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第四章 シフティス大陸横断

第六百五十九話 新たな出発 目指すは廃鉱山

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「さて、それじゃ……イーグルサーカス団出発だ! 全員隊章はつけているな?」
『おーー!』

 出発前に話あった結果……いくら隊章をつけているとはいえ、これだけの
人数がぞろぞろ何もせず歩くのは好ましくない……ということで、俺たちは再び
サーカスを行いながら目的地付近まで、あえて目立つ形をとることにした。

 サーカスを行っている集団……つまり物凄く目立つ代わりに、目的が明確な上、怪しまれる事は
殆どない。
 まず先頭。最も目を引くのは二頭の虎。
 彰虎と白丕その上をまたがるは二人の少女、ビュイとナナー。
 この役は多くの者がやりたがったが、身動きのとりやすい二人に決定された。
 戦闘力的にも申し分ない。
 
 続いてイーファ、ドーグル、エプタ。先鋒が襲われても直ぐに支援できるこの三人。
 行動を長く共にしていたお陰か、エプタは彼らには優しく見える。
 俺とはえらい違いだ。
 中央の最も賑わう部分には、乗り物に乗ったファナ、サラ、レミ、ベルディア、ハクレイ老師
とブネ、ミレーユ王女、酒場の女将さん、レナ、ルジリト。
 最も守るべき対象だが、守られる気はさらさらないだろう。
 それらを取り囲むようにレッジ、レッツェル、エーとジェイク。
 エーとジェイクはあくまで王女の護衛だが、泉にも興味津々だった。
 
 そして最後方は俺とリュシアンとメナス。前方が襲われても一気に駆けつける
事ができる上、ソードアイとしての能力で、俺自身が襲われても直ぐに対処できるだろう。
 メナスはあまり目立ちたくないはずなので、後方でリュシアンと共に組ませている。
 といっても二人とも綺麗な青と綺麗な銀髪の長い髪。
 目立たないでいるのは難しいのだが……。

 ちなみにエーナは早速イネービュの許へ向かっている。
 その前に、メルゼナイト硝子をわけてもらい、その加工をお願いした。
 随分と人数が増えたからな……これは、必要だろう。

 サーカス団はそれなりの速度で進み、道行く人の目線を奪っていった。
 人々は国がこのような状態になり、明るい気持ちになれなかっただろう。
 しかしサーカス団を見る目は輝いて見える。
 決して慈善事業を行っているわけじゃない。
 それでもこんな時こそ、明るく振る舞う気持ちが大事なんだ。

 既に各領区の敷居は無く、瓦礫を撤去した道が広がる。
 ある意味耕されたような道なので、余計な回り道をする必要もなく、二十領区跡地付近には
比較的早くたどり着けた。

「メナス、この国を離れて本当にいいんだな?」
「九領区の生き残りの者たちには別れを告げた。もう、九領区は残っていない。
思い残すものは無い」
「それならその仮面も、もう必要ないか」
「……新しい仮面」
「うん?」
「新しい仮面を……その、買って、欲しい……」
「ああ、わかった」
「本当に、買ってくれるの……か?」
「欲しいんだろ? それなら買ってやるさ。どういうのが銀髪の女性に合うのかわからない
けど、探してみるよ。俺よりレミやベルディアの方がわかりそうだけど」
「シーが選んでくれたものが一番ぞ……でもこの仮面は……いや、返せるはずもない」


 サーカス団で移動していると、観客の中から一人の女性が掛けてきた。
 よほど急いでいたのだろう。転んでしまっている。

「お嬢様! メナスお嬢様!」
「メナス、九領区の知り合いか? 悪いがあまりゆっくりしていられない」
「あれは……ああ……少しだけ、少しだけ時間を」
「あたすがめなずちゃんを運んでぐからぁ、先いっててけんろ」
「わかった」

 メナスは足をさすっている女性に走って近づき、抱きしめた。

「ミネルヴァ、ミネルヴァだ。今までどこに、どこにいたぞ……探した。
ずっと会いたかった」
「メナスお嬢様……私、解雇された後、結婚したんです。それで……」
「そうだったの、ミネルヴァ。よかった、おめでとう。私は……ミネルヴァ。
私は幸せになれた。この仮面があったから、ずっと我慢してこれた。でも、もうこの
仮面が無くても大丈夫ぞ。私は、もう狐の仮面じゃなくっても、誰もいじめてこない。
暖かい場所、見つけられた。ありがとう、うぅ……ミネルヴァ」
「お嬢様……いままでよく、うっ……頑張りましたね……従属のピアスをつけて
らっしゃったから、遠くで暫く見ていました。でもよかった。あの方が、お好きなんですね」
「……。傍に居れるだけでいい。それだけで私は、強くいられるから」
「ちゃんと家族になってくださいまし! このミネルヴァが応援していますから。
だからお嬢様、今度はこちらを」

 そう言うと、ミネルヴァは一つの指輪を取り出した。

「これ……は?」
「私がお屋敷を解雇された時に、手渡された解雇の代金です。
私には貯金があったので、売らずにとっておいたのですよ。
お屋敷はもう無いですし、メナス様は何も頂けなかったでしょう? 
これはメナス様のもの。そしてあの方にちゃんと、家族になってもらうのです」
「でも……シーには奥さんが」
「あら、それがどうしたというのです? 奥さんがいたら家族はこれ以上増やせない
なんて、あの男性はその程度の器量なのですか? 
私にはそうは見えませんでしたよ。そちらの方も家族なんじゃありませんか?」
「あたす? あたすは、メナズちゃんとおんなず……けんども主さんには
奥さんがたすか五人はいるだよ」
「クスッ。面白い喋り方の方ですね。でも聞きましたか? メナスお嬢様。
あのサーカス団はまるで一つの家族に見えました。
メナスお嬢様もそれを遠くから見ているだけではなく、家族として参加してください。
そうすればあの方も心から笑顔で見てくれるでしょう。家族として」
「一緒に、家族として……私に出来るのだろうか?」
「メナズちゃんは遠慮してちぃーとも楽しくすてないがら、ナナーもビュイもえんらぐ
心配すてたぁよ。もっど楽しんだらええだ」
「そうです。いけない! 随分とサーカス団から離れちゃいました。
メナス様。どうかお元気で。いいですか? 絶対私より幸せになってくださいましね」
「ミネルヴァ……やってみようぞ。その狐のお面と、貰った指輪に誓って」

 メナスはリュシアンにお願いすると……リュシアンは美しい青色の竜となり、直ぐに
その場を飛び去った。

「メナスお嬢様。本当に、本当によかった……神様、メナスお嬢様を
お救いくださり、感謝いたします……」

 ミネルヴァはその場で跪き、暫く祈りを捧げていた。
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