【完結】転生したら、なんか頼られるんですが

猫月 晴

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1巻

1-2

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 2


 空中に生成した水を魔力で圧縮し、勢いをつけて銃弾じゅうだんのように放つ。補助のための詠唱も忘れずに。

「《アクアバレット》」
『ギャッ!』

 魔法で作った水の銃弾は見事命中し、兎形うさぎがたの魔物は鳴き声を上げて倒れた。
 魔法の特訓の一環として、現在俺は家の近くにある通称〝魔の森〟に来ている。今日は小型でも大型でも、魔物を千匹倒したら終了だ。
 この悪魔のような特訓メニューは母様が考えたものなのだが、常識外れのスパルタである。百じゃなくて千だぞ。子供に課す特訓としてはあまりにもキツすぎる。

「エル、調子はどう?」
「……上々です」

 大きな熊の魔物を引きずりながら、俺の近くへやってきた母様。相変わらず強い。
 本当は疲れきっていると答えたかったところだが、これまでの経験上こう答えたほうがいいことは分かりきっている。
 まあ色々あり、あれからあっという間に二年が経った。そして転生した俺、エルティードは五歳になった。その二年間でこの世界について結構把握したし、大分こっちのことわりにも慣れてきた気がする。背は伸び、俺も両親や兄弟と同様、例にれずそこそこの美形に……なれたような気がしないでもない。
 まずこの世界には、あの少女も言っていたとおり魔法がある。元々俺がいた世界にはなかったものだ。仕組みはよくあるファンタジーな感じで、魔力を使って発動させるとかいうアレだ。個人によって魔力量は違うらしく、ラッキーなことに俺は多めのようだ。何かブツブツ言っていたし、あの白髪の少女がサービスしてくれたのかもしれない。
 ちなみに魔力は休めば回復するけれど、回復する前に魔法を使いまくって空っぽになると死ぬらしい。こわ。
 ここまで散々魔力魔力言ってたら、色んなものに宿っている魔力を感知できると思うじゃん?
 それができないんだよ。なんと意外なことに空間にあるものしか感知できないらしい。
 自分以外の人間の体内に宿っていたり、魔物に宿っている魔力、それからものに宿っている魔力はどれだけ強くとも微塵みじんも分からないっぽい。
 例えば魔法発動後、空間に放出された魔力とか、元々空間に宿っている魔力とか。自分の魔力量とかは大体分かるので、うっかり死ぬなんてことはそうそうないみたいだけど。
 属性もよくある感じで、おおまかに四属性プラス無属性に分かれている。
 四属性はオーソドックスな火、地、風、水。無属性はそのどれにも属さない。分けようとすれば他にも細かい区分はあるらしいが、俺はそこまで詳しくないので知らん。ていうか割とどうでもいい。
 あと、最初に魔法を使おうとしたとき不発だった理由も分かった。
 魔法には呪文を唱えるよりもイメージが重要みたいだ。逆に言えばイメージさえできれば割となんでも使える。
 もちろん魔法のことだけでなく、ちゃんと一般常識についても勉強した。
 今俺たちが住んでいる国の名前はアドラード王国。大陸にある三つの国のうちの一つで、そこそこの大国だ。そして王国という名前のとおり、王族を頂点にした貴族制度で成り立っている。
 俺の家は辺境伯という地位で、他国が襲ってきたときに国を守る役目があるため、国境近くに住んでいる。強くなければいけないので、結構な戦力を持った貴族がなるらしいが、俺は自分の住んでいる領地で兵士なんて見たことがない。そこのところがどうなっているのかは謎だ。
 最初こそ不安だったが、せっかくなので俺はこの世界を全力で楽しむことにした。
 まず手始めに俺の世界にはなかった憧れの魔法を極めることにしたところ……このとおり母様による地獄の特訓が始まり、今に至る。我ながらこれをこなしている俺はかなりすごいと思う。
 俺が厳しくしてくれと頼んだせいなんだが、それでもこれはキツい。でもそのおかげで魔法は劇的に上達した。ついでに教えられた剣術も少しだけだが、できるようになった。
 魔法を極めることにしたのは、楽しむためだけでなく魔物から自分の身を守るためでもある。
 そう、この世界には白髪の少女も言っていたとおり魔物が存在するのだ。
 魔物はたいてい森やら洞窟どうくつやら魔力が宿っている場所に発生するらしいが、詳しいことはよく分かっていない。あとなんか、増えすぎたり魔力が過剰だったりすると溢れ出てくるらしいので、定期的な討伐が必要みたいだ。魔物の動力源は魔力だと言われている。そのため本能的に魔力を持っている生きもの、つまり人間などを襲ってくるらしい。

「エルー! 今何匹倒した?」

 一緒に魔の森へ来ていた兄様が、楽しそうにこちらへ走ってくる。あ、足元に石が。

「ぶっ!」

 声をかける間もなく兄様は思いきりつまずき、顔面から地面へと突っ込んだ。今のはかなり痛かったはずだ。しかもこの辺りの土は硬いし、鼻の骨が折れていてもおかしくはない。

「だ、大丈夫ですか、兄様」

 慌てて兄様に駆け寄る。俺は石に躓かないよう気を付けながら。転び方がよかったのか、頬を少しりむいただけみたいだ。浅い傷だけど、せっかくだからこの間練習した魔法で治してみるか。失敗しても傷が治らないだけだし危険性はないからな。
 兄様の傷を観察しながら魔法を発動させる。傷が治っていくイメージをしながら魔力を操作し、仕上げに詠唱を。今のは上手くいった気がする。
 予感どおり頬の傷はするするとふさがっていき、元の平らな状態へと戻った。

「もう回復魔法も使えるようになったのね!」
「うわっ!」

 急に横から姉様が話しかけてきた。姉様、いつの間に隣にいたんだ⁉

「エルはやっぱりすごいよ!」

 驚いて思わずあとずさると、今度は兄様にぶつかる。最初はこの二人が兄と姉であることに違和感があったが、一緒に過ごしているうちにそれもなくなった。父様と母様に対しても同じだ。

「兄様、姉様、ありがとうございます」

 この世界で新しい家族と上手くやっていけるかという心配は杞憂きゆうだったようだ。エルティードとしての記憶も手伝って、俺はすっかり家族の一員として、この世界で暮らしていた。

「それにしても、ついに明日は洗礼式せんれいしきね。エルがどんな加護を授かるのか楽しみだわ」

 そう、姉様の言うとおり明日は洗礼式が行われる。俺の住んでいる王国では五歳になると洗礼を受けることになっていて、そのときに神様からご加護を授かる。人によってその効果や強さは少しずつ違うらしい。面倒なことに、貴族は王都の指定された教会で洗礼を受けなければならない。しかもそのあと、王宮で開催されるパーティーにも出席しなければいけないのだ。そこに出席する貴族にも挨拶しなきゃいけないし、面倒すぎる。
 できることなら行きたくないけれど、決まりごとだから仕方ない。
 ここから王都までは大分離れているので、この世界の主流な移動手段である馬車で移動していたら数週間以上かかってしまう。そこで魔法の出番だ。


 翌日、転移魔法で教会へと移動すると、眩しいほどの白が目に入った。教会を一言で言い表すならば、まっっっっっしろ。たまに紫や緑、黒の装飾が入っているが、壁は一面真っ白だ。そして巨大。教会というより、大聖堂と言ったほうがいいんじゃなかろうか。
 大きすぎる扉がひらき、教会の中に入る。大理石の床を歩く音が、カツカツと響いた。
 豪華というわけではないが、中も一面真っ白だ。ずっと見ていると、目がちかちかしてきた。
 話し声が聞こえたのでそっちを向くと、父様が白い服を着た女の人と話していた。
 その人は急いだ様子で、奥の扉から出ていき、同じく白い服の神父っぽい人を連れてきた。
 この教会、本当に白ばっかりだな。この世界では白が神聖な色みたいな感じなのかもしれない。

「それでは洗礼式を始めさせていただきます。私と一緒に、主に祈りを捧げてください」

 神父らしき人は祭壇の前で手を組み、ひざまずいた。俺もそれを真似する。

「偉大なる神よ、我に力を分け与えたまえ――この幼子に、祝福があらんことを」

 目を閉じて祈っていると、何かが体に流れ込んでくる感じがした。
 これが『加護を授かる』ということなのだろうか。なんだか転生したときの感じに似ている。

「――エル……エル! もう終わったわよ」
「え?」

 いつの間にか洗礼式は終わっていたようで、家族が心配そうに俺を囲んでいる。母様に呼びかけられるまで何故か気付かなかった。
 どうやら立ったまま意識が飛んでしまっていたらしい。

「特に体調が悪いとかはないか? まれに加護を授かる際に意識が飛んでしまうことがあるんだ」

 ルフェンドとセイリンゼもなった、と父様は言った。兄弟三人ともなるなんて、それは果たして稀って言うのかどうか。

「エルはどんなご加護を授かったんだろうね?」
「わたしも気になるわ!」

 俺と同じ経験をしたらしい兄様と姉様は、好きな人でも聞くようなノリで騒いでいる。

「えっと、加護ってどうやって確認するんですか?」
「強く念じると頭の中に浮かんでくるわ。他人に対して証明するときは、専用の魔道具を使ったりもするわね」

 言われたとおり、俺の加護はなんなのか問いかけるように強く念じてみる。しばらくすると、頭の中に何か文字が浮かび上がった。

『創造神の加護・転生者』

 ……果たしてこれは、このまま伝えていいものだろうか。
『転生者』という言葉は、やっぱり俺がこの世界に転生したことと関係あるんだろう。まあ今まで過ごしてきて、俺が転生者であることによって生活に支障が出るような影響はなかったし、これからも特にないはずだ。

「創造神の加護、です」

 色々考えたすえ、最後の部分を取り除いて伝えると、全員驚いたような顔をした。気を付けたつもりだったが何かまずかったらしい。

「すごいねエル‼」
「やっぱり自慢の弟だわ!」

 兄様と姉様はいつものセリフを言いながら俺に抱きついてくるが、もう慣れたので問題なし。この反応を見るに、悪い方向というわけじゃなさそうだ。

「そういうご加護ってとっても珍しいのよ。普通は水神の加護とか、属性ごとのご加護が多いの」

 母様が、俺の加護を聞いて皆が驚いていたわけを説明してくれた。

「そうなんですか。そういえば、父様や母様はどんなご加護なんですか?」
「私は魔法神の加護、父様は剣神の加護よ」
「僕は生命神の加護だよ」
「わたしは母様と同じ魔法神」

 我先にと自分の加護を言い始める兄様と姉様。
 全員属性じゃないじゃん、それもう珍しくもなんともないだろ。むしろ属性のほうが珍しいぞ。
 何故だかわいわいと騒ぎ立てる家族たちとともに、歩いて王宮へと移動すると、既に人が沢山集まっていた。こんなに沢山の人がいるところに来るのは、転生してから初めてだろうか。

「エル、いいか。まずは練習したとおり、貴族の方々に挨拶して回る」
「はい、父様」

 家で散々練習させられたから、言葉遣いからお辞儀の角度まで全て完璧だ。

「それから、変なやつに話しかけられたらすぐに逃げるんだ」
「分かりました」

 流石に王宮にそんな不審者みたいなやつはいないと思うけどな。父様は心配性だ。
 顔パスで衛兵に通してもらい、大広間へと入る。中にはさらに沢山の人がいた。入るときになんの確認もなかったし、誰か紛れ込んでも気付かないんじゃないか?
 貴族が集まるというのに、結構その辺りがガバガバだ。衛兵は沢山配置されているけど。父様が不審者を心配するのも分からなくもない。
 大広間の中は、まさに豪華絢爛ごうかけんらんといった様子だった。広間の豪華さもさることながら、貴族たちの身に纏うドレスや装飾品が下品なまでに豪華だ。
 良家っぽい感じの貴族はシンプルながらも高級そうな礼服だが、いかにも成金って感じの人は、ギラギラした礼服を身に纏っている。やっぱりこの辺りにも人柄が出るのだろう。
 ところで、一つ気になることがある。
 俺の家族、アドストラム家が来た途端、すごくざわつき出したんだが。
 チラチラといくつか視線も感じる。
 俺の家族が美形だからなのか、はたまた悪いうわさでもあるのか。前者ならすごい平和なんだけどなぁー。
 ちらほらと、「アドストラム家が来たぞ!」とかいう声が聞こえるんですよね。困ったことに。

静粛せいしゅくに!」

 威厳のある声が大広間に響き、壇上に立っている国王陛下に注目が集まる。
 ひげがふっさふさのおじいさんを勝手にイメージしていたが、普通に若かった。父様と同じぐらいだ。

「今日は、五歳になる子供たちが集まっているであろう。偉大なる神より祝福をたまわりし子供たちの、新たな門出かどでを祝おう!」

 陛下がその言葉を言い終わるとともに、広間に歓声が響いた。
 さて、今から俺は挨拶をして回らないといけないのか。面倒臭いけど、せっかく練習したしな。
 家族と一緒に、大広間の貴族に挨拶していく。堅苦しい定型文を述べて、お辞儀をして、の繰り返しだ。
 いちいち名乗られるし俺も名乗ったけど、誰一人として名前を覚えていない。きっと相手も同じことだろう。
 ひととおり挨拶が済んだ頃、使用人らしき人が父様に何かを伝えにきた。

「エル、陛下がお呼びだそうだ」
「……いや、なんで⁉」

 俺、まだ何もやってないけど。
 なんでお国のトップに呼び出されるんだ。
 俺がフリーズしていると、父様がものすごく長いため息をついた。俺の予想、約二分。すごい肺活量だな。

「なんでかは分からない。とりあえず行こうか、エル」

 そう言って、父様は大広間の出口へと向かっていく。母様と兄様、姉様もついてくるようで、俺と一緒にそのあとに続く。

「ったく、あの馬鹿王……!」

 下手したら不敬罪で殺されそうな単語が聞こえたのは、きっと気のせいだ。そういうことにしておこう。
 長い廊下をとおり、陛下がいる部屋へと向かう。

「おい、来たぞ。この馬鹿王!」

 父様は部屋に着くなり勢いよく扉を開け、ずかずかと部屋の中に入っていく。これは確実にアウト。本人の前でアウトワードを口にしたうえ、この態度は絶対によろしくない。
 不安になって母様のほうをうかがってみるが、焦った様子もなく普通だった。続いて部屋の中にいる陛下の様子をうかがうけれど、こちらも普通。

「父様。その方、国王陛下ですよね?」
「ああ、そうだが?」

 父様に不思議そうな顔をされる。まあ王冠被ってるもんな。

「陛下は父様の弟君なのよ」

 そういうことか。まあ兄弟だろうと許される言葉ではない気がするが、母様の説明で少しは納得できた。
 それはそうと、世襲制せしゅうせいなら普通、長男が家を継ぐはずだよな? 父様が辞退したんだろうか。

「君がエル君かい? 初めまして、国王のヴァルド・ルイズ・アドラードだ。よろしくね」
「……えっと、エルティード・レシス・アドストラムと申します」

 さっきまでと同じように、名乗ったあとにお辞儀をする。俺の名前は知っているようだが、一応貴族のマナーとして。

「……えっと、君、本当に男の子?」
「はい?」

 陛下から聞き捨てならない言葉が飛んでくる。
 俺は正真正銘しょうしんしょうめい男だが。確かに多少女顔おんながおだけど、そんな風に聞くことないだろ。まだ幼いから男女の見分けが難しいのも分かるが、俺の名前完全に男ですが‼

「ああ、怒らないでくれよ。あまりに君が美しかったものだからね」

 こいつ、さては容姿を褒めることでごまかそうとしてやがるな。俺がこっそりにらみつけると、陛下は困ったような作り笑いを浮かべた。なんかさっきの威厳がある陛下と、随分キャラが違う気がする。口調だけでなく、雰囲気まで違ってまるで別人のようだ。

「さて、本題に入ろうか。君、すごい魔力を持ってるね」
「は、はあ……」
「その髪色、気にしたことない? ほら、君だけ真っ白」

 もちろん気にしていますとも。
 父様と兄様は金髪、母様と姉様は茶髪なのに、俺の髪だけ本当に真っ白。俺としてはあまり好きではないけれど、皆はこの髪のことを褒めてくれる。
 あまり人に会ったことがないから分からないけれど、もしかして真っ白は珍しいのだろうか。この世界では派手な髪色が多い気がするし普通かと思っていた。

「それね、魔力量が多すぎて色が抜けてるんだよ。僕も噂でしか聞いたことないけど。初めて見たよ、そんな髪色」
「……そうなんですか?」
「あくまで噂だから、実際どうかは知らないけどね」

 そう言って陛下はふざけたように笑う。一体この人は何が言いたいのだろうか。

「その紫色の目も珍しいよね」

 陛下は俺の顔を覗き込んで、瞳の色を見ている。どうやらこの人はパーソナルスペースがバグっているらしい。異常に距離が近い。
 どうすればいいのか考えていると、父様が陛下を引きがしてくれた。ナイスプレイ!

「アーネ、エルたちを連れて戻ってくれ」

 父様がそう言うなり、俺たちは母様に連れられて退室した。
 それにしても、陛下は何が言いたかったのだろう。人の髪色と瞳の色なんて、俺はどうでもいいけど。少し気になるが、まあ気にしない方向でいこう。


 エルたちが部屋を出ていったのを見計らって、部屋に残ったゼルンドがヴァルドに向かって口を開く。

「何が言いたいんだ、ヴァルド」
「兄上だって分かっているだろう? 王家の伝承によると、純白の髪に紫色の瞳は、神より遣わされし聖女の証。戦争は終わり、作物は実り、民に笑顔が満ち溢れるだろう、とある」
「……」
「エル君に同様の特徴があるとはいえ、伝承は所詮しょせん伝承さ。それに、彼はそれこそ聖女のように美しいけれど、確かに男なんだろう? 聖『女』じゃない」
「……そうだな」
「それを伝えたかっただけだよ。いきなり呼び出して申し訳ない」
「……少し話がすぎたな。もう戻るよ。またな、ヴァルド」
「ああ。またね、兄上」


「ぶえっくしょん‼」
「エル、大丈夫?」

 ハンカチが間に合わず、思いきりくしゃみをしてしまった。誰かが俺の噂をしているのだろうか、とベタなことを考えてみる。それにしても暇だ。
 改めて大広間を見渡してみると、ある一点に、何人もの令嬢が集まっているのを見つけた。
 その中心には先ほど挨拶したうちの一人、王子殿下がいた。陛下が俺の叔父ということが判明したので、王子殿下は俺のいとこになる。歳はおおよそ俺と同じぐらいだろうか。だというのに妙に大人びた振る舞いをしているように感じる。
 父様を除く家族三人はそれぞれ誰かと話しているようなので、俺は壁際で存在感を消す。話しかけられたらどう対応すればいいのか分からないし、こうしているのが一番だ。
 遠くから令嬢たちに囲まれた王子殿下を眺めてみる。ものすごく大変そうだ。俺は王子じゃなくてよかった。しばらくぼーっとして広間の人間観察をしていると、ある異変に俺は気が付いた。何故か王子が近付いてきてる気がする。いや、気のせいじゃなく確実に。

「えっと、何か御用でしょうか……?」
「エルティード様でしたよね。こんな壁際ではなく、こちらにいらっしゃったらいかがですか?」

 俺の家族と同じく、キラキラとした顔面が近付いてくる。この世界ではこれがスタンダードなんだろうか。

「え、えーと……遠慮えんりょさせていただきます」

 俺はなんとか貴族スマイルを保ったまま、そう返した。
 王子殿下と一緒にいたら、令嬢に囲まれること間違いなしだ。そんな面倒なところに自ら飛び込んでいくほど俺は馬鹿じゃない。

「そんなことを言わずに。せっかくいとこなんですから、少しお話ししましょうよ」

 王子殿下の押しが強いこと強いこと。あれよあれよという間に、俺は人混みの中心へと引き込まれてしまった。

「で、殿下……」
「僕のことはルシアと呼んでください」
「……分かりました。ではルシア様、手を離していただけないでしょうか」

 俺の手は王子殿下改めルシアに、がっしりと掴まれている。何が嬉しくて他人、しかも男と手を繋がなきゃいけないんだ。

「嫌です。だって離したら、すぐに逃げるでしょう?」
「はは……」

 分かってるなら離してくれよ。心の中ではそう思ったが、俺は貴族スマイルを忘れない。えらいぞ、俺。

「エルティード様はお美しいですね」
「はい?」

 今こいつはなんて言ったのだろうか。俺が? お美しい?

「その白い髪は雪のようですし、瞳はまるでスミレのように綺麗な色をしています。こんなにお美しい方、初めてお会いしました」

 もしかすると、いやもしかしなくても、俺は口説かれているのではなかろうか。何故そんな状況になっているのか全く分からないが、とりあえず、今すぐこの場から離れたい。
 そう思った俺は、ルシアの手を無理やり振りほどいた。こうなったら逃げるが勝ちだ。

「し、失礼しまーす!」

 うしろを振り向くこともせずに、俺は人混みの中を全速力で駆け抜けていく。当然、気が付いた頃には知らない場所にいた。つまり迷子。
 そのあとパーティーが終わり無事発見された俺は、案の定こっぴどく叱られたのだった。


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