白鬼のミタマ

月並

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火種 1

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 青葉が目に眩しく、ミタマは目を細くしました。

「ミタマ、ここにも筍あるわよ!」

 弾んだサラの声を聞いて、ミタマは顔をほころばせました。そして彼女の元へ向かいます。



 籠に筍を詰めて、ミタマとサラは帰宅しました。

「おかえり我が息子!」

 ミタマが戸を開くなり、やたらと明るい声が飛んできました。見れば国人が、囲炉裏のそばであぐらをかいています。

 ミタマは奥にもうひとり、男がいることに気が付きました。
 このあたりでは見られない、上等な着物を着ています。座る姿もきちんとしており、育ちの良さが伺えました。

「ああ、このお方は武運たけゆき様だ。戦に負けて逃亡中。匿ってやってくれな」

 よく見れば、武運と紹介された男の横には、鎧が一式置かれていました。
 武運はミタマの方へきちんと体を向けると、両拳を床につけて頭を下げました。

菊池きくち武運だ。突然押しかけた無礼を詫びさせてくれ」
「あ、いえこちらこそ、いつも父がお世話になっております?」

 ちらりと国人を盗み見ると、彼は満足そうにうんうんと頷きました。

「さすが我が理解者だな! うちは菊池家にお世話になっている。主に私の刀を買ってもらったり、あと刀を買ってもらったり」
「刀買ってもらってしかないじゃん。いやまあ、我が家の大事な収入源だからありがたいけど」

 ミタマは背負っていた籠を下ろしました。そこでサラの姿が見当たらないことに気づきます。
 探しに行こうとしましたが、国人の「息子!」という声に動きを止めました。

「はいこれ」

 渡されたのは、刀でした。引き抜くと、鋼が鈍く光ります。

「新作だぞぉ」

 父親はニコニコとしています。
 ミタマはその刃を眺め、首をひねりました。

「いつもと雰囲気が違うな。何使ったんだ?」

 フフンと、国人は得意げに鼻を鳴らします。

「試し斬りできる場がもうすぐできるはずだから、楽しみにしてろ」
「は? 今までそんなこと、したことないだろうが」
「今回のはそれぐらい自信があるんだ!」

 キラキラと目を輝かせる国人に、ミタマはため息をつきました。

「はいはい。俺はちょっとサラを探してくるから」
「夕飯はどうするんだ」
「親父が作れよ。どうせ試し斬りとやらまでは刀作り、しないんだろ?」

 国人は「それもそうか」と呟くと、籠を持って台所へ向かいました。
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