいしか見つからないので無し。
 屍人は、10年~15年に一度迷宮に現れる魔物の特異体に魂を喰われた被害者なので、これも無理。
 消去法でナリソコナイを探すことにした。
城市の東側の沼地に『泥傀』というナリソコナイが結構現れるというのでヘバに案内してもらった。
 東の通用門を抜け、遠くに見える川との中間辺りから沼地になっているらしい。
 てくてく歩いて行くと、随分でかい草が密集している。
 見た目はセイタカアワダチソウに似ている。
 ヘバに聞くと大馬鹿草と呼んでいるらしい。
 焚き付けに使えるので、枯れて倒れた大馬鹿草を集めるのが修道場の子供たちの仕事になっているとのこと。
 この大馬鹿草の密集地には根かじりネズミがいる。これの捕獲も子供たちの仕事となっていて晩飯の肉のために男の子たちが走り回っているらしい。
 まあ、なんだ、大馬鹿草が密集しすぎて子供しか潜り込めないだろう、これ。
 結局、えらく遠回りになるが、渡し場に通じる道を使って、川側から沼地に行くことにした。
 ちょっと気勢が削がれて、だらだらと歩く。
 ヘバに修道場のことを聞いた。
 神前大通り市場に修道場専用の売り場があり、焚付や子供らの作った小物を売っていること。
 一番売れるのはパンで、修道場にはパン用の大きな竈門があり交代でパンを焼いて売り場に出しているとのこと。
 修道場の子供たちは簡単な読み書きが出来て、足し算引き算も出来ること。
ヘバの『見』の才は簡単なモノしか見えないが、ちょっと深呼吸をすればオドの補充ができるので何度でも見ることが出来ること。
 そんなことを話していると、川辺の葦と沼地の大馬鹿草の狭間に着いた。
 ここからなら大人でも沼地の中へ入っていけるらしい。
 
歩いて数分で『泥傀』を見つけた。
 沼地の岸の近くにヌボッと立って?いた。
 見た目は1メートルぐらいの泥の塊に50センチくらいの泥の腕を2本くっつけただけだ。
 大地母神さまが生命を生み出すための練習で作った魔法生物だと言われている。
 ただ、意思も意識も持たないので、生物ではなく魔法の現象だという説もあるらしい。
 触っても、声を掛けても反応しない。
 攻撃しても、反撃はおろか、逃走もしない。
 壊れても、しばらくすれば元通り、それどころか増えていたりする。
 ただ、泥傀の近くで魔術を使うと寄ってくる。
 魔術の発動直前に発生する濃いマナを吸収しているらしい。
 
副神殿長に教わったことを思い出しながら、『泥傀』に触れ、『魂分け』を意識した途端に、オレは泥傀を見下ろしながら、オレを見上げていた。
 一瞬、混乱したが、しばらくするとテレビのワイプのようになった。
 意識しなければ自分の視界で見ることが出来る。
 視界の端に小さく泥傀の視界が写ってる感じだ。
 意識を向ければ泥傀の知覚を共有出来る。
 ただし、かなり画質?が悪いし、近眼だ。
 オレの腰くらいはなんとか見えるが、顔のあたりはぼやけている。
とにかく『魂分け』を使えることがわかったのだ。いろいろ試してみよう。
 夕方まで泥傀を動かしてみた。
 
 
 *04*
 
 
 寝床に潜り込んで『魂分け』と『泥傀』についてわかったことを整理する。
 あのあと、更に2体泥傀を捕まえた。
問題なく『魂分け』が使えた。
 今のところ負担は感じないが、視界にワイプが増えて、ちょっと鬱陶しい。
 このまま増やすなら対策が必要になる。
 泥傀の能力は聞いていた通りだった。
歩く(這う?)のが遅い。
 力が弱い。
 身体が脆い。
 試してみた結果、幾つかのことがわかった。
 地上を這うのは遅いが、泥の中に潜り込めば人が歩くと同じくらいの速度で動ける。
 体内に取り込めば10kgぐらいの物を運べる。
 壊れても10分ほどで復元した。
 視覚は弱いが、かなり精確に振動を拾って周辺を把握できる。
 土に染み込んで地面を崩したり、穴を掘ったりできる。
 直接的な戦闘は厳しいが土木工事、陣地構築とかには使えそうに思える。
 単純労働力としても期待できる。
 他にも何か使えそうに思うのだが…。
 
 *
 
 朝、目が覚めたら、視界がワイプで埋まっていた。
 
 なんだこりゃ?!
 
原因判明、昨日帰る間際に、三体の内、一体に夜の間に他の『泥傀』を捜索するように命じたせいだった。
『泥傀』は他の個体に会うと一度合体してから分離することによって情報の、いや、全てを共有するようだ。
『魂分け』もそのまま引き継がれ、それぞれ泥傀が捜索命令に従った結果のようだ。
 一晩中、捜索してどんどん増えていったようだ。
 とにかく、視界をなんとか確保しようと試行している内に、ワイプの中にワイプをまとめることが出来たのでスッキリした。
 ワイプに意識を向けると、繋がっている泥傀全体がなんとなくわかる妙な感覚になる。
 意識の統合とでもいうのだろうか、自我の無い泥傀だから問題なく一つになっているのがわかる。
 この状態だと全ての泥傀を自分の手足の延長として操れるようだ。
 これは…。
 う~ん、いいのか、こんなの。
 チートを通り越してヤバくないか?
 ん~100超えてるよな。
 負荷がまったく無いのが何とも…。
 いきなり限界がきて、鼻だの、耳だの、目から血が出るなんて勘弁してくれよ。
 ……。
 …。
 ヘバが起こしに来た。
 
 まあ、いっか、なるようになる。
 朝飯を喰って沼地に向かう。
 残りの2体には大馬鹿草の密集地の巡回と、その場に待機し探知能力の確認を命じた。
 待機担当を集結場所に指定していた。
 今は集結した泥傀の間で情報共有されて全ての個体が待機、探知状態になっている。
 
 ヘバに見せてもいいものか?
 この子、お付き兼監視役だよね。
 どうせ、そのうちバレるし、いいか。
 
 沼地の縁で泥傀に呼びかける。
 ボコボコと泥傀たちが頭?を出した。
「ひっ!な、何なんですか、これは?!」
 
「朝起きたら、こうなってた。」
 
「どうしてですか?」
 
「昨日、帰り際、こいつらに他の泥傀を探しとけって命令しただろ。」
 
「ええ、それは、はい。」
 
「どうもそのせいみたいでな。こいつら他のを見つけると合体して一つになってから、二つに分離するんだ。『見』で見たか?」
 
「いえ、まだ。ああ、全部、眷属になってます!」
 
「ふ~ん、眷属なのか。」
 
「はい!眷属です。間違い有りません。」
 
「正直な、こうなるとは思ってなかった。」
 
「え~と」
 
「これ、どうすればいいと思う?」
 
「私に聞かれても…。」
 
「副神殿長はどういうと思う?」
 
「…あの、バレてました?」
 
「バレるバレないの前に、何するかわからんワタリビトに監視を付けるのは当たり前だろ。」
 
「それは、そうですね。」
 
「で、どうなんだ?」
 
「そ、その、私、副神殿長と会ったのあの日が初めてで、ちょっと、わかりません。」
 
「ふ~ん、影衆とかじゃないのか。」
 
「影衆ってなんですか?」
 
「神殿の裏方、汚れ仕事を片付ける奴らのこと。」
 
「神人衆のことですか。」
 
「それは、表の汚れ仕事。」
 
「ん~?、わかりません。」
 
「ヘバは占部にいたのか?」
 
「はい!」
 
 それほど危険視されてないのか?
 無いな。
 じゃあ、他に居るんだろうな。
 意識を泥傀に向ける。
 
『周辺探知』
 
 いないか?
 
 足元の石を拾い、沼の縁に見える岩にぶつける。
 岩に発生した振動が拡がっていく。
 反応有り。
 アクティブソナー大成功ってか。
うへ、嘘だろ! 500mはあるぞ。
 もう一回だ。
 
 うあ!
 離れていく。
 気づかれた。
 はっ、とんでもないな。
「あの、何をしてるんですか?」
 
「影を探してた。」
 
「?」
 
「いい、いい、気にするな。ほら、昨日の続きをするぞ。こいつらのことちゃんと知っとかんと何が起こるかわからんからな。」
 
 
 *05*
 
 
 夕方、修道場に帰ると副神殿長からの伝言が届いていた。
 明日会いたいとのことだった。
 まあ、当然だな。
 とにかく飯だ飯。
 腹が減ってしょうがない。
 
 部屋に戻り、寝床に潜り込む。
 明日のことを考えようとするが、神殿の情報を殆ど持っていないことに気付いた。
 ふん、明日のことは明日にしよう。
 今日のことは今日の内に考えるか。
 現地の人間が喰わないものには食えない理由があるのだ。
 せっかく泥傀という無料の労働力を手に入れたのだ、沼地から川岸にかけて何か無いかと採集をさせてみた。
 理由は修道場の飯が物足りないのだ。
 まあ、思わず影をつついたので、これ以上刺激しないように自制したというのもある。
 どうも何か思いつくとすぐやってしまう。
 思いついたことを考えるということが出来ない。
 ガキの頃からそうだ、やらかしてから慌てて考えるのだ。
 ああ、今はいい。
 結果は、泥傀で採集出来るものですぐに喰えるものは無かった。
 何かしらの加工や下準備がいるものばかりだった。
 
 大馬鹿草の根塊
 拳くらいあるタニシもどき
 細長~いエビ
 爪ばっかり大きいカニ
 ブヨブヨしたナマズ
 蓮根っぽいヤツ
 その他いろいろ。
 
 泥傀が集めてきたものはこんな感じだ。
 ヘバに全部ダメ出しされた。
 毒こそ無いが食べられたもんじゃないらしい。
 この辺り一帯は修道場の縄張りで、食べられるものは大体わかっているらしい。
 
 根齧りネズミ
 黒鮒
 後は春先の柔らかい野草と秋口になる赤い小さな実
 
 こんなところだ。
 トロい泥傀じゃ捕まえるのは無理だな。
 今の季節には実はなってないし、野草も育ちすぎて固くて食べられないらしい。
 屋台で買い食いしたいけど、金もってないし。
 そういえば小遣い貰えるって婆さんが言ってたけど、どうなってるんだ。
 う~ん、明日聞くか。
 
 さて、肝心の泥傀のことだ。
 今日わかったことは、まず、泥さえあれば何度でも再生するみたいだ。
 逆に泥が無いと乾いて干からびて動けなくなるみたいだ。
 地面の下に潜り込ませれば大丈夫なようだ。
 マナがどう関係するかはわからない。
 オレにはまったくマナを感じられないからだ。
 ヘバはなんとなく濃い薄いはわかるらしい。
 壊れた泥傀が再生する時、マナを吸い取っているらしい。
 ん~、泥とマナがあれば再生するのか。
 
 次、性能試験に泥傀100体も使わないので、10体を残して、沼の中に潜って他の泥傀を捜索させた。
 結果、200ちょいに増えた。
 一応打ち止めだ。
 川沿いに捜索させればまだまだいそうだ。
 沼地に集まった泥傀には地上に姿を見せないように命令しておいた。
 個体の能力は昨日の結果と変わりはないが、合体状態でも動かせることがわかった。
 ただ積載量が増えるだけで能力が強化されるわけではないみたいだ。
 あと、形状が変化出来ることがわかった。
 太さ10cm、長さ5mのミミズのようになれる。
 ミミズのように地面の下を掘ることが出来る。
 そして、他の泥傀と連結できる。
 そう、今の段階で、泥傀の活動範囲を単純計算で約1km拡げることが出来るのだ。
 泥傀を増やせばもっと拡げることが出来るわけだ。
 ふん、泥傀をあと200程増やせば、城市の地下にも余裕で手が届くな。
 ああ、土台の下を液状化させれば、どんな城であろうと、どんな城壁だろうと簡単に…。
 こんなだからワタリビトは警戒されるのだろう。
 これ、知られると厄介なことになるよなあ。
 
 
 *06*
 
 
 朝飯を喰って、ヘバと神殿に向かう。
 待たされることなく副神殿長と対面した。
 予想していた通り、泥傀のことをちくりちくりと言われた。
 イエローカードってところか。
 これも予想通りだな。
 神殿から連絡係が就くことになった。
 ま、まあ、いいだろ。
 どうせ監視が強化されるのだから、こそこそつけ回されるよりはいい。
 それと、沼地周辺から川辺にかけては、修道場の子供らに配慮すれば好きにしていいことになった。
 遊び場をやるから迷宮城市に迷惑かけるなということだろう。
 ワタリビトを恐れすぎていないか?
 オレの表情を読んだのだろう。
 副神殿長はワタリビトではなく神を恐れるのだと言った。
 迷宮城市の中心に在る大迷宮は神々が創ったものであり、その歪みにワタリビトは引き寄せられるのだそうだ。
 故に神々は神殿に対してワタリビトの保護を命じたのだという。
 実際、ワタリビトをおざなりに扱えば天罰が下るらしい。
 自力で報復したワタリビトも多いらしいが。
 
 帰りに組合会館へ寄るように言われた。
 大迷宮で魔物を倒して魔核を取り出し、神殿で神様に奉納すれば、神様の祝福をもらえるらしい。
 特にワタリビトには大迷宮のせいで引き寄せた詫びも兼ねてそれなりの祝福がもらえるんだと。
 この迷宮城市にとって、ワタリビトはヤクネタなのだろう。
 よくわからんがめんどくさいアレコレがあるんだそうだ。
 まあ、オレについては話がついたとのことだ。
 大迷宮の案内人がつくので、組合で詳しいこと聞いておけということだ。
 祝福について聞くと、才の強化や神授品が貰えるとのこと。
 その人に必要そうなものを神様がくれるらしい。
一つわかっていることは、才の弱い人間でも1年もコツコツと通って魔核を奉納すれば、背負いカゴくらいの『狭間』を貰えることだ。
 副神殿長が何も無いところから小袋を取り出して見せた。
 
 おお、アイテムボックスだ。
 
『狭間』は魔核を奉納する時に拡張を願うと大きくなるそうだ。
 ほおほお、魔核の質によって拡がる大きさは変わるらしい。
 取り出した小袋を手渡された。
 神殿からの慰労金だそうだ。
 月一で支給するから顔出すようにだって。
 わ~いお小遣いだ~。
 毎晩安酒を一杯飲めるくらいのホントのお小遣いらしい。
 ありがたや、ありがたや。
 まあ、酒はあんまり飲まないから、帰りに串焼きでも買うか。
 副神殿長に暇乞いして組合会館へ向かう。
 
 慌てるものでもないので、ヘバとだらだらと神前大通り市場を冷やかしながら歩く。
 早速、いい匂いが漂ってくる屋台で串焼きを買う。
 もちろん、ヘバにも買い与える。
 すごく嬉しそうに食べている。
 やっぱり、朝夕だけだと物足りないようだ。
 修道場が貧しいというわけではなく、昼食を食べる習慣が無いらしい。
 合間合間に間食をつまむらしい。
 修道場の食堂にも間食が用意してあるので、空腹にはならないが朝夕食の余り物なので食べ飽きたのだそうだ。
 お駄賃を貯めて月に1~2回買い食いするのが楽しみなんだと。
 食い終わった串を屋台の親父に返し、美味かったと伝える。
 魚醤を使っているのかと聞くと、おお特製だと返される。
 どこかで買えるのかと聞くと、塩座横丁だと教えてもらえた。
 調味料、香辛料は大体売ってるらしい。
 もちろん珍しいのはお高いらしい。
 礼を言って離れる。
 
 ヘバに塩座横丁まで案内してもらう。
 市場について、ヘバが教えてくれる。
 大通りに面した場所は神殿が管理していて、一旬毎にくじ引きをして貸し出すらしい。
 修道場の売り場は大通りの南門のすぐ横と決まっているらしい。
 大通りから横に入った横丁は城市の各座が取り仕切っているらしい。
 大通りはご禁制以外は何を売ってもいいが、商いはその場限りの文句なし、が決まりらしい。
 ボラれた間抜けは黙ってろ、騙される馬鹿は知らんってことだな。
 横丁だと、座の許可が無いものは商売を出来ないので、あんまり無茶なことをするやつは居ない、座のメンツを潰すようなことをするとコワイひとに連れてかれるそうだ。
 話しているうちに、塩座横丁に着いた。
 塩が多い、まあ、当たり前だわな。
 岩塩でも幾つも種類がある。
 見たまんま岩みたいなのから、ピンクの貴石のようなのまでイロイロだ。
 砂がじゃりじゃりしそうな海塩もある。
 壺を並べた露店を見つけたので寄ってみる。
 そのものが無くても似たような物が有ればと、醤油が無いか聞いてみる。
 南方で液状の味噌のようなものは有るが、足がはやいので仕入れてないとのこと。
 残念!
 なんやかんやと、もらった小遣いの半分くらいを使ってしまった。
 食品は安いんだが、手工芸品はえらく高い、特に職人が作っているようなものは特に高い。
 そう、日本のホームセンターで2~3千円くらいで売ってる包丁以下の品質のナイフが、ん万円という感じだ。
 素人の手仕事と言う感じのものと職人仕事じゃ天と地ほどの差がある。
 座で技術の管理というか独占とかしてそうだなあ。
 気をつけないと。
 
 随分道草を食って、組合会館に着いた。
 何と言うか、お役所だな。
 まあ、ここは城市各座の出先を合わせたようなところらしい。
 依頼を仕分けて、手配師に分配するとのこと。
 手配師は酒場付きの人足宿を経営していて、狩人、鉱夫、柴刈りを囲い込んでいて、仕事を割り振りするらしい。
 手配師はラノベで言うギルドマスターのようなもんか?
 受付に並んで、大人しく待つと15分ほどで順番が廻ってきた。
 ヘバが副神殿長から預かった封書を受付のおっさんに渡した。
 話が通っていたのかその場で説明を受ける。
 修道場と馴染のある手配師に大迷宮の案内を依頼してあるので明日にでも打ち合わせにいってほしいとのこと。
 手配師の店を教えてもらい、依頼書の写しを渡された。
 やれやれ、忙しいこっちゃ。
 こっちに跳ばされて、めんどくさいしがらみが無くなったと思ったんだがなあ。
 たった数日でこれか。
 あっという間にがんじがらめになりそうだ。
 はああ~あっと。
 修道場に帰ったらいい時間だな、今日は沼に行くのは諦めよう。
 
 
 *07*
 
 
 夜明けとともにヘバに起こされた。
 神殿から人が来たそうだ。
 早速、例の連絡係が来たようだ、それも二人。
 あくびを堪えて対面する。
 中肉中背で割と筋肉質なのがガウ。
 背は高いがひょろっとしてるのがデワ。
 交代でオレに付いてくるらしい。
 ご苦労なこった。
 朝飯を食いながら今日の予定を立てる。
 やらなあかんのは、手配師との打ち合わせと、泥傀の確認。
 打ち合わせは時間が読めないから、沼地の方を先に片付けるか。
 沼地に向かいながら二人に話を聞く。
 ガウは武僧くずれで、膝をやってくすぶってたところをこっちに廻されたらしい。
 デワは星見志望だったがあちこちたらい回しにされて来たらしい。
 まあ、深くは追及しない。
 知ったところでどうにもならんしな。
 
 沼地について、泥傀を10体ほど呼び出す。
 ガウが一瞬身構える。
 デワのほうは顔を引きつらせている。
 う~ん、影衆じゃないのか?
 もっぺん石投げるか?
 いや、挑発はやめておくか。
 泥傀に適当な命令を与える。
 パフォーマンスはわかりやすくだ。
 二人に向けてわざわざやっている。
 意識を向けるだけで泥傀を操ることができる。ただ、泥傀の知覚は独特なので、自分の目で見ないと不安になるのが問題だが。
 本当は300を超えている。
 今日にも400に届きそうだ。
 負担はほとんど感じない。
 視界の隅がちょっと気になるくらいだ。
 実際のところ、どこまで増やせるのか?
 どれだけ離れて動かせるのか?
 やってみないとわからない。
 泥傀の捜索を兼ねて川の上流と下流にそれぞれ数体ずつ向かわせた。
 今のところ順調に移動しているようだ。
 
 この前捕まえた魚、カニを見に行く。
 泥抜きのために泥傀に囲わせたのだ。
 
「どうだ?」
 
ヘバに『見』させる。
 
「あ、カニ食べれる、ああ、魚も!」
 
「喰ってみるか、あ、カニは茹でんと無理か。」
 
「鍋借りてきます。」
 
「おう、昨日買った塩も持ってきてくれ。」
 
「はい。」
 
 ヘバが修道場に向かって走っていった。
 よく動く子だが、食べ物がらみは特に反応がいいな。
 ぼんやり待つのもなんなので、泥傀に簡単なかまどを作らせる。
 二人には焚き付け用に枯れた大馬鹿草を集めさせる。
 
 泥傀が地面に潜り込んで穴を掘り、カラダの中にある粘土分を塗り込んでいく。
 3Dプリンタのように粘土を積み上げていく。
 交代しながら十分足らずでそれなりのかまどが出来上がった。
 思いつきだが上手くいった。
 
 焚き付けを集めてきたデワが感心しながらかまどをのぞいている。
 ガウがかまどに焚き付けを入れて、魔術で火を付けた。
 丁度良い感じに火が廻ったころ、ヘバが寸胴を抱え、ガキンチョを数人連れて戻ってきた。
 
 まともに食べられたのは、大きなカニのハサミ1つと小さなナマズらしきものを焼いたのだった。
 子供たちは未練がましく細いカニの足をちゅうちゅう吸っている。
 デワは気に入ったのかカニ味噌を舐めている。
 飲兵衛か?
ヘバは他のエビやら貝やらを『見』ているがまだ泥は抜けていないようだ。
 オレは寸胴で残りのカニを茹でている。
 修道場への土産だ。
 ガキンチョ共に口止めしても無駄だしな。
 食いもんの恨みはコワイからね。
 ああ、ガウは追加の焚付を集めに行ってくれている。
 
 茹で上がったカニを修道場の調理場に渡して手配師のところに向かう。
 手配師としては小規模だが最古参らしい。
 迷宮稼業よりも人足の手配が多いとのことだ。
 人足座の座長まで務めて、正妻と妾二人を女将にして3軒の人足宿をまわして、城市でぶいぶい言わせていたが、こっそり4軒目を建てようとしたのがバレて嫁さんたちに身ぐるみはがされて放り出された爺さんだ。
 カニを持っていったら修道場長のおばさんに捕まっていろいろ聞かされた。
 今は修道場長に拾われて、修道場上がりで行き先の無い子の面倒をみている有徳の御仁だ。
 昔の伝手を使って修道場上がりをあちこちに宛てがっているらしい。
 案内人も修道場上がりで狩人をやっている子を手配してくれることになった。
 今、受けてる仕事との兼ね合いが有るので数日待ってほしいとのことだ。
 迷宮に潜るのに必要な棍棒と革の胴着は貸してくれるらしい。
 浅層ならそれで十分だとのこと。
 本格的に狩人になるなら足元を固めろだって。
 ちなみに今履いてるのはウォーキングシューズだ。
 
 
 *08*
 
 
 夜明けと共にヘバに起こされた。
 カニに味をしめたガキンチョ供が今から沼地に行くと騒いでいるそうだ。
 ほっとけ。
 二度寝だ、二度寝。
 結局食堂に引きずっていかれた。
 小さいくせに力があるな。
 朝飯を食いながら、ガキンチョ供に今日カニを捕まえても泥抜きしないと不味くて食えないことを言った。
 ぶうたれるガキンチョ共にカニ捕りに使う道具を集めさせる。
 手配師からの連絡が来るまでガキンチョ共と暇つぶしでもするか。
 荷物を抱えたガキンチョ供を連れて沼地に繰り出す。
 修道場には神殿で使わなくなった道具類が廻ってくるので大概のものはある。
 古いのばかりだが、職人が神様に奉納したものなので質はいい、なんとかなるだろう。
 ああ、今日の担当はデワだ。
 カニの目と目の間を葦でペシペシ叩く。
 怒ったカニが両のハサミで葦を挟んで抱き込む。
 そこをわら縄でくるくる縛り上げる。
 きれいな水に放り込む。
 一丁あがりだ。
 昔、知り合いの漁師に教わったワタリガニの捕まえ方だ。
 別のカニだが、カニはカニだ。なんとかなった。
 
 泥傀に集めさせたカニをガキンチョ供に同じように処理させる。
 きれいな水を泥傀パイプラインで川から引いて小さなため池に貯めている。
 もちろんため池は泥傀に掘らせた。
ヘバがため池に沈めていたエビや貝を『見』ている。
 
「エビはいけます、貝はまだ泥臭いみたいです。」
 
「おう、わかった。エビは塩茹ででいいか。」
 
「はい、カマドの準備してきます。」
 
「おう。」
 
 やっぱり食い物になると動きがいい。
 泥傀に集めさせたカニは粗方片付いたので、元気の有り余っている奴らに、根齧りネズミを追いかけさせる。
 残った大人しい奴らに、修道場から持ってきたボロ籠、わら縄、そんでその辺で集めた葦、大馬鹿草で筒カゴや魚カゴの罠の作り方を教える。
 出来たカゴにそこらの虫やらタニシを潰して餌を作り、重石と一緒にいれて、沼に沈めて行く。
 一通り罠を仕掛けた頃に元気な奴らが根齧りネズミを抱えて走ってくる。
 一日追いかけ回したら3~5匹捕まえられるらしい。
 カゴ罠の余りで括り罠の作り方を教えた。
 早速、あちこち仕掛け出したので、ちゃんと目印をつけろと教え込む。
 ガキの頃、近所に住んでた日曜ハンターのオッチャンの受け売りだ。
 根齧りネズミの解体を始めると大人しい奴らが寄ってきた。
 いつもは解体せずに調理場のオバちゃんに渡しているらしい。
 まあ、オレもガキの時にやったきりなのでいい加減なものだが、手順を教える。
 あ、うさぎだぜ、昔解体したのは。
 頭を落として、肛門からモツを切り取って、皮を剥ぐ。
 重要なのは腸を傷つけて中身があふれないようにすること。
 あふれたら肉がおじゃんになると教え込む。
 ああ、血抜きは心臓が動いてる間に動脈を切らないとあんまり意味がないらしい。
 今回は、もう死んでたからあきらめて、モツ抜きを優先した。
 ん十年経ってるが、強烈な体験だったので意外に手順を覚えている。
 ついでに皮のなめしを教える。
 こっちはハンターのオッチャンも聞きかじりだったので上手くはいかないだろう。
 オッチャンも失敗して、カチカチに乾燥した毛の生えたプラ板みたいになってた。
 すっげー臭くて、虫がたかってたなあ。
 
 さて、肉のほうだが、えらく脂が多い。
 根齧りネズミは水に潜るそうだから脂肪を溜め込んでいるんだろうが、煮ても焼いても脂だらけになりそうだ。
 調理場じゃどうしてるんだろう。
 う~ん、乞食蒸しにするか。
 丸肉に塩をすり込んで、大馬鹿草の葉で包む。
 泥傀に小さな穴を掘らせ、砂を出させる。
 肉の包みを砂に埋めて、今度は粘土を持ってこさせて塗り固める。
 あとは大馬鹿草の枯れたので焚き火だ。
 昔キャンプで一度やっただけなので、どれくらいで火が通るか覚えてない。
 まあ、こんなもん適当でいいか。
 焚き火が燃え尽きたら、ヘバに棒切れで粘土の塊を割らせる。
 蒸気と脂のにおい。
 包みを取り出して全員で試食する。
 人数が多いから1人一口だ。
 ちょっと蒸しすぎか?
 でもまあ、喰える。
 柑橘類の汁でも掛ければいい感じになりそうだ。
 包む時にもっと葉っぱを増やそう。
 香草とか一緒に蒸せればもっといいか。
 
 中途半端に食べたせいで胃がもっとよこせと、ぶうたれている。
 ガキンチョ供はもっとぶうたれていた。
 仕方がないので、塩茹でしたエビを食わせる。
 とはいえ、1人3匹ほどじゃあ、焼け石に水だ。
 更にうるさくなった。
 そんなに食いたきゃ自分で獲ってこいとけしかける。
 ガキンチョ供がネズミを追いかけに行った。
 
 結局、追加でネズミ4匹を蒸した。
 今度は包みを厚くして、デワが見つけた香草を仕込んでおいた。
 なかなかいい感じに仕上がった。
 
 さっそく罠に掛かった2匹と、ガキンチョ供が捕まえてきた2匹だ。
 大人しい奴らに解体させる。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて」だったか。昔の偉い人は良いことを言うな。
 何とかかんとか蒸し上がった時には夕方だったので、修道場への土産にした。
 もちろんガキンチョ供は取り分が減ると文句を言ったが、食いもんの恨みのおそろしさをコンコンと説教してわからせた。
 とても美味しかったですよと修道場長に褒め殺しにされて、他愛もなくご機嫌になっていたので、かわいいもんだ。
 
 寝床に潜り込んで今日のことをまとめる。
 泥傀は400どころか500を越えた。
 川の下流に結構な湿地帯を見つけた。
 泥傀がウジャウジャいた。
 多分千を越えるだろう。
 ちょっと本気でこれからどうするか考える必要があるな。
 副神殿長とハラ割って話すべきか?
 遣り手そうでコワイんだよなあ。
 できたら互いに、接して…じゃない、敬して遠ざける関係がいいんだが。
 
 
 *09*
 
 
 夜明けと共にヘバに起こされた。
 また、ガキンチョ供が騒いでいるのかと思ったら、もう全員沼地に行ったという。
 朝飯を喰って無いのはオレだけで、食堂を片付けたいから早く食えということらしい。
 食堂では、ガウがひとりで白湯を飲んでいた。
 いつもは何人かガキンチョが残っているんだが誰もいない。
 どうしたと聞くと、パン焼きの当番以外、みんな根齧りネズミを捕まえにいったそうだ。
 掃除や洗濯のお務めは夜明け前に片付けたらしい。
 元気だなあ。
 食い気一筋かあ。
 あ、塩はどうした?
 調理場のおばちゃんに土産を約束して、塩を手に入れたらしい。
 はあ、たくましいこった。
 ほっといてもいいんじゃないか。
 
 朝食を食べて、3人連れ立ってだらだらと沼地に向かう。
 風に乗ってガキンチョ供の声が届く。
 なんでこんなに元気なんだろう。
 到着するとすでに4つの焚き火が燃えていた。
 粘土はどうしたと聞いたら、昨日のを砕いて練ったとのこと。
 ほんとたくましいなあ。
 泥傀に追加の粘土を集めさせる。
 すでに三匹分の包みが出来ている。
その間に、ヘバがため池を『見』ていた。
 カニ、貝はいけるみたいだ。
 カニは塩茹で、貝は焼くか。
 いや、軽く茹でてからにしよう。
 淡水産は寄生虫がコワイ。
 カマドに向かうと、ガウがすでに寸胴を火にかけていた。
 段取りがいいこって。
 
 一通り作業が回りだしたら、ヘバに監督を任せて泥傀に意識を向ける。
 ああ、やっぱり!
 千を越えた。
 シンプルに数は力だ。
 勘を信じるなら、万越えもいけると思う。
 泥傀の性質上、オレツエーは出来ないが中々のチートだ。
 一番の問題は目的がないことだ。
 何をすればいいんだ。
『見』の婆さんは生きたいように生きろと言ったが、それが一番難しい。
 元の世で、オレは流れるままに流されて生きてきた。
 流れに乗っかっているときは大体上手くいった。
 オレが躓くのは、やるべきことをやらなかった時と、やらんでもいいことをやった時だった。
 今、オレはどうなっている?
 どこに流れがある?
 …
 …
 …
 はああ~あっと、とりあえず生きることを考えよう。
 生きたいようには後回しだ。
 おお、生きたいようにを探すのを目標にしよう。
 異世界で、まさかの自分探しとはなあ。
 うん。
 神殿勢力は大きな力だとおもう。
 少なくとも悪意は感じないし、イロイロ世話してくれる。
 しばらく乗っかってもいいだろう。
 とにかく神殿の言う通り、迷宮に潜って祝福とやらをもらうことにする。
 
 たらふく喰って、土産を抱えて修道場に戻った。
 手配師から明日打ち合わせがしたいと伝言が来ていた。
 
 ーーーーーーーーーー
 
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