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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百十九話 褒賞授与者

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「おい、ビー! しっかりしろ! ビー! 直ぐにシュイオン先生の許へ連れてく! 神
魔開放!」

 俺はビーを担いで急ぎシュイオン先生の許へ走る。
 闘技場には治療室を設けてあり、そこにはシュイオン先生が待機している。
 他にもマーグ先生や弟子などが沢山いるが、緊急患者はシュイオン先生が受け持つこと
となっている。

「シュイオン先生。頼む、ビーを直ぐ見てやってくれ」
「こちらへ。スピア。直ぐに包帯と止血準備を」
「はい先生。おいルイン。ちゃんと手を洗え」
「今それどころじゃないだろ!」
「これは絶対だ。こいつはちゃんとスピアが運んでおく」
「あ、ああ……頼むよ」

 ……スピア、随分と大人しくいい子になったな。
 やっぱシュイオン先生は凄い。
 もし子供が暴れるようになったら、シュイオン先生に預けるのもいいのかも知れない。
 ……そんなこと考えてる場合じゃ無かった。
 急いで手を洗い、消毒液をぶっかけ、シュイオン先生の許まで戻った。
 
「大丈夫だ。命に別状は無いぞ。にしても、随分無茶したな」
「普段のビーらしくない。あいつは引くときは引く男だ」
「そーだよな。スピアもそれは知ってる。国じゃ一番まともな奴だと思ってたし」
「まともな奴ってお前が言うか……それより、何を食らったかわかるか?」
「筋弛緩剤の部類ですね、それを弾に込めたようです」
「くっ……確かに使用禁止している毒の類じゃない。つまりあいつは医学的知識もあ
るってことか」
「どうでしょうね。当たり所が悪ければ死に至ります。それを承知で狙い撃ちしたかは分
かりません。ですが……彼が避けれないのがそもそもおかしいのでは?」
「冷静さを欠いているように見えた。何か事情があるのだろうけど……外にレナさんが来
たな。交代する。先生、ビーとレナさんをよろしく頼む」
「ええ。大会はまだ続くのでしょう? 医者としては心境として複雑ですが、戦いとはや
はり、決まり事があっても怪我をする者が多い。ルインさんもくれぐれも気を付けて。そ
れと約束通り、ちゃんとお薬の件は頼みますよ」
「そっちはもう手配してあるんだ。参加したレンズの町に薬の採取依頼を倍増させるよう
手配しておいた。薬の流通が増えれば助かる人も増える。先生らしいな」
「それも医者としての務めですから」

 先生に挨拶をし、入れ違いのレナさんに無事だと告げて再び闘技場へと戻る。
 ……結局最後の一撃は俺が止めた。
 司会の勝ち名乗りも撃った後。
 あいつは反則負けにはならない。
 しかし、ルッツ……だったか。どこかで聞いた気がする名前だ。
 覚者といいその男といい、それに俺が対峙した相手といい、カバネってやつといい、俺
が予測していた常闇のカイナやロキの襲撃以外のことが多すぎる。
 いや、そもそもこの世界はそんな甘い世界じゃないこと、百も承知している。
 今の俺には協力者も多い。
 まだ十分な味方と言えるかはわからないが、魂吸竜ギオマや、雷帝ベルベディシア。
 国のトップであるメイズオルガ卿にコーネリウス。
 自分たちだけで解決しようと思うな……周りを頼るべきだ。
 そう考えながらリング付近まで戻ると――「決まったー! 決勝進出は……メウラ選手
です!」

 バカな……シーザー師匠がこんなに早く負けてる……? 
 一体どんな試合だったんだ? 
 あれ? ピンピンしてるけど。

「くそっ! 跳びすぎちまった。あーーー! もう一回やろうぜ! おい!」
「……すまないね」

 まさか進んで場外に落ちた? いや、そんなはずない。
 この人が距離を見誤るなんてあり得ないだろう。

「師匠、一体どうやって負けたんですか……」
「おうルインか。はっはっは、斧の重み無しで跳躍すんのに加減が少し鈍ってやがった。
そこを上手く吹き飛ばされちまった。いけねえ。しばらく格闘の修行だな、こりゃ」
「けどそれって、見極められる範囲ですか?」
「いいや。あいつやるぜ。まったく力を見せずに俺を落とすんだ。余程いい勘してやがる
な。にしても、ハーヴァルも俺も一回戦負けとは、デイスペルの優勝者として顔が立たね
えな」
「いえ。運が強いですからね、一回戦は。テンガジュウかビローネにでもあたってた
ら、俺も勝てなかったかもしれないです」
「そーいやおめえのとこにもやばそうなのがいたな。あの輪っか野郎、神兵だろ? あい
つわざと負けたよな」
「見てたんですか?」
「あたりめえだ。俺が一番つええと感じたのはあいつだぜ。テンガジュウやビローネより
もだ」
「……やっぱりわざとか。あいつ、何を企んでると思います?」
「さぁな。スキアラの神兵ってのも段階があってよ。どうしても勝てねえ神兵がいた」
「師匠たちが勝てない神兵?」
「ああ。まぁスキアラの持つその神兵は特殊中の特殊。本来人間の魂を入れたものが神
兵だが、そいつには魂が二つ入れられてる。ルイン、おめえと同じようにだ」
「俺と同じように、魂を二つ……まさか」
「そう。魔族と、人間の魂。神魔人というそうだ」
「神魔人……」
「おめえもそうなんじゃねえのか。いや、神兵として造られた存在じゃねえんだったな」
「はい……俺は転生者で……タルタロスに……いやまさか、俺を生み出したのは……」
「おい、顔色悪いぜ。平気か?」

 ……自分の生い立ちか。
 思い出すと気分が悪くなる。
 聞いた限りでは確か、タルタロスにより本来入るべき器じゃない方へ変わったと。
 俺が転生したきっかけはもしかしたら、タルタロスの生みの親、ネウスーフォによる
ものなのか? 
 だとするなら、一体何のために……ネウスーフォは俺を自分の手ごま、神魔人にする
つもりだったのか? 
 分からない……地底に赴き、タルタロスに会えば分かるのだろうか。

「決勝戦進出の者が出そろいました! 続けて一回戦で三名、輝かしい成績を収めた方
へ褒賞金と道具が授与されます。呼ばれた方はリングAへおあがりください! 決勝戦
は明日より開催されます! 引き続き闘技大会をお楽しみ下さいね!」
「おっと。俺ぁ出番無しだな。先に戻ってハーヴァルと一杯やる。ルイン、あんま思い
詰めるんじゃないぜ」
「はい……師匠」

 闘技リング前に人が集まる。既に帰った者もいるだろう。
 一体呼ばれるのは誰か。

「ではまずわたくしからですわ。番号七十八番。ラシュイール! さぁ前に出るのです
わ!」

 ……もしかして、一角獣に乗ってた頭飾りの女性か? 
 そいつなら聴きたいことがある。
 
「さぁ早く! 出てくるのですわ! 美しい雷撃を放つ乗り物と一緒に!」

 ベルベディシアが幾ら呼び掛けても一向に出て来ない。
 みるみる機嫌を損ねていく。

「わたくしが呼んで出て来ないなんて。あり得ない、あり得ないですわ。あり得ないのよ。
あり得ないに違いないのだわ! テンガジュウ!」
「え? 俺でいいの? やった!」
「褒美として腕立て千回」
「それ、褒美じゃないだろ!?」
「えー、こほん。どうやらラシュイール選手は不在のようです。この場に居ない場合辞退
とみなされます! 別の方へ譲渡権が移されます! ベルベディシア様。テンガジュウ選
手でよろしいでしょうか?」
「それならわたくしが受け取りますわ……」
『お前が受け取ってどうすんだよ!』
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