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第三章 幻魔界

第六百二十四話 ありがとう

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 ここは……焼け跡の部屋か。
 気を失ったベリアルの影響か……はたまたサーシュを封印した影響なのか。

 俺の体は傷だらけだが、かなり回復した。
 だが……心はボロボロだった。
 ベリアルが動くたびに自分の無価値さを悟る。
 ベリアルが誰かを取り込み、その力をうまく用いるたびに自分の戦い方の下手さを認識する。
 そして……ベリアルの優しさを見るだけで自分は……自分でなくてもうまく導いてくれる。
 そう思ってしまう。

「……」
「おや。もう目が覚めたのですか」
「いや。ベリアルは、意識がない」
「あなたでしたか。大分傷は癒えたようですね」
「ああ。ジェネストの……お陰だ」
「いいえ。ベリアルのお陰でしょう」
「……なぁ。あいつは一体、何なんだ?」
「それは彼に直接聞くべきではありませんか」
「俺より優れている、あいつにか?」

 そういった瞬間、ジェネストは立ち上がりこちらを見下ろした。

「ベリアルがあなたより優れている。そう感じるのはあなたが何のために剣を振るっていたのか。
それを忘れているからです」
「じゃあベリアルにはそれがはっきりとわかってるっていうのか」
「ええ……自分と、あいつのため……そういつも呟いてます」
「あいつってメルザの……」
「まだ、わからないのですね。あなたは。あなたの状態を見ても。私にはわかりました。
彼がサーシュを取り込もうとしたときに。あなたも本当はもう、わかっているんじゃないですか? 
認めたくないだけで」
「俺は……だが」

 ジェネストはそのまま部屋から出て行った。
 相変わらずきつい言葉を浴びせてくれる。
 でも、それが的確であることを俺は知っている。

「そうだよな。もう……わかってるんだよ」

 ベリアルは他でもない。

 あいつは俺のために――――行動している。
 ここに来る前から。
 ベリアルを認識してからずっと、助けてくれている。
 それはこの体を自分のものにしたいからなのかと思っていた。
 でも……違う。
 俺と共にある事を、ベリアルは望んでいる。
 拒絶しているのは俺なんだ……。
 そして、その強さに憧れ、羨ましく思っていた。

「兄弟がいたら、こんな気持ちだったのかな……」

 だとするなら、ダメな弟ってところか。
 もう、情けない姿は見せられない。
 このまま、ベリアルに任せてばかりでいいわけがない。
 どの面下げて地上に戻れるっていうんだ。

「そうだよな。一人でうじうじしやがって。らしくない。らしくないよな」

 ゆっくりと立ち上がり、体の感触を確かめる。
 十分に動ける。そして……戦える。
 ここからは俺がやる。幻奥の青か。
 取り込んで、地上へ戻らなければ、ベリアルには鼻で笑われ続けてしまうだろう。
 三種の幻魔を封印したんだ、あいつは。

「ありがとうベリアル。この力、ちゃんと使ってみせなきゃお前に合わせる顔が無いよな。
もう泣き言は言わない。お前に劣等感を覚える事もない。
お前が俺を強くするように、今度は俺がお前を強くして見せる。
俺たちは魂をわかつ、兄弟だ。だからこれからもお前と戦っていきたい」

 ベリアルへ誓いを立てるよう、合掌していた。
 もう逃げない。
 この先は、俺に任せろ! 
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