あの日の約束を今

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第1章

君の事が知りたい

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僕は田舎から都会にに引っ越してきて一年が過ぎた。友達もそこそこ出来て充実した学校生活を送っていた。ある日の放課後、いつもなら真っ直ぐ家に向かって自転車を走らせるのだが今日はお金を下ろすため郵便局に向かっている。すると途中の河川敷で川に向かって一人座り込んでいる少女が居た。後ろからだが、その少女は綺麗だった。黒いサラサラとした長髪が風に吹かれ揺れていた。僕は自転車を走らせる事を忘れていた。10秒が経過した頃、僕の視線に気付いたのか黒髪長髪の少女が振り向いて僕の方を見た。一目惚れしそうだった。すると、少女が話しかけてきた。
「そこで何してるんですか?」
こっちのセリフだよ。心の中で思わずツッコミを入れてしまった。流石に少女の事を見ていたなんて言えたもんじゃない。
「空を見ていたんだ」
雲一つない快晴だった。
「君は何をしてるの?」
「私はいつ死ぬのかを考えてました。」
人だけじゃないが、生まれたものはいつか死ぬ。機械だっていつかは壊れる。けれども、いつ死ぬかなんて考えた事はない。僕は自転車を置いて彼女の方に歩るいた。
「自転車盗まれちゃいますよ?」
「いいんだ、取られたら取られたで」
今は彼女の事に興味があって自転車なんてどうでもよかった。
「話聞かせてくれないかな?」
初対面の男の子に話を聞かせろと言っても聞かせてはくれないだろうと思っていたが、彼女は戸惑うことなく僕に話してくれた。
「私、生まれた時から病気に罹っているんです。」
「病気?でも、全然そんな風には見えないけど、何て言う病気なの?」
「酸素病です。本来、酸素は人にとって無害なんだけど、私にとっては毒なんです。」
僕は驚いた。酸素病という聞いたことの無い病気に。
「私の余命あと一年なんです。どうやら、酸素病に罹った人は私が初めての様で、治療薬が作られていないんです。いわゆる不治の病ですね。」
彼女は笑いながら僕に説明した。
信じられるだろうか、不治の病に侵されているのに、笑いながら河川敷に座る女の子が居ると。僕は夢を見ているのかと思った。
「怖くないの?」
「怖いですよ」
当たり前だ。怖いに決まってる。
「入院とかしないの?」
「あと一年しかないのに、病室でじっとしてるの勿体なくないですか?」
確かに彼女の言う通りだ。家だって一年間ずっと、じっとしているのは耐えられない。
風が冷たくなってきた。気づけば空は赤色に染まっていた。
「じゃあ暗くなってきなので帰りますね」
「うん、じゃあね」
彼女は帰って行った。本当はここで気の利いた事を言うのがベストであろう。だしかし僕は何を言えば良いか分からず何も言えなかった。郵便局はもう空いていないのでコンビニでお金を下ろした。
次の日の放課後、僕は家ではなく河川敷に向かっていた。あの女の子が気になるからだ。その女の子は今日も河川敷に座っていた。僕は話しかけた。
「今日も考え事?」
「はい」
「何考えてたの?」
「蛍を見てみたいなって、私ここで生まれたので蛍を見た事がないんです。知ってます?蛍の寿命はだいたい一年なんですよ?なんかわたしみたいじゃないですか?」
蛍は見た事ある。でもそれは僕がまだ2才の頃だ。なので僕もあまり覚えていない。
「僕さ、一年前にここに引っ越してきたんだ。前に住んでいた所に蛍居たんだけど、見たの幼い時だったから覚えてなくて、見てないに等しいんだ」
彼女は羨ましそうに僕の顔を見て言った。
「えっ、何それずるいんだけど」
「じゃあ今度ペットショップ行く?」
彼女は怒りながら笑って言った。
「ペットショップに蛍いるのかな?」
「いるんじゃない?」
「でもやっぱり、山の中とかで見たいなー」
「じゃあ今度連れて行ってあげようか?」
僕は勇気をだして誘った。考えてみれば女の子を誘うなんて初めてだった。
「いいの?」
彼女は驚いたように言った。
「僕も見てみたくなった」
「約束だよ?」
彼女は嬉しそうだった。その後連絡先を交換した。どうやら、彼女の名前は
「さやか」と言うらしい。
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