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第3部 天の碧落
幕間
しおりを挟むその国の名はネリス。
魔王を女神と定めたる国の物語。
己の身ひとつと、己の心の気高さのみを頼りとし、時代を駆け抜けた者達の
歴史の正史には顕れざる、
タピスリーの繋ぎ目と繋ぎ目の間にうずもれる、
誰に語られる事もなく、
誰の記憶にもとどまることのない。
けして語られる事もなき、
叙事詩。
———————
その王子が王位を継ぐことは無い、と予言された。
長じて王子は「魔王」を封じ込めた宝石の持ち主になり、それが為、彼の一族は魔王の望みを果たすまで呪われることとなった。
呪いは多くの者を巻き込み、彼らを一様に不幸にした。
王子の一族は絶え、彼の愛した妻も子もそして子々孫々までも不幸を引きずった。
誰が知るだろう。
それが多くの者を守ろうとした結果だと。
民や、家族や、愛する者を守ろうとした結果だと。
誰に言えるだろう。
彼らを守ろうとした結果、彼らを含めそれに続く多くの者を不幸にした事を。
誰に伝えればいい。
そして、誰に謝罪すればいい。
魔王と呼ばれた悪魔が、それが為、己の存在を憂い、己を封じようとした事は罪か?
彼の為に己の残りの人生を捧げた友の行為は罪か?
彼らの為に、後に残る道を選んだ王の選択は罪だったか?
皆がそれぞれの事を思って取った行動が引き起こした結果の不幸を、誰が裁けるだろうか?
その悲劇の連鎖の果てに出会った彼らを、天の導きというのか。それとも新たな悲劇の始まりだと?
いつか、誰か伝えるだろうか。
彼らの生きた時間。
事の始まりと顛末。
彼らの想い──その全てを。
この。
誰に語られる事もなき叙事詩を。
———————
題名:語られる事もなき叙事詩3
~ 天の 碧落 ~
作:伊東 馨
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