上 下
256 / 1,047
第三章 知令由学園 後編

第二百二十五話 高いところはダメ

しおりを挟む
 幻泉草を取りに行ったイビン達は上空をルクシールで飛翔していた。

「旦那! 暴れねぇでくだせぇ!」
「うわーーーー! 高いよーー! 落ちるよぅーー! もうダメだよぉーー!」
「落ち着けって! お前さん、元兵士なんだろ!?」
「うるっせえから叩き落せハーヴァル!」
「ぞぞぉーーっ、このお姉さんが一番怖いよぉーーーーーー!」

 すっかり高所恐怖症になったイビンだったが、それ以上に恐ろしいセフィアを見てしまい
高所恐怖症が緩和される。

「やっと落ち着いたか。セフィア、そのまま睨んで……玉を持ち上げるな! もうすぐ
着くから……ったく何で俺のお守り役が増えるんだよ。ルインの奴覚えてろよ……」
「おいイビンてめぇ! 着いたら肩揉めよ」
「ひぃーー! わ、わかったよぅ。こんな綺麗なのになんて怖いんだろう……」

 ルクシールはゆっくりとミッドランド島の最北端位置に上陸する。

「ではあっしは言われた通りここで休憩してやす。気を付けていってきてくだせぇ。
位置がわからなくならないよう、この道具を」
「なんだこりゃ。あいつこんな便利なものまで持ってるのかよ」
「なんでもお知り合いが作ったものだとか。とんでもねぇ奴がいたもんで」
「本当だぞ。うちら傭兵稼業は遭難者も多い。モンスターに突然襲われて行方がわからなく
なる奴も多いからな。ありがたく使わせてもらう」
「ひぃ、ひぃっ……お姉さんこれでいいですか?」」
「ふん、力が足りねぇなおい。それに呼ぶときはセフィア様だろうが!」
「おいセフィア、それくらいにして行くぞ。イビン、様なんてつけなくていいからな」
「んだとハーヴァル! おい、それより喉が渇いた。酒もらうぞ」
「えっ? 今飲むなって……あー!」
「れへ、おいしーれす。いーちゃんも飲むれすかぁ?」
「ひっ……あれ、またおかしくなったよ? こ、こわかったー」
「あーあ。結局こうなるのかよ。仕方ねぇ、俺が背負ってくから剣持っててくれるか?」
「う、うん。重たっ! ハーヴァルさんはこんなの持ち歩いてるの?」
「これがおかしい事に出番がないんだ。俺が駆け付けるとほとんど盾をして
お終いだ。これも呪いのせいかな」
「呪い!? ひえーーー!」
「呪いって聞いただけで驚くなよ……それよりイビン、お前さん円陣の都で
兵士をやってたそうだな。内情は詳しくないのか?」
「僕、下っ端でいじめられてて。全然詳しくないんだ。ごめんよ」
「そうか、別に責めるつもりはない。お前さんもルインの仲間になったからには
幻妖団メルの一員だ。しっかり強くならないとな。
……っていっても俺やセフィアもガーランドにいられない以上、お前さんらと仕事を
するようだが」
「幻妖団メルってなんですか? ちょっと怖そうなんだけどなぁ」
「……おいおい、聞いてないのか? いや、それどころじゃなかったか……
おっと目的地はこの辺りじゃないかな」

 ミッドランド島北端から西へ少し歩いた先にある、美しい小川があり木々が生い茂る場所。
 しかし人が足を踏み入れるには危険で訪れる者は少ない。
 魔湧泉の木陰と呼ばれる場所で小さな泉があった。

「んじゃ手分けして探すぞ。っていってもセフィアはダメだな。酒が入ってる」
「ハバーちゃんらんれすかぁ? わらしをここに置いていくんれすねぇ? 
くすん、ひどいれすぅうー……うっ……」
「ばか、こんな綺麗なとこではくんじゃねぇ! あっちいくぞ! イビン、先に探しててくれ」
「わ、わかったよぅ。一度も来た事がないところは怖いよう……」

 仕方なく言われた物を探しに行くイビン。青色の特徴があるヘンテコな形をした草。
見つけるのは簡単だと思った……が。

「うわーーー---! 変な花が襲ってくるよぉーーーー! 怖いよーーーー! 助けてー!
ハーヴァルさーーん!」
「うお、こいつはソーンアイビーか。しかもこんなに沢山いるとは! 
お前さんも俺と一緒でついてない方だな。仲間が出来て嬉しいぜ。
剣を渡してセフィアを見てろ! あまり遠くにいくなよ。ヘインズの盾!」
「死ぬーーーー! あれ? 攻撃が止まった? 背中が痛いよう……はい剣です」
「やれやれ、見てな。集団で襲われた時用に、何かしらの対策は練っておくもんだぜ。
ゴリアテ! フルッシェンブルグ!」

 重たくてでかい剣が数十倍に巨大化し、目の前の襲ってくるイバラのツルを一閃。
斬撃があたると同時に爆炎を上げる。
 あんな剣、持っているだけでも凄いのにそれを軽々と振るう
金ぴかのハーヴァルを見たイビンは「かっこいい……絵本の主人公みたい」と思っていた。

「もうだめれすぅ、はきなすよあらしは……うっ」
「わあーーー! こっち向いてはかないでようーーー!」
「……俺の活躍って毎回こんなだよなぁ……はぁ、さっさと探すぞ二人とも」
「あの、セフィアはだめみたいだよ? ぐったりしてる」
「んじゃこいつは俺が見てるから探してきてくれ。もう大丈夫だろう」
「えーーー、怖いよーー! ハーヴァルさんが見てきてよぅ」
「悪いが俺はこいつから離れられない呪いでな。ほとほと困ってるんだよ」
「ええ? 寝るときも一緒なの?」
「いや、多少は離れられるが、そこまで遠くは無理ってことだ。
んじゃ、任せたぞイビン」
「……わかった、僕行ってくるよ! よーし頑張るぞー!」

 急にやる気を出したイビンに少し戸惑うハーヴァル。だが納得したような表情を浮かべる。

 あいつは自信を喪失していた時にルインに出会い、いい刺激を受けたんだな。
 これからは出来そうな依頼を任せて自信をつけさせてやるといい……か。
 苦労ついでに暫くは同行して面倒見てやるか……と思っていた。


「うわーーーーーー! ハーヴァルさんの嘘つきぃーーー! まだいるじゃないかーーー! 
怖いよーー! 死んじゃうよぉーーーー!」
「……やれやれだな。全く」 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:435

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,673pt お気に入り:1,219

スキル《創成》を駆使して自由に生きます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:1,393

まれぼし菓子店

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:2,300pt お気に入り:60

無課金で魔王になったので静かに暮らします

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:5

S級冒険者の子どもが進む道

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:451

際限なき裁きの爪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:283

ロルスの鍵

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:22

処理中です...