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第四章 戦いの果てに見出すもの

第二百三十五話 元に戻ったイーファ王

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 フェルドナージュ様とルーンの町に戻ると、袋詰めにされて顔だけ出しているエッジマール王子がいた。
 リルの術が中途半端に解けかかっているのか。時間効果なんだな。

「君ら、忘れていくってひどくないかねぇ? 僕は……ニンファ王女!」
「フェドラートさん、本家縛りをお願いします」
「妖不動の術」
「う、動けない……おや? そちらの世界一美しい女性は一体?」
「それをニンファ王女の前でいうのか?」
「最低ね。飛んだ尻軽男だわ」
「いいんですの。ニンファは昔から知ってますのよ」
「ち、違うんだニンファ。君が一番美しいくて可愛い!」
「ほう、童は二番目と申すか」

 知らぬが仏だ。フェルドナージュ様の不敬をマッハで買うとは、マッハ族もびっくりだよ。
 久しぶりにソンに会いたいな。今度会いにいこう。

「ところでジオ。お前の国に凶悪極まりない妖魔がいるのを知っているか?」

 怒れるフェルドナージュ様の威光にあてられて恐慌状態で話にならない。

「うーん、後にしよう。イビン、またエッジマール王子を担いで持ってきてくれ」
「ええーーーー!? さっきのってもしかして王子様だったの? 僕になんてもの担がせるんだい!」
「気にするな。やっぱりただのムググ族だ」
「元兵士の僕が王子を担いで……ゾォォーーーッ」

 怯えるイビンはいいとして、全員好きなように動き出す。
 まず婆さんの元へ行かないとだな。イーファもそこへ置いてきたし。
 カノンが大分遅れてルーンの町へやってきた。髪型とか変わっててかなり可愛くなってる。

「ごめんなさい、遅くなりました。身だしなみを整えたくて……どう……かな?」
「いいわよ、とっても。ほら見てごらん? お兄ちゃん固まってるから」

 カチコチになってるリル。さて! 婆さんのとこへさっさと行こう! 
 
 町の中の一軒に、ザ・薬ですみたいな建物の看板が見える。
 魔女っぽい絵でツボをかき混ぜてるような絵も見える……うまいな。
 店の中に入ると、やっぱり婆さんはツボをかき混ぜていた。魔女なの? 

「よう婆さん。ポーションを売ってくれ。五十ギャル払う」
「ポーション? ギャル? 何だいそれは」

 定番の持ちネタが通じず玉砕した。

「冗談だ、どうだ? 薬の製作は。何か手伝おうか?」
「いや、もうじき完成じゃよ。ここで待っておれ」
「だっはっは。お前もスライム卒業か! やったな、おい! な?」

 王様をビシバシ叩く骨。ここにいたのかレウスさん。
 よくみるとドーグルにパモにルーもいる。やっぱ仲間意識があるのか、このメンバーは特に。

「ドーグル、イーファと意志疎通できるか? ニンファももうじき来ると思う」
「ああ。だがニンファと同時には意思疎通できぬがよいか?」
「ああ。問題ない」
「ルインよ。エッジマールはどこだ? あやつに娘をやるつもりはないと
くれぐれも言ってほしい。近づかせたくはない」
「大丈夫、縛っておいたから、いくらあの男でもそうは動けないだろう」
「そうか。いよいよ私も普通に喋れるのだな。感謝する。今後は其方に付き従い
行動を共にしたいと思う。どれほど礼を尽くしてもたりぬな」

 イーファはどのくらいスライムでいたんだろう? あまり詳しい事は聞いていないが
国の状況からしてそこまで長い期間ではないのかな。

「出来たぞい。準備はいいか?」
「ニンファがまだだが、戻してからでいいか。頼む」

 婆さんが緑色の光る液体を青銀色のスライムに振りかける。
 どろっとしているようなさらっとしているような……そんな謎の液体だ。
 こんなもので本当に戻るのか……と思っていたら、青銀色のスライムが徐々に形を変えて
人の形を形成し始める。婆さんが慌てて布をかけた。

「あっちを向け! ルインよ」
「ん? 王様は裸なのか?」
「そうじゃ、ほれ!」
「構わぬ。礼を言うのが先だ。布一枚あれば十分」
「そうか。それならば改めて……全然よくありませんでした!」

 目の前には美しい耳が少し長いエルフの女性がいた。

「おい、女王とは聞いてないぞ! 可愛い物好きの王様じゃないのかよ!」
「何を言っている。可愛いのは私自身だ。そうだろう?」

 否定はしないけど! これじゃまた女たらしだのひっかけてきただの言われるわ。

「婆さんとりあえず服着せてくれ……なんでこのタイミングで来るんだい? みんな」
「ルインが脱がせたのね!」
「何してるのよ!」
「おーい婆さん、後は頼んだ。俺ちょっと走ってくる」

 ルーンの町を全速力で走る俺。鬼ごっこだ! みんな! 
 結局数には勝てず追いつかれて連れ戻される。
 まぁみんな怒ってるわけじゃないけどね! 

「改めて礼を言おう。イーファウルトリノだ。我が娘ニンファ共々危ない所であった。
ルインの中でさんざん驚く出来事に遭遇したが……まずはエッジマールの奴を殴りに行くとしよう。
ニンファ、付いてまいれ」
「はいですの」

 止めないんだー……ニンファも何かうっぷんがたまっているのだろうか。
 ルーンの安息所へと赴くと、エッジマールが不動の術で固定されていた。

「おいエッジマールよ。喋る事はできるか?」
「こ、これはイーファ王! ご無沙汰しております。大変な目に合われたとか」
「貴様知令由学園でルインに薬を盛り、さらにはシュウという青年を影武者に操らせたであろう」
「な、なぜそれを!?」
「シュウという青年の状態を見てすぐわかったわ。私も昔おなじようなことをされそうに
なったからな。当然覚えているな?」
「ひぃ!? は、はい。申し訳ありません! どうしてもニンファと二人になりたくて!」
「エッジマールよ。其方に娘は断じてやらん。どうしても欲しくばこのゲンドールを統べる者となれ。
そういったのを覚えているだろう?」
「は、はい。しかしそれはあまりにも……」
「……あまりにも? 出来ぬというのか」
「い、いえ! 成し遂げてみせますとも! この瞬剣のジオが!」

 ジオは相当に強いがゲンドールを統べる王か……今のままでは到底無理だな。
 ゲンドールとはどこまでを指すのだろうか。地底まで入るならフェルドナージュ様以上になれという事。
 それは難しい気がするな。
 ……待てよ? ニンファをとことん可愛くして、ジオのやる気を引き出せれば……とても強き王になり
世界を平和に出来るか? 
 既にかなり強いが、賢さと打たれ弱さを鍛えれば相当な賢王になるかもしれないな。

「なあジオ。本当にニンファを嫁にしたいなら、まずはキゾナ大陸をなんとかしないと
いけないんじゃないか? もし円陣がトリノポートへ出兵するならあちらは手薄。
王子であるお前ならあの国を取り戻せるんじゃないのか?」
「そうしたいんだけどねぇ。どうやら父上……いやあれは別の何かだ。
 そいつの力が僕以上なんだよねぇ……それで協力者を求めていた」
「その者が恐らくベルータスだろう。こやつがその国の王子ならちょうどよい。
失礼な男だが腕は立つなら連れて行こう」
「それがいいかもしれませんね。おそらくベルローゼさんに匹敵するほど武具の扱いに長けています」
「ほう、この俺と同等なのか? ならばついてくるがいい」

 こうしてジオは妖魔軍団の元へ引き渡された。本人としてはニンファといたいようだが
イーファ王がそれを許すはずもない。
 仕方なく従うジオだが、円陣を取り戻したいようで、顔は真剣だった。
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