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3巻
3-3
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「やっぱり私の実力じゃ、夜鴉団の調査なんて無茶だったみたいです……これ以上は無理そうだし、ひとまずギルドに報告してきますね」
「じゃあ、とりあえず解散ってことで――」
そう言ったところで、後ろから耳をつんざくような爆発音が聞こえた。
反射的に後ろを振り返ったものの、吹き付ける爆風のせいで目をあまり開けられない。
がれきのようなものが飛んでくるのがちらりと見えて、急いで結界を張った。結界に入れるため、クレアさんを抱き寄せるような形になったが致し方ない。
結界を張ったことで風が遮断され、やっとまともに景色を見ることができた。爆発音が鳴った辺りでは、数軒の民家が煙を上げている。
突然の出来事に頭が追い付かないが、ここを離れたほうがいいのは確かだ。結界を解いて、クレアさんの腕を引きながら、爆発音がした場所からなるべく遠ざかるよう走る。
しばらく走ると王都の大通りに辿り着き、一旦走るのを止める。
通りは先ほどの爆発音で騒ぎになっているようで、呆然としている人、野次馬をしにいくのか爆発の方向へ向かう人、一心不乱に逃げ惑う人などで溢れ返っている。
人の波に流されないよう、壁際にぴたりと張り付くようにして歩く。
「爆発だなんて、一体何が起こってるんでしょう……」
雑音に紛れて、クレアさんが不安げにそう呟いたのが聞こえた。
本当に、一体何が起こっているのか。
衛兵も最近王都の治安が悪いと言っていたが、まさか爆発だなんて。
もしかしたらテロかもしれない。何かしらの反乱でも起こったのだろうか。
この世界には爆弾を作れるほどの技術力はないと思うから、魔道具で爆発させたに違いない。
学園祭でゼラード先輩が魔道具を仕掛け、怪我人が出た事件を思い出して、微妙な気分になる。
頭の片隅で、馬鹿王がまた執務に追われそうだな、なんて考えた。
なんとか壁を伝いながら路地へと入る。
しかし角を曲がったところで、前から走ってくる人物が見えた。まずい、と思ったときには既に遅く、正面から思いきり激突してしまう。
相手のほうが体格がよかったため、俺が軽く突き飛ばされるような形になる。
「いってて……」
腰をさすりながら、ぶつかった相手に視線を向ける。左目の辺りに、ちかりと光を反射するものがある。モノクルだ。
「……フェルモンド先生⁉」
目の前にいる人物は確かに俺の捜していた、その人だった。
「すみません、どなたか存じ上げませんが今は急いでいて。申し訳ないのですがお詫びをする時間がないんです」
そう一息で言われ、「え」という声が漏れる。
少し考えて、今は魔法で外見を成長させていたことを思い出した。そういえば、フェルモンド先生にこの姿を見せたことはなかった。
立ち去ろうとしていたフェルモンド先生の腕を慌てて掴み、自身にかけていた魔法を解いた。
「フェルモンド先生、僕です、エルですよ!」
フェルモンド先生は本来の姿に戻った俺を見ると、驚いた様子で目を見開いた。かと思うと、がしっと肩を掴まれる。
「エルティード様、何故こんなところに! 今王都は危険です。今すぐ安全な場所へお逃げください」
フェルモンド先生は、普段では考えられないほどの剣幕でそう言った。
「ちょっと待ってください、皆フェルモンド先生が行方不明だって心配してますよ!」
「ごめんなさいエルティード様、今はそれどころじゃないんです。早くネズロを止めなければ」
引き止める間もなく、フェルモンド先生は走り去っていった。
頭脳派のはずなのにやけに足が速く、フェルモンド先生の姿はあっという間に路地の奥へと消え去っていった。
呆然としていたクレアさんが視界に入って、はっと我に返る。こうしている場合じゃない、早くフェルモンド先生を追いかけなければ。
フェルモンド先生はやけに焦っていた。『ネズロ』という言葉が気になるところではあるが、それは追いかけながら考えればいい。
「ごめんクレアさん、一人で逃げて! 僕はちょっと行ってくる!」
少しでも速度を上げるため、もう一度成長した姿へと戻す。
そしてクレアさんの返事を聞くのも待たずに、フェルモンド先生の去っていった方向へと走り出した。
しばらく走ると、フェルモンド先生の後ろ姿が見えた。
あとからあとから建物を建てているせいで、まるで迷路のように入り組んだ路地を必死で走り抜ける。フェルモンド先生の背中は遠く、このときばかりは高身長イケメンの足の長さを憎んだ。
複雑な道を迷いもせず進んでいくフェルモンド先生の様子に、少しだけ不安を覚える。
一体この先に、何が待っているというのか。
突然の爆発といい、急に現れた焦った様子のフェルモンド先生といい、分からないことだらけだ。『ネズロ』というのも、今の状況と何か関わりがあるのだろうか。
しかし今はひたすら走る他なく、痛み始めた足から意識を逸らす。
そしてもう一度前を見たときには、フェルモンド先生の姿は消えていた。
「しまった、見失った……!」
考え事なんてしてるからだ。フェルモンド先生の足が無駄に速いのも悪い。
いくつもある分かれ道を順に覗いてみるが、いずれの道の先にもフェルモンド先生の姿は見当たらなかった。
俺が途方に暮れそうになったところで、近くからまた爆発音が聞こえた。
まさか、フェルモンド先生が『ネズロを止めないと』と言っていたのは、爆発のことだったのか――?
そんな可能性が頭に浮かぶが、既に体は動き出していた。
さっきとは対照的に、爆発音が聞こえてきた方向へと向かう。明確な場所は分からなかったが、ある程度の方向が分かれば十分だ。
「待ちなさいネズロ!」
しばらく走ると、フェルモンド先生の叫ぶ声が聞こえてきて、ますます速度を速める。
どうやら近くには『ネズロ』がいるようだ。
止めなければという先ほどの発言、そして爆発の近くにいるところから考えて、ネズロはこの事件の首謀者なのかもしれない。
金属がぶつかりあうような音と、衝撃音が聞こえてきて、嫌な予感に拍車がかかる。
ぐっと足に力を込めて、最後の道を一気に駆け抜けた。
その先には燃え盛る建物をバックに、フェルモンド先生と全身黒づくめの男が対峙していた。影ができていて顔はよく見えないが、確実に先ほど森の中で出くわした男性と同一人物だ。
おそらくこの男が『ネズロ』なのだろう。
フェルモンド先生は振り下ろされた大剣を、細身の片手剣で受け止めていた。しかしフェルモンド先生の剣は傍目から見ても分かるほどに強度が足りておらず、今にも折れてしまいそうだ。
「フェルモンド先生!」
ほとんど無意識にそう名前を叫ぶ。
フェルモンド先生は顔をしかめ、俺を睨み付けた。普段の穏やかな様子からは考えられないような険しい表情だ。
「どうして追いかけてきたんですか、バカですかあなたは! 早く逃げろと言ったでしょう!」
「よそ見とは随分と余裕だなっ!」
ネズロの大剣が片手剣を弾き飛ばす。衝撃で吹き飛んだフェルモンド先生が、ズザッと音を立てて俺の前に倒れた。
「何かついてきたと思ったら、さっきの白髪野郎じゃねえか。フェルモンドの知り合いか?」
男の言葉に返答はせず、代わりに短剣を取り出して構える。
ネズロはそれを見て心底面倒そうに顔を歪めた。
「フェルモンド先生に近付くな。少しでも動いたら魔法を放つ」
背後に水の弾丸を生成しながらそう告げる。それでもネズロはひるむ様子一つ見せず、着実に一歩ずつこちらへ近付いてくる。
大口叩いて脅したはいいものの、こいつが何者で、どんな攻撃をするのか分からないので、迂闊に魔法を放つわけにはいかない。
ネズロはそれが分かっているのかいないのか、余裕そうな笑みを浮かべながらこちらへ歩いてくる。
俺が短剣を構える腕に力を込めると同時に、地面に倒れ伏していたフェルモンド先生が体を起こし、俺とネズロの間に立ちはだかった。いつの間に拾っていたのか、左手には片手剣が握り直されている。
「ネズロ、エルティード様に手出しすることは許しません。攻撃するなら僕だけにしろ」
ふらつきながらもネズロへ向かって敵意を向けるフェルモンド先生。
ネズロはフェルモンド先生の言葉を聞いて、眉間に皺を寄せた。
「ハッ、満足に戦えもしないくせに、一丁前によく言うよ」
「何故このようなことをするのです。あなたに、大切な友人だったあなたに剣を向けるだなんて、僕は……」
「友人? 笑わせるな、フェルモンド。オレたちが本当の意味で友人だったことなんて一度たりともなかったっていうのに」
ネズロが不快そうに眉間に皺を寄せる。
顔にこそほとんど出していないが、フェルモンド先生はわずかに動揺しているように見える。
「確かにあのときのオレたちは仲がよかったし、それが続くものだと思ってた。でもそのちっぽけな友情を壊したのはいつだってお前だったろ」
フェルモンド先生は何か言おうと口を開いたが、言葉が紡がれることはなかった。代わりにネズロが舌打ちをして、大剣を構え直した。
フェルモンド先生はハッとした顔をして俺のほうを振り返った。
「エルティード様、早くここから離れて」
「で、でも、フェルモンド先生一人置いていくなんて……」
フェルモンド先生にも自身の考えがあるのだろうが、見捨てるような真似はしたくない。
「いいから早く!」
フェルモンド先生からは聞いたことがないほどの大声を出され、びくりと肩が跳ね上がった。
ネズロはなんの前触れもなく大剣を下ろすと、俺たち二人から視線を外した。
突然の行動を呑み込めずにいると、ネズロはあろうことか大剣をどこかへと消し去ってしまった。
「……なんのつもりです」
「興が冷めた。今ここでお前と戦ったところでなんの得もないしな。今日は元々ちょっとした実験のつもりだったんだ。本番を楽しみにしとけよ、フェルモンド」
そう言うと、ネズロは跡形もなく姿を消してしまった。空間魔法だろう。
フェルモンド先生は先ほどまでネズロが立っていた辺りを見て、悔しげな表情を浮かべている。
「クソ、だめだった……!」
普段の綺麗な言葉遣いとはかけ離れた発言に驚く。先ほどのやり取りからして、ネズロと呼ばれた男とフェルモンド先生は複雑な関係にあるようだった。
フェルモンド先生は思い出したように剣を鞘に納めると、いつもの柔和な微笑みを浮かべた。しかし、その笑顔は少し無理をしているように見える。
「エルティード様、まずはお詫びを。危険な目に遭わせてしまいました……」
「僕が逃げなかったせいなんだから、フェルモンド先生は悪くないですよ」
俺がそう言っても、フェルモンド先生はまだ申し訳なさそうにしている。
そんなことよりも、ネズロが何者なのか、そしてフェルモンド先生とどういう関係なのかが聞きたいんだが……果たして触れていい話題なのか。
現状あの男について俺が分かっているのは、夜鴉団に関わりがあるということだけで、それなら何故フェルモンド先生と知り合いなのか余計に分からない。
どう聞こうか考えていると、フェルモンド先生が不気味な笑顔でこちらを見ていることに気付く。さっきの優しげな微笑みはどこに置いてきたんだ。
思わず後ずさりすると、フェルモンド先生も一歩俺に近付いた。
「ところでエルティード様は、どうして一人でここにいらっしゃるんでしょうね? これはお説教が必要でしょうか」
「勘弁してください……」
「はは、冗談です。それよりもエルティード様、僕に聞きたいことだらけなのではないですか?」
全く冗談に聞こえなかったことは置いておき、考えていたことを言い当てられ、思わずドキリとする。
「あのネズロという男は何者なんですか?」
そう聞くと、フェルモンド先生は困ったように眉を下げて答える。
「あの男、ネズロは――僕の元同僚で、幼馴染です」
3
ルナーレ・フェルモンドは代々学者を輩出してきた優秀な家、フェルモンド家に生まれた。彼も例に漏れず秀でた頭脳を持っており、幼いながらに様々なことを学び、考えた。
一を聞けば十を理解し、大人顔負けの知識と柔軟な発想力を持っていた彼は、一族からの期待を一身に背負っていた。
そんなルナーレには、物心ついた頃からよく遊んでいた仲のいい友人がいた。フェルモンド家に仕える使用人の息子であるネズロだ。
ネズロの母親は、ちょうどルナーレが生まれた頃にフェルモンド家に仕え始めた人物だ。
家柄は決していいとは言えなかったが、使用人の中でも特に優秀だった彼女は、ルナーレ付きの使用人に任命されていた。
その息子であるネズロと友人関係になるのは、ごく自然な流れと言えるだろう。
ルナーレとネズロには身分の差があるものの、とても気が合った。二つ歳の差があったが、そんなことも大した問題ではなかった。
とにかく二人は、誰が見ても分かるぐらいとにかく仲がよかった。しかし二人の友人関係には、ある問題があった。
当時は身分による差別が激しく、貴族とそうでない者たちの間には大きな格差があった。
多くの貴族は平民を下賤な者だと見下しており、遊んでいるところが見つかってしまうとひどく叱られたのだ。
それでも二人は大人たちの目を盗んでは、二人で楽しく遊んでいた。
それは、ルナーレがフェルモンド家の次期当主候補として、厳しい教育を受け始めてからも続いていた。
「ルナーレ! もう勉強は済んだ?」
ネズロが窓の外から中を覗き込んで、そう声をかける。机に向かっていたルナーレは、その元気な声を聞いて顔を上げた。
「ネズロ。なんてところからやってきたのさ。勉強はもうすぐ終わるけど、大人たちに見つかったら、また怒られてしまうよ?」
遊んでいるところが見つかった場合、いつも叱られるのはネズロのほうだった。
ルナーレも多少は注意されるものの、非があるのは身分の低いネズロのほう、ということにされてしまうのだ。
ルナーレはそのことを申し訳なく思っていた。
「へーきへーき。それより早く遊ぼうぜ!」
「……分かったよ。集合場所は?」
「いつもの木の下! 早く来いよ!」
ネズロはそれだけ元気よく告げると、どこかへと走り去っていった。ルナーレはその様子を見送ってから、また勉強に戻った。
二人は時々叱られたり、都合が悪く遊べない日もあったりしたが、毎日のように楽しく遊んで過ごしていた。
使用人や大人たちも次第に二人が遊ぶことを見逃してくれるようになった。
唯一、ルナーレの父――フェルモンド家の現当主だけは、それを認めていないようだったが。
しかし、彼は多くの場合書斎にこもっているか不在にしていたので、問題なかった。
二人はすくすくと育ち、ルナーレは十歳に、ネズロは十二歳になった。
ルナーレは王立学園の入学年齢である十歳になる前から、特待生としての入学が決まっていた。
しかし形式上、試験を受ける必要があり、ルナーレはそのための支度をしていた。
そして王立学園の入試が、一週間前へと迫ったときだった。
ルナーレは自らの父である、フェルモンド家現当主の前に立っていた。
「父上、何故ネズロの受験を認めてくださらないのですか!」
「だめなものはだめだ。平民の受験は認められないと学園の規則で決まっている」
必死に訴えるルナーレに向かって、当主はそう冷たく言い放った。
当時の王立学園は貴族にしか門を開いておらず、平民の受験と入学は原則認められていなかった。
なんともなしにそう言ってのけた当主を、ルナーレは睨み付けた。
「例外を除いて、でしょう! 貴族の推薦があれば、平民でも受験が許可されるはずです! ネズロがとても優秀なのは、父上もご存じなのではないのですか。それこそ僕と同等か、それ以上に」
ルナーレは、友人であるネズロがとても聡明であることを、身をもって知っていた。
ネズロはルナーレが頭を悩ませていた問題を、横からなんでもない様子で解いてみせることが、たびたびあった。
常人ならば理解できないであろうルナーレの思考を、ネズロはよく理解していた。
ルナーレはネズロのことを心底尊敬しており、だからこそ平民であることを理由に冷遇されることが許せなかった。
幼いころから厳しい教育を受けているルナーレと、ただの使用人の息子であるネズロとは知識の差がある。
だが学園に入学すれば、その差もなくなる。もっとネズロの才能を生かせるはずだ。
ルナーレはそう考えて当主にネズロの受験を認めるよう頼んだが、当主は何を言っても首を横に振るだけだった。
「だからいかんのだ。ルナーレ、考えてもみなさい。もし下賤な平民風情が、フェルモンド家の子息であるお前より優秀だったらどうなる? フェルモンド家の面目が丸潰れだろう」
「だからネズロの受験を認めないというのですか……!」
ルナーレは悔しさで歯を食いしばった。
この国に蔓延る身分差別を心底憎んだ。そして何より、それをどうすることもできない自分自身が不甲斐なかった。
「とにかくそういうことだ。試験の日も近いのだろう。余計なことを考えていないで、お前は勉学に励みなさい」
「……はい、父上」
ルナーレは当主の言葉に頷くことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
「よう、ルナーレ」
落ち込んだ様子で当主の居室から出てきたルナーレに、ネズロはいつもと変わらない様子で声をかけた。
「ネズロ……ごめん、やっぱり君の受験は認めてもらえなかった」
「そんなに落ち込むなよ。仕方ないって、オレは平民なんだから。それにもし認めてもらえても、オレは試験の段階で落ちちまうだろうし、無駄に悲しまずに済んだってことで」
ネズロは明るくそう言ったが、ルナーレの表情は暗くなるばかりだった。
「そんなことない、君は――」
言いかけたルナーレの声は、ネズロの言葉によって遮られてしまう。
「本当にいいんだよ、ルナーレ。オレはお前が、ああ言ってくれるだけで嬉しいよ」
そう言ってネズロはあどけない笑みを浮かべてみせた。しかしその笑顔にはどこか、暗い何かが見え隠れしているような気がした。
「じゃあ、とりあえず解散ってことで――」
そう言ったところで、後ろから耳をつんざくような爆発音が聞こえた。
反射的に後ろを振り返ったものの、吹き付ける爆風のせいで目をあまり開けられない。
がれきのようなものが飛んでくるのがちらりと見えて、急いで結界を張った。結界に入れるため、クレアさんを抱き寄せるような形になったが致し方ない。
結界を張ったことで風が遮断され、やっとまともに景色を見ることができた。爆発音が鳴った辺りでは、数軒の民家が煙を上げている。
突然の出来事に頭が追い付かないが、ここを離れたほうがいいのは確かだ。結界を解いて、クレアさんの腕を引きながら、爆発音がした場所からなるべく遠ざかるよう走る。
しばらく走ると王都の大通りに辿り着き、一旦走るのを止める。
通りは先ほどの爆発音で騒ぎになっているようで、呆然としている人、野次馬をしにいくのか爆発の方向へ向かう人、一心不乱に逃げ惑う人などで溢れ返っている。
人の波に流されないよう、壁際にぴたりと張り付くようにして歩く。
「爆発だなんて、一体何が起こってるんでしょう……」
雑音に紛れて、クレアさんが不安げにそう呟いたのが聞こえた。
本当に、一体何が起こっているのか。
衛兵も最近王都の治安が悪いと言っていたが、まさか爆発だなんて。
もしかしたらテロかもしれない。何かしらの反乱でも起こったのだろうか。
この世界には爆弾を作れるほどの技術力はないと思うから、魔道具で爆発させたに違いない。
学園祭でゼラード先輩が魔道具を仕掛け、怪我人が出た事件を思い出して、微妙な気分になる。
頭の片隅で、馬鹿王がまた執務に追われそうだな、なんて考えた。
なんとか壁を伝いながら路地へと入る。
しかし角を曲がったところで、前から走ってくる人物が見えた。まずい、と思ったときには既に遅く、正面から思いきり激突してしまう。
相手のほうが体格がよかったため、俺が軽く突き飛ばされるような形になる。
「いってて……」
腰をさすりながら、ぶつかった相手に視線を向ける。左目の辺りに、ちかりと光を反射するものがある。モノクルだ。
「……フェルモンド先生⁉」
目の前にいる人物は確かに俺の捜していた、その人だった。
「すみません、どなたか存じ上げませんが今は急いでいて。申し訳ないのですがお詫びをする時間がないんです」
そう一息で言われ、「え」という声が漏れる。
少し考えて、今は魔法で外見を成長させていたことを思い出した。そういえば、フェルモンド先生にこの姿を見せたことはなかった。
立ち去ろうとしていたフェルモンド先生の腕を慌てて掴み、自身にかけていた魔法を解いた。
「フェルモンド先生、僕です、エルですよ!」
フェルモンド先生は本来の姿に戻った俺を見ると、驚いた様子で目を見開いた。かと思うと、がしっと肩を掴まれる。
「エルティード様、何故こんなところに! 今王都は危険です。今すぐ安全な場所へお逃げください」
フェルモンド先生は、普段では考えられないほどの剣幕でそう言った。
「ちょっと待ってください、皆フェルモンド先生が行方不明だって心配してますよ!」
「ごめんなさいエルティード様、今はそれどころじゃないんです。早くネズロを止めなければ」
引き止める間もなく、フェルモンド先生は走り去っていった。
頭脳派のはずなのにやけに足が速く、フェルモンド先生の姿はあっという間に路地の奥へと消え去っていった。
呆然としていたクレアさんが視界に入って、はっと我に返る。こうしている場合じゃない、早くフェルモンド先生を追いかけなければ。
フェルモンド先生はやけに焦っていた。『ネズロ』という言葉が気になるところではあるが、それは追いかけながら考えればいい。
「ごめんクレアさん、一人で逃げて! 僕はちょっと行ってくる!」
少しでも速度を上げるため、もう一度成長した姿へと戻す。
そしてクレアさんの返事を聞くのも待たずに、フェルモンド先生の去っていった方向へと走り出した。
しばらく走ると、フェルモンド先生の後ろ姿が見えた。
あとからあとから建物を建てているせいで、まるで迷路のように入り組んだ路地を必死で走り抜ける。フェルモンド先生の背中は遠く、このときばかりは高身長イケメンの足の長さを憎んだ。
複雑な道を迷いもせず進んでいくフェルモンド先生の様子に、少しだけ不安を覚える。
一体この先に、何が待っているというのか。
突然の爆発といい、急に現れた焦った様子のフェルモンド先生といい、分からないことだらけだ。『ネズロ』というのも、今の状況と何か関わりがあるのだろうか。
しかし今はひたすら走る他なく、痛み始めた足から意識を逸らす。
そしてもう一度前を見たときには、フェルモンド先生の姿は消えていた。
「しまった、見失った……!」
考え事なんてしてるからだ。フェルモンド先生の足が無駄に速いのも悪い。
いくつもある分かれ道を順に覗いてみるが、いずれの道の先にもフェルモンド先生の姿は見当たらなかった。
俺が途方に暮れそうになったところで、近くからまた爆発音が聞こえた。
まさか、フェルモンド先生が『ネズロを止めないと』と言っていたのは、爆発のことだったのか――?
そんな可能性が頭に浮かぶが、既に体は動き出していた。
さっきとは対照的に、爆発音が聞こえてきた方向へと向かう。明確な場所は分からなかったが、ある程度の方向が分かれば十分だ。
「待ちなさいネズロ!」
しばらく走ると、フェルモンド先生の叫ぶ声が聞こえてきて、ますます速度を速める。
どうやら近くには『ネズロ』がいるようだ。
止めなければという先ほどの発言、そして爆発の近くにいるところから考えて、ネズロはこの事件の首謀者なのかもしれない。
金属がぶつかりあうような音と、衝撃音が聞こえてきて、嫌な予感に拍車がかかる。
ぐっと足に力を込めて、最後の道を一気に駆け抜けた。
その先には燃え盛る建物をバックに、フェルモンド先生と全身黒づくめの男が対峙していた。影ができていて顔はよく見えないが、確実に先ほど森の中で出くわした男性と同一人物だ。
おそらくこの男が『ネズロ』なのだろう。
フェルモンド先生は振り下ろされた大剣を、細身の片手剣で受け止めていた。しかしフェルモンド先生の剣は傍目から見ても分かるほどに強度が足りておらず、今にも折れてしまいそうだ。
「フェルモンド先生!」
ほとんど無意識にそう名前を叫ぶ。
フェルモンド先生は顔をしかめ、俺を睨み付けた。普段の穏やかな様子からは考えられないような険しい表情だ。
「どうして追いかけてきたんですか、バカですかあなたは! 早く逃げろと言ったでしょう!」
「よそ見とは随分と余裕だなっ!」
ネズロの大剣が片手剣を弾き飛ばす。衝撃で吹き飛んだフェルモンド先生が、ズザッと音を立てて俺の前に倒れた。
「何かついてきたと思ったら、さっきの白髪野郎じゃねえか。フェルモンドの知り合いか?」
男の言葉に返答はせず、代わりに短剣を取り出して構える。
ネズロはそれを見て心底面倒そうに顔を歪めた。
「フェルモンド先生に近付くな。少しでも動いたら魔法を放つ」
背後に水の弾丸を生成しながらそう告げる。それでもネズロはひるむ様子一つ見せず、着実に一歩ずつこちらへ近付いてくる。
大口叩いて脅したはいいものの、こいつが何者で、どんな攻撃をするのか分からないので、迂闊に魔法を放つわけにはいかない。
ネズロはそれが分かっているのかいないのか、余裕そうな笑みを浮かべながらこちらへ歩いてくる。
俺が短剣を構える腕に力を込めると同時に、地面に倒れ伏していたフェルモンド先生が体を起こし、俺とネズロの間に立ちはだかった。いつの間に拾っていたのか、左手には片手剣が握り直されている。
「ネズロ、エルティード様に手出しすることは許しません。攻撃するなら僕だけにしろ」
ふらつきながらもネズロへ向かって敵意を向けるフェルモンド先生。
ネズロはフェルモンド先生の言葉を聞いて、眉間に皺を寄せた。
「ハッ、満足に戦えもしないくせに、一丁前によく言うよ」
「何故このようなことをするのです。あなたに、大切な友人だったあなたに剣を向けるだなんて、僕は……」
「友人? 笑わせるな、フェルモンド。オレたちが本当の意味で友人だったことなんて一度たりともなかったっていうのに」
ネズロが不快そうに眉間に皺を寄せる。
顔にこそほとんど出していないが、フェルモンド先生はわずかに動揺しているように見える。
「確かにあのときのオレたちは仲がよかったし、それが続くものだと思ってた。でもそのちっぽけな友情を壊したのはいつだってお前だったろ」
フェルモンド先生は何か言おうと口を開いたが、言葉が紡がれることはなかった。代わりにネズロが舌打ちをして、大剣を構え直した。
フェルモンド先生はハッとした顔をして俺のほうを振り返った。
「エルティード様、早くここから離れて」
「で、でも、フェルモンド先生一人置いていくなんて……」
フェルモンド先生にも自身の考えがあるのだろうが、見捨てるような真似はしたくない。
「いいから早く!」
フェルモンド先生からは聞いたことがないほどの大声を出され、びくりと肩が跳ね上がった。
ネズロはなんの前触れもなく大剣を下ろすと、俺たち二人から視線を外した。
突然の行動を呑み込めずにいると、ネズロはあろうことか大剣をどこかへと消し去ってしまった。
「……なんのつもりです」
「興が冷めた。今ここでお前と戦ったところでなんの得もないしな。今日は元々ちょっとした実験のつもりだったんだ。本番を楽しみにしとけよ、フェルモンド」
そう言うと、ネズロは跡形もなく姿を消してしまった。空間魔法だろう。
フェルモンド先生は先ほどまでネズロが立っていた辺りを見て、悔しげな表情を浮かべている。
「クソ、だめだった……!」
普段の綺麗な言葉遣いとはかけ離れた発言に驚く。先ほどのやり取りからして、ネズロと呼ばれた男とフェルモンド先生は複雑な関係にあるようだった。
フェルモンド先生は思い出したように剣を鞘に納めると、いつもの柔和な微笑みを浮かべた。しかし、その笑顔は少し無理をしているように見える。
「エルティード様、まずはお詫びを。危険な目に遭わせてしまいました……」
「僕が逃げなかったせいなんだから、フェルモンド先生は悪くないですよ」
俺がそう言っても、フェルモンド先生はまだ申し訳なさそうにしている。
そんなことよりも、ネズロが何者なのか、そしてフェルモンド先生とどういう関係なのかが聞きたいんだが……果たして触れていい話題なのか。
現状あの男について俺が分かっているのは、夜鴉団に関わりがあるということだけで、それなら何故フェルモンド先生と知り合いなのか余計に分からない。
どう聞こうか考えていると、フェルモンド先生が不気味な笑顔でこちらを見ていることに気付く。さっきの優しげな微笑みはどこに置いてきたんだ。
思わず後ずさりすると、フェルモンド先生も一歩俺に近付いた。
「ところでエルティード様は、どうして一人でここにいらっしゃるんでしょうね? これはお説教が必要でしょうか」
「勘弁してください……」
「はは、冗談です。それよりもエルティード様、僕に聞きたいことだらけなのではないですか?」
全く冗談に聞こえなかったことは置いておき、考えていたことを言い当てられ、思わずドキリとする。
「あのネズロという男は何者なんですか?」
そう聞くと、フェルモンド先生は困ったように眉を下げて答える。
「あの男、ネズロは――僕の元同僚で、幼馴染です」
3
ルナーレ・フェルモンドは代々学者を輩出してきた優秀な家、フェルモンド家に生まれた。彼も例に漏れず秀でた頭脳を持っており、幼いながらに様々なことを学び、考えた。
一を聞けば十を理解し、大人顔負けの知識と柔軟な発想力を持っていた彼は、一族からの期待を一身に背負っていた。
そんなルナーレには、物心ついた頃からよく遊んでいた仲のいい友人がいた。フェルモンド家に仕える使用人の息子であるネズロだ。
ネズロの母親は、ちょうどルナーレが生まれた頃にフェルモンド家に仕え始めた人物だ。
家柄は決していいとは言えなかったが、使用人の中でも特に優秀だった彼女は、ルナーレ付きの使用人に任命されていた。
その息子であるネズロと友人関係になるのは、ごく自然な流れと言えるだろう。
ルナーレとネズロには身分の差があるものの、とても気が合った。二つ歳の差があったが、そんなことも大した問題ではなかった。
とにかく二人は、誰が見ても分かるぐらいとにかく仲がよかった。しかし二人の友人関係には、ある問題があった。
当時は身分による差別が激しく、貴族とそうでない者たちの間には大きな格差があった。
多くの貴族は平民を下賤な者だと見下しており、遊んでいるところが見つかってしまうとひどく叱られたのだ。
それでも二人は大人たちの目を盗んでは、二人で楽しく遊んでいた。
それは、ルナーレがフェルモンド家の次期当主候補として、厳しい教育を受け始めてからも続いていた。
「ルナーレ! もう勉強は済んだ?」
ネズロが窓の外から中を覗き込んで、そう声をかける。机に向かっていたルナーレは、その元気な声を聞いて顔を上げた。
「ネズロ。なんてところからやってきたのさ。勉強はもうすぐ終わるけど、大人たちに見つかったら、また怒られてしまうよ?」
遊んでいるところが見つかった場合、いつも叱られるのはネズロのほうだった。
ルナーレも多少は注意されるものの、非があるのは身分の低いネズロのほう、ということにされてしまうのだ。
ルナーレはそのことを申し訳なく思っていた。
「へーきへーき。それより早く遊ぼうぜ!」
「……分かったよ。集合場所は?」
「いつもの木の下! 早く来いよ!」
ネズロはそれだけ元気よく告げると、どこかへと走り去っていった。ルナーレはその様子を見送ってから、また勉強に戻った。
二人は時々叱られたり、都合が悪く遊べない日もあったりしたが、毎日のように楽しく遊んで過ごしていた。
使用人や大人たちも次第に二人が遊ぶことを見逃してくれるようになった。
唯一、ルナーレの父――フェルモンド家の現当主だけは、それを認めていないようだったが。
しかし、彼は多くの場合書斎にこもっているか不在にしていたので、問題なかった。
二人はすくすくと育ち、ルナーレは十歳に、ネズロは十二歳になった。
ルナーレは王立学園の入学年齢である十歳になる前から、特待生としての入学が決まっていた。
しかし形式上、試験を受ける必要があり、ルナーレはそのための支度をしていた。
そして王立学園の入試が、一週間前へと迫ったときだった。
ルナーレは自らの父である、フェルモンド家現当主の前に立っていた。
「父上、何故ネズロの受験を認めてくださらないのですか!」
「だめなものはだめだ。平民の受験は認められないと学園の規則で決まっている」
必死に訴えるルナーレに向かって、当主はそう冷たく言い放った。
当時の王立学園は貴族にしか門を開いておらず、平民の受験と入学は原則認められていなかった。
なんともなしにそう言ってのけた当主を、ルナーレは睨み付けた。
「例外を除いて、でしょう! 貴族の推薦があれば、平民でも受験が許可されるはずです! ネズロがとても優秀なのは、父上もご存じなのではないのですか。それこそ僕と同等か、それ以上に」
ルナーレは、友人であるネズロがとても聡明であることを、身をもって知っていた。
ネズロはルナーレが頭を悩ませていた問題を、横からなんでもない様子で解いてみせることが、たびたびあった。
常人ならば理解できないであろうルナーレの思考を、ネズロはよく理解していた。
ルナーレはネズロのことを心底尊敬しており、だからこそ平民であることを理由に冷遇されることが許せなかった。
幼いころから厳しい教育を受けているルナーレと、ただの使用人の息子であるネズロとは知識の差がある。
だが学園に入学すれば、その差もなくなる。もっとネズロの才能を生かせるはずだ。
ルナーレはそう考えて当主にネズロの受験を認めるよう頼んだが、当主は何を言っても首を横に振るだけだった。
「だからいかんのだ。ルナーレ、考えてもみなさい。もし下賤な平民風情が、フェルモンド家の子息であるお前より優秀だったらどうなる? フェルモンド家の面目が丸潰れだろう」
「だからネズロの受験を認めないというのですか……!」
ルナーレは悔しさで歯を食いしばった。
この国に蔓延る身分差別を心底憎んだ。そして何より、それをどうすることもできない自分自身が不甲斐なかった。
「とにかくそういうことだ。試験の日も近いのだろう。余計なことを考えていないで、お前は勉学に励みなさい」
「……はい、父上」
ルナーレは当主の言葉に頷くことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
「よう、ルナーレ」
落ち込んだ様子で当主の居室から出てきたルナーレに、ネズロはいつもと変わらない様子で声をかけた。
「ネズロ……ごめん、やっぱり君の受験は認めてもらえなかった」
「そんなに落ち込むなよ。仕方ないって、オレは平民なんだから。それにもし認めてもらえても、オレは試験の段階で落ちちまうだろうし、無駄に悲しまずに済んだってことで」
ネズロは明るくそう言ったが、ルナーレの表情は暗くなるばかりだった。
「そんなことない、君は――」
言いかけたルナーレの声は、ネズロの言葉によって遮られてしまう。
「本当にいいんだよ、ルナーレ。オレはお前が、ああ言ってくれるだけで嬉しいよ」
そう言ってネズロはあどけない笑みを浮かべてみせた。しかしその笑顔にはどこか、暗い何かが見え隠れしているような気がした。
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