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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百五話 明日、酒場で

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「……シー。シーー! シーー!」
「うん? ……ああ、すまない。少し前の出来事を思い出していた」

 そう、今の俺はシー。ツイン・シーだ。
 ここは第二十三闘技場。兵士に変装しうまく紛れ込んだまではよかった。
 その後貴族に絡まれて戦闘となり、俺たちは勝利した。こいつはエー。
 もう一人いる仲間がビー。

「しっかりするであります。我々の勝利であります!」
「大したもんだな。伯爵の息子に圧勝とは」
「圧勝じゃない。あいつは俺たちの実力を推し量るために行動していたように見える。
恐らくこうやって兵士に絡み戦闘するのは何か強い目的があってのことだろう」

 フィルミナとエルゲンを叱責しているコーネリウスを見てそう思う。
 あの二人じゃ確かに部下として役不足だ。とてもではないが、コーネリウスを
主として認め、行動しているとは言い難い。
 忠誠心で動いている気配はこれっぽっちも見受けられなかった。
 戦闘前からも見て取れた熾烈な性格。恐怖心で他者を支配してもまともに
機能するはずがない。恐怖を抱いている精神状態は、既にまともではないのだから。
 

「コーネリウス……殿でいいのかな。我々トループはそろそろ一度引き上げたいのだが?」
「少し待ってくれないか? ……シー、君と連絡を取りたい。
君たちの隊長は誰だ? やはりシーなのか?」
「いや、隊長はここには来てないよ。そういえば隊長の名前も知らないな」
「マーサル隊長であります!」
「マーサルか……ただの上等クラストループ隊長だったはずだ。そこになぜこんな猛者がいる」
「自分は第七トループ、マーサル隊長の元からの部下でありますが、彼らは別であります」
「そういうことか。つまり新しく配属された二名にしてやられたってところかな」
「そ、そーだな。新しく配属されたばかりでよくわからないんだ」
「俺はただの下級トループ所属だよ。落ちた組……だけどな」
「君が下級? 冗談はよしてくれ。あの射撃の腕で下級などあり得ない。
軍編成管轄は一体何を考えている!」
「知らないのかい? 最近じゃ賄賂や天下りトループのいびりで現場は酷い状態さ。
賃金もろくに支払えない隊だってある」
「……そういった話は一部から聞いている。ノーブルトループにおいても全てが
統率を取れているわけでは無い。メイズオルガ様には申し訳ないと思っている。
しかしマーサルか……困ったな。あの隊に掛け合うにもコネと時間が必要か……」
「一体何の話だ? 頼みたい事って言うのはなんなんだ」
「ここでは話せない……仕方ない。明日、変装をして下町へ赴く。
有名な酒場があるだろう? そこなら大勢の人に紛れて話せる。名前は確か……」
「……バイブランシーだろ。下町で大勢って言えば」
「そうだ。知っているのなら案内は君がしてあげてくれ、ビー」
「わかったよ。これから行こうと思ってたが、それなら明日だな。当然おごってくれるんだろう?」
「勿論金は出す。それ以外に屋敷などの手配もしよう。時間は……」

 都合がいいのか悪いのか、よりによってあいつらが情報収集場に選んだ店か。
 報告もあるし明日には顔を出せるならいいか。
 
 ツインシーとなりシフティス大陸へと赴いた俺には、とある事情でやらなければ
ならないことが三つある。
 貴族領への潜入経路確保、王女へのコンタクト、特定戦力の補充。
 そのためこの国の兵士へと身をやつし、潜入を開始したのがつい先日の出来事。
 そう、俺たちはまた大きいトラウマをライラロさんによりもたらされた。
 その部分に関しては、あえて思い出さないようにしているのだった。
 
「どうしたでありますか、シー。顔色が悪いであります」
「……少し疲れたのかな。戻って休みたいんだけど」
「約束をたがえないでくれ。こちらにもあまり時間が無い。君たちにとって悪い話でない
事だけは確かだ」
「わかったよ。それで俺たちはこの後どうするんだ? マーサル隊長が来る気配はないし」
「詰め所に戻るんだろ。第七領区に」
「七領区? あんな酷い所に拠点があるのか! ……父上に怒られるかもしれないが、やはり
今日はうちに来てくれ。酒場で探す手間も省ける。その代わり少し衣類を整えてもらうからね」
「いやいいよ。貴族の屋敷は勘弁だ。明日酒場で落ち合おう。俺たち三人は変装する必要もないから
すぐわかるだろう」

 ビーのとっさの起点とウインクでどうにかこの場を切り抜けられた。
 さすがの洞察力。こいつにはぜひとも味方になってもらわないと困る。
 今の俺にとって必要なのはビー、お前だ。
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