27 / 57
アルベルト・バーンシュタインその4:アルベルトとオークとある女の話
素晴らしき哉、労働
しおりを挟む
一日目。
「まずは畑仕事するブヒ」
「ぬぉおおおおおおおおおっ!!」
──二日目。
「農作物を収穫するブヒ」
「おぉおおおおおおおっ!」
──三日目。
「水を川から汲んでくるブヒ」
「ぬぉおおおおおおお……」
──四日目。
「獲物を捌くブヒ」
「ぬぉおおお……おおおお……」
──五日目。
「掃除するブヒ」
「おぉおお……」
──六日目。
「畑仕事するブヒ」
「…………おぉ……」
──七日目。
「今日も畑仕事するブヒ」
「………………」
…………こ、殺される。過労で死ぬ。
ここ一週間、俺はずっとこき使われていた。腕に脚、腹に背中。ありとあらゆる場所で筋肉痛が発生。全身が痛くてもう一歩も動けねえ。こんなに運動させられたのは軍に入りたてのとき以来だ。
外はすっかり暗くなっていて、寝床の手前で力尽きている。あとちょっと動けばいいところなんだが、そのちょっとが遥か遠くに感じられる。
「がんばれ、がんばれ」
寝そべる俺の前で小竜──6号が飛び回っている。うざがる気力も俺には残っていなかった。やべえ、意識が朦朧としてきた。目の前が暗くなってくる。
誰かが俺の脇を抱えて引きずる。おいおい、オークの野郎ども、まだ俺に働けっていうのか。しまいには焼き豚にして食っちまうぞ。
ずるずると足が引きずられる。違和感。オークなら俺の身体ぐらい余裕で持ち上げられるはずだ。こいつは何だ、1号にしちゃ細い。
何とか目を開いてその何者かを見る。そいつはオークどもに日夜、犯されている女だった。
俺は理解した。なるほど、オークには逆らえねえから手近な俺をぼこぼこにして鬱憤を晴らそうってわけだ。悪くねえ考えだ。
ここでちょっと女の状態を見ておこう。女はボロ切れのような服を着せられていたが、酷い扱いってわけじゃなかった。服がボロいのはオークどもの文化の問題で、あいつらにとっちゃ服は適当でいい。むしろボロ布だとしてもあいつら的にはマシなものを着せているつもりなんだろう。
毎日の食事だって優先的に栄養のあるものを女には与えていた。考えてみれば当然のことで、ガキを孕んでもらわなきゃならねえ母体に衰弱されては困るのはオークどもの方だ。
寝床だってまともなベッドだ。俺はなんかよく分からねえ藁が敷いてあるだけ。
総じて俺よりも遥かにまともな扱いを受けていた。つっても、毎日の仕事で完全にチャラだが。
何が言いたいかっていうと、ボロ雑巾みたいになってる俺よりも女の方がなんぼか元気だってことだ。俺をぼこぼこにする体力ぐらいはあるだろう。
「よいしょ、っと」
背中に柔らかな感触。そう言うとお前らは胸だと思うだろうが違う。……じゃあ何だ? 胸じゃねえなら俺にも分からねえ。
一瞬考えて、俺はそれがベッドの感触だと分かった。女は俺をベッドの上まで運んだらしい。意外と力持ちだ。
ベッドの上で殴りたいとは変わった奴だな。まぁ趣味は人それぞれだ、口出すもんじゃねえ。
いつ殴ってくるのかと俺は待っていたが、一向にその気配がなかった。その代わり、何やらがさごそと作業するような音が聞こえてきた。
「これならいいかな……」
どうやら道具プレイがお好みらしい。何でもいいからさっさとしてほしいぜ。
何で俺がこんなに無防備かっていうともう抵抗する気力もないからだ。腕さえ上げられない俺が一体、どうやって抵抗するっていうんだ。教えてくれ。
ベッドに寝かされたまま待っていると、口ん中に何かを突っ込まれる。何だかちょっと固くて甘い……って、林檎だこれ。
口を動かす気力ぐらいは残っていた、というよりも振り絞った俺は頑張ってそれを咀嚼する。疲れ切った身体にはこんなちょっとした食事さえ染み渡る。
ところで何で林檎が突っ込まれてんだ?
もう一度目を開けた俺は女と視線が合った。そいつは二個目の林檎の欠片を突っ込もうとしていた。
「あ……大丈夫ですか?」
女ははにかんでいた。何でかは知らねえ。
俺は混乱していた。こいつは何がしてえんだ。男の口に林檎を突っ込むことが苦痛を与えることだと思ってんだろうか。
ひでえ勘違いだな。直してやろう。
「……林檎……食わしても……苦しく、ねえ……ぞ……」
自分が思った以上に喉が動かなかった。まるで瀕死の重傷でも受けたのかって感じだが気分的には似たようなもんだ。
それはそれとして、女は「え?」と言って固まっていた。これじゃ俺が変なこと言ってるみてえじゃねえか。
その後、俺は辿々しい喋りで女の勘違いを解こうとした。ところがそいつが言うには、単に俺を助けようとしただけらしい。余計に分からなくなった。
さらに詳しい話を聞こうとしたが、猛烈な眠気が襲ってきて俺の意識は一気に落ちていった。おやすみー。
「まずは畑仕事するブヒ」
「ぬぉおおおおおおおおおっ!!」
──二日目。
「農作物を収穫するブヒ」
「おぉおおおおおおおっ!」
──三日目。
「水を川から汲んでくるブヒ」
「ぬぉおおおおおおお……」
──四日目。
「獲物を捌くブヒ」
「ぬぉおおお……おおおお……」
──五日目。
「掃除するブヒ」
「おぉおお……」
──六日目。
「畑仕事するブヒ」
「…………おぉ……」
──七日目。
「今日も畑仕事するブヒ」
「………………」
…………こ、殺される。過労で死ぬ。
ここ一週間、俺はずっとこき使われていた。腕に脚、腹に背中。ありとあらゆる場所で筋肉痛が発生。全身が痛くてもう一歩も動けねえ。こんなに運動させられたのは軍に入りたてのとき以来だ。
外はすっかり暗くなっていて、寝床の手前で力尽きている。あとちょっと動けばいいところなんだが、そのちょっとが遥か遠くに感じられる。
「がんばれ、がんばれ」
寝そべる俺の前で小竜──6号が飛び回っている。うざがる気力も俺には残っていなかった。やべえ、意識が朦朧としてきた。目の前が暗くなってくる。
誰かが俺の脇を抱えて引きずる。おいおい、オークの野郎ども、まだ俺に働けっていうのか。しまいには焼き豚にして食っちまうぞ。
ずるずると足が引きずられる。違和感。オークなら俺の身体ぐらい余裕で持ち上げられるはずだ。こいつは何だ、1号にしちゃ細い。
何とか目を開いてその何者かを見る。そいつはオークどもに日夜、犯されている女だった。
俺は理解した。なるほど、オークには逆らえねえから手近な俺をぼこぼこにして鬱憤を晴らそうってわけだ。悪くねえ考えだ。
ここでちょっと女の状態を見ておこう。女はボロ切れのような服を着せられていたが、酷い扱いってわけじゃなかった。服がボロいのはオークどもの文化の問題で、あいつらにとっちゃ服は適当でいい。むしろボロ布だとしてもあいつら的にはマシなものを着せているつもりなんだろう。
毎日の食事だって優先的に栄養のあるものを女には与えていた。考えてみれば当然のことで、ガキを孕んでもらわなきゃならねえ母体に衰弱されては困るのはオークどもの方だ。
寝床だってまともなベッドだ。俺はなんかよく分からねえ藁が敷いてあるだけ。
総じて俺よりも遥かにまともな扱いを受けていた。つっても、毎日の仕事で完全にチャラだが。
何が言いたいかっていうと、ボロ雑巾みたいになってる俺よりも女の方がなんぼか元気だってことだ。俺をぼこぼこにする体力ぐらいはあるだろう。
「よいしょ、っと」
背中に柔らかな感触。そう言うとお前らは胸だと思うだろうが違う。……じゃあ何だ? 胸じゃねえなら俺にも分からねえ。
一瞬考えて、俺はそれがベッドの感触だと分かった。女は俺をベッドの上まで運んだらしい。意外と力持ちだ。
ベッドの上で殴りたいとは変わった奴だな。まぁ趣味は人それぞれだ、口出すもんじゃねえ。
いつ殴ってくるのかと俺は待っていたが、一向にその気配がなかった。その代わり、何やらがさごそと作業するような音が聞こえてきた。
「これならいいかな……」
どうやら道具プレイがお好みらしい。何でもいいからさっさとしてほしいぜ。
何で俺がこんなに無防備かっていうともう抵抗する気力もないからだ。腕さえ上げられない俺が一体、どうやって抵抗するっていうんだ。教えてくれ。
ベッドに寝かされたまま待っていると、口ん中に何かを突っ込まれる。何だかちょっと固くて甘い……って、林檎だこれ。
口を動かす気力ぐらいは残っていた、というよりも振り絞った俺は頑張ってそれを咀嚼する。疲れ切った身体にはこんなちょっとした食事さえ染み渡る。
ところで何で林檎が突っ込まれてんだ?
もう一度目を開けた俺は女と視線が合った。そいつは二個目の林檎の欠片を突っ込もうとしていた。
「あ……大丈夫ですか?」
女ははにかんでいた。何でかは知らねえ。
俺は混乱していた。こいつは何がしてえんだ。男の口に林檎を突っ込むことが苦痛を与えることだと思ってんだろうか。
ひでえ勘違いだな。直してやろう。
「……林檎……食わしても……苦しく、ねえ……ぞ……」
自分が思った以上に喉が動かなかった。まるで瀕死の重傷でも受けたのかって感じだが気分的には似たようなもんだ。
それはそれとして、女は「え?」と言って固まっていた。これじゃ俺が変なこと言ってるみてえじゃねえか。
その後、俺は辿々しい喋りで女の勘違いを解こうとした。ところがそいつが言うには、単に俺を助けようとしただけらしい。余計に分からなくなった。
さらに詳しい話を聞こうとしたが、猛烈な眠気が襲ってきて俺の意識は一気に落ちていった。おやすみー。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる