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第1章 名もなき者たちの始まり
第1話 モブの苦しみ
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──人々の声で目を覚ます。
鬱陶しい声だ。だがそれは自分が起きなくてはならない時刻である知らせでもあった。
ベッドから起き上がって手櫛で寝癖を一応は直す。鏡がない自室では格好を確認する手段もないが。
寝間着から服装を着替えて自室を出る。大勢の若い男女が通路を歩いていた。みんな、食堂に向かっている最中だ。
面倒だから手短に今の状況を話そう。俺は藤原悠司。言わなくても分かるだろうが日本人だ。
しかし今、食堂に向かっている道中の俺の視界に日本人はいない。それどころか外国人と呼べるものもいない。いるのは異世界人だ。
そう、異世界人。異世界だ。俺は異世界にきていた。だから正確には俺が異世界人で彼らはこの世界の住民なんだが……まあそのあたりはどうだっていい。
とにかく俺は異世界にきていた。経緯だってあるがほとんど無意味な話だ。寝て起きたらこっちに来ていただけだ。
森の中をさまよっていたところ、ギルドとかいうところに保護されて今こうしている。保護団体ってわけでもないが善意で俺を置いてくれている。
このギルドは色んな人間を助けるための組織らしい。人員を迎え入れてどこかしらから依頼を受けてそれを解決する、そんな感じだ。助けてくれたのもそういう活動理念からだろう。
現状の説明はこれぐらいでいいだろう。俺がどういう人間かは、どうせすぐにわかる。
食堂に到着。かなりの広さを取ってあって、100人は入れそうに見える。厨房と直結しているタイプでカウンターで順番に食事をトレイで受け取っていく。列に並んで俺も受け取り、適当に空いている席に座る。
ここにきてもう2ヶ月間ほどになるが食事は幸いにも身体に合っていて弱ったりはしない。幸運といっていいだろう。味は良くも悪くもない。大人数を賄う都合上、仕方ない。
ひとりで食事を取っていると、近づいてくる奴らが現れた。
「よう悠司。座っていいか?」
「やっほー」
男──怜司が返事を待たずに俺の向かい側に座り、頭空っぽの挨拶をした女──蒼麻《そうま》がその隣に座る。不愉快だったが断るタイミングが存在しなかった。
このふたりはどちらも日本人だ。俺と似たような時期に飛ばされてきて、やはりここに拾われた。年齢も近いせいか、よく絡まれる。
年齢の近い日本人が同じような時期に同じような場所に飛ばされる、となると運命的なものを感じるが何にでも理由があるわけでもないし、突き止める術も動機もないので考えないことにしている。
どうせ帰りたいわけでもないしな。
元いた世界の境遇は最低だった。富裕層の生まれだったのはいいものの、早々に両親から見放されていないもの扱い。学校では恋人どころか友人もおらず、いじめられる対象にさえならない。それが俺だった。
向こうじゃ行方不明になってるだろうが誰も探さないし、気付きもしないだろう。そう思えるほど俺の存在は無意味で無価値だった。
だから帰る理由はない。こっちの方がマシだ。
ただし、マシなだけで、良いってわけじゃない。
異世界に来たからには色々なことができるかもしれないと俺は考えた。何か能力を与えられていたり、何か運命的な出会いがあるとかなんとか。とにかく何かがあって俺の人生は好転するんじゃないかと期待した。
だけどそれは完全に見当違いだった。甘かった。俺はそもそもの認識を間違っていたんだ。
今、俺は異世界にいるがひとりでいる。目の前にふたりいるがこいつらはちょっと置いておこう。
──あぁ、そうだ。目の前にいるこいつらを置いておこう、と考える部分が問題なんだ。
俺はこいつらが苦手だった。ただ境遇が同じというだけで気軽に食事を一緒に取ろうとするこいつらのことが。ただそれだけのことだが、それだけの理由で俺とこいつらは違う人種だった。
そう、人種。俺が俺であること。それが全ての問題だった。異世界にきたからといってそれが変わるわけじゃない。俺は俺のまま。俺が俺だから元いた世界で失敗した。
それが変わってないのに、異世界にきただけで人生が好転するわけがない。異世界だろうがなんだろうがよほどおかしなところに行かない限り、そこには人間がいる。人間とグループを作れなかった俺は、今回も作れないまま。ほとんど何も変わっちゃいなかった。
「相変わらず悠司は静かだねー」
「お前みたいにうるさいやつばっかりじゃないって」
なにおー、と言って女が男にじゃれついている。こんなものを目の前で見せられることは拷問だ。食事を終えてとっとと席を立つことにした。
こいつらは当然だが俺以外にも異世界人の友人がいて良い関係を築いているようだ。それが俺にはできなかった。
だから──俺はこいつらが苦手だった。
鬱陶しい声だ。だがそれは自分が起きなくてはならない時刻である知らせでもあった。
ベッドから起き上がって手櫛で寝癖を一応は直す。鏡がない自室では格好を確認する手段もないが。
寝間着から服装を着替えて自室を出る。大勢の若い男女が通路を歩いていた。みんな、食堂に向かっている最中だ。
面倒だから手短に今の状況を話そう。俺は藤原悠司。言わなくても分かるだろうが日本人だ。
しかし今、食堂に向かっている道中の俺の視界に日本人はいない。それどころか外国人と呼べるものもいない。いるのは異世界人だ。
そう、異世界人。異世界だ。俺は異世界にきていた。だから正確には俺が異世界人で彼らはこの世界の住民なんだが……まあそのあたりはどうだっていい。
とにかく俺は異世界にきていた。経緯だってあるがほとんど無意味な話だ。寝て起きたらこっちに来ていただけだ。
森の中をさまよっていたところ、ギルドとかいうところに保護されて今こうしている。保護団体ってわけでもないが善意で俺を置いてくれている。
このギルドは色んな人間を助けるための組織らしい。人員を迎え入れてどこかしらから依頼を受けてそれを解決する、そんな感じだ。助けてくれたのもそういう活動理念からだろう。
現状の説明はこれぐらいでいいだろう。俺がどういう人間かは、どうせすぐにわかる。
食堂に到着。かなりの広さを取ってあって、100人は入れそうに見える。厨房と直結しているタイプでカウンターで順番に食事をトレイで受け取っていく。列に並んで俺も受け取り、適当に空いている席に座る。
ここにきてもう2ヶ月間ほどになるが食事は幸いにも身体に合っていて弱ったりはしない。幸運といっていいだろう。味は良くも悪くもない。大人数を賄う都合上、仕方ない。
ひとりで食事を取っていると、近づいてくる奴らが現れた。
「よう悠司。座っていいか?」
「やっほー」
男──怜司が返事を待たずに俺の向かい側に座り、頭空っぽの挨拶をした女──蒼麻《そうま》がその隣に座る。不愉快だったが断るタイミングが存在しなかった。
このふたりはどちらも日本人だ。俺と似たような時期に飛ばされてきて、やはりここに拾われた。年齢も近いせいか、よく絡まれる。
年齢の近い日本人が同じような時期に同じような場所に飛ばされる、となると運命的なものを感じるが何にでも理由があるわけでもないし、突き止める術も動機もないので考えないことにしている。
どうせ帰りたいわけでもないしな。
元いた世界の境遇は最低だった。富裕層の生まれだったのはいいものの、早々に両親から見放されていないもの扱い。学校では恋人どころか友人もおらず、いじめられる対象にさえならない。それが俺だった。
向こうじゃ行方不明になってるだろうが誰も探さないし、気付きもしないだろう。そう思えるほど俺の存在は無意味で無価値だった。
だから帰る理由はない。こっちの方がマシだ。
ただし、マシなだけで、良いってわけじゃない。
異世界に来たからには色々なことができるかもしれないと俺は考えた。何か能力を与えられていたり、何か運命的な出会いがあるとかなんとか。とにかく何かがあって俺の人生は好転するんじゃないかと期待した。
だけどそれは完全に見当違いだった。甘かった。俺はそもそもの認識を間違っていたんだ。
今、俺は異世界にいるがひとりでいる。目の前にふたりいるがこいつらはちょっと置いておこう。
──あぁ、そうだ。目の前にいるこいつらを置いておこう、と考える部分が問題なんだ。
俺はこいつらが苦手だった。ただ境遇が同じというだけで気軽に食事を一緒に取ろうとするこいつらのことが。ただそれだけのことだが、それだけの理由で俺とこいつらは違う人種だった。
そう、人種。俺が俺であること。それが全ての問題だった。異世界にきたからといってそれが変わるわけじゃない。俺は俺のまま。俺が俺だから元いた世界で失敗した。
それが変わってないのに、異世界にきただけで人生が好転するわけがない。異世界だろうがなんだろうがよほどおかしなところに行かない限り、そこには人間がいる。人間とグループを作れなかった俺は、今回も作れないまま。ほとんど何も変わっちゃいなかった。
「相変わらず悠司は静かだねー」
「お前みたいにうるさいやつばっかりじゃないって」
なにおー、と言って女が男にじゃれついている。こんなものを目の前で見せられることは拷問だ。食事を終えてとっとと席を立つことにした。
こいつらは当然だが俺以外にも異世界人の友人がいて良い関係を築いているようだ。それが俺にはできなかった。
だから──俺はこいつらが苦手だった。
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