クズだが強いし好き勝手やれる俺の話

じぇみにの片割れ

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アルベルト・バーンシュタインその5:アルベルト、7号を手に入れる

死肉喰い(バルチャー)

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 冷や汗が俺の頬を流れ落ちる。殺し屋に背後を取られているのは心臓を鷲掴みにされているような気分だった。落ち着け、冷静に考えろ。
 俺は酔いの吹き飛んだ頭を高速回転させた。一歩間違えたらそれだけであの世のおばあちゃんと感動の再会だ。
 俺の左腕はユラを抱きかかえている。右手は自由に使えるが、声のした方向は背後の右寄り。どう動こうとも相手から丸見えだ。

 おまけに銃は腰の右側にある。振り返って引き抜いて撃つ、なんて映画に出てくる野郎の真似事をしたら振り返る前に殺されて間抜けな死体の出来上がり。西部劇が喜劇になっちまう。
 となるとやっぱり召喚物に頼るしかない。見えていない背後の指示を出すのは不安だが仕方ねえ。

「1号っ!!」
「うわっ!」

 叫ぶと同時に振り返りつつ俺は跳ぶ。突然の行動に抱えたユラが小さな悲鳴をあげた。1号の触手が俺を守るように展開。野郎と俺との間で遮蔽物となる。
 触手の向こう側で突然の爆発。爆煙が路地裏に充満する。何をしやがったか知らないが、とりあえず相手の方を向くことはできた。背後を取られていた状況からは一歩前進だ。

 だが黒煙のせいで周りが見えなくなっちまった。これじゃ2号の子機を出したところで視界の補助にはならない。花か4号を出せば何とかなる、と考えているところに足音。恐らくバルチャーが触手の壁を迂回してこっちに来やがった!
 慌てて俺はユラを引っ張って背後に回す。こいつに死なれたら治癒役がいなくなって困る。

「ア、アルベルトさん!?」
「黙ってろ!」

 ちょっと返事してる間に煙を振り切ってバルチャーが眼前に肉薄。この距離じゃどの召喚物も間に合わねえ!
 バルチャーの右手が薙ぎ払うように振り抜かれる。ぎりぎりのところで俺はユラを退かしながら屈んで回避。頭上を何かが過ぎ去っていく。頭のてっぺんが熱い!
 がら空きになった野郎の腹に思いっきり拳を打ち込、もうとして左手にあっさりと払われる。やばいやばいやばい!
 払う動きと連動して奴の左脚が俺の側頭部に直撃。痛い!

「ぐわっ!!」

 情けない声をあげながら俺は左肩から地面に転がる。頭に走った衝撃のせいで視界が揺らぐ。
 だがいい、ちょっと距離ができたはずだ。
 俺自身がどんなにぽんこつでも動けなくても何とかなるってことを教えてやる。

 空間が歪み1号の触手現れて俺とユラを巻き取る。直前まで俺がいたはずの地面から炎が吹き上がるのが見えた。
 空中で途絶えている1号の触手の根元から先が伸びていき、巨大な触手の塊となる。よし、とりあえず本体は呼び出せた。
 黒煙が風で晴れる。1号の上で頭を上げる。バルチャーの奴は余裕綽々といった感じだった。

 どうやら奴は爆発だの火炎だのそういった系統の魔術を使うらしい。それだけ考えれば大して強くなさそうだが、裏社会で名を轟かせるってのは尋常じゃない。舐めてかかると、それこそ俺を舐めて俺に殺されてきた連中の仲間入りとなるだろう。

「ずいぶんと変わったものをお使いになるようですね。そういった召喚獣は初めて見ました」
「へっ、そうだろうな。これが最近の出来る男の必須アイテムよ。お前も女にモテたいなら覚えておくんだな」

 舌が回るあたり、俺もまだ大丈夫らしい。もしくはやばいときでも舌だけは回る先天性の病気か。

「自己紹介が遅れました。私はバルチャーという名の傭兵です。以後、お見知り置きを」
「くそが、何言ってやがる。その紹介を受けた奴は大体が墓の下じゃねえか」
「ええ、もちろん。ですので短い付き合いになるかもしれませんが、どうぞよろしく」

 にたりとバルチャーが笑い、背筋が冷え込む。びびってる場合じゃねえ、何とかしねえと。
 何か、何とか言いくるめられないか。そのへんにいるホームレスを人質に取るとか女を人質に取るとか……駄目だ。全員殺しそうだ。
 じゃあ土下座して命乞いしたらどうだ。長い命乞いをして油断してる間に……いや、土下座する前か後かにすぐ殺されそうだ。
 思いつく案はどれもこれも駄目。そうこう考えてる間に奴が突っ込んできた!

「1号!!」

 触手の群れが一斉にバルチャーに襲いかかる。乱雑に動くそれらを軽い身のこなしで回避。奴の左手が向けられて、火炎が放たれる。1号がいくつかの触手で壁を作るがそれらの間をすり抜けて俺とユラに炎がぶち当たる。

「あぢぢぢぢぢ!!」
「うわっ!?」

 思わず俺は叫んじまった。服に燃え移った火炎を急いで払って消す。

「だ、大丈夫ですかアルベルトさん!」

 炎に炙られた箇所をユラの両手が触れてくる。鈍痛が走る。

「いてえってお前!」
「ちょっと待ってください!」

 ユラの謎の力で火傷が治癒されていく。殆ど一瞬で痛みが引いた。
 やっぱりこいつはかなり便利だ。こんな便利なもの拾ったばかりで死ぬわけにはいかねえ。
 1号の触手が乱舞してバルチャーが後退。よし、距離が開いた。

「おい、今のうちにお前、自分の怪我治せ!」
「それは……できません」
「何でだ!!」

 首を振るユラに反射的に怒鳴る。が、再びユラが首を振る。

「この力は他人にしか使えないんです。だから、自分の怪我は治せません」

 衝撃の事実に俺は絶句した。つまり、こいつが致命傷を負ったら誰も俺の怪我を治せないってことだ。
 1号に戦闘させながらユラを乗せておくのはマズい。

「分かった。だったらお前はとりあえず自分の命を優先してろ。俺の怪我は後回しでもいい!」
「え、でも」
「黙って言うこと聞いてろ!!」

 魔導書を引き抜き、円盤のついた巨大な銀色の球体──4号を召喚して乗り移る。防御性能が皆無のこいつを呼び出すのはかなりやばいが、速攻でケリをつけないとまず負ける。

「1号、そいつを守ってろ!」
「いいけど、マスターは?」
「決まってんだろ、あのスカした野郎をぶっ殺す!!」

 片手を掲げるバルチャーに俺は相対する。俺には作戦があった。



 ──かなり分の悪い賭けになるが、やるしかない。
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