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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百七十九話 超巨大キメラの襲撃

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 合わさったキメラは数十倍にも膨れ上がり……もはやよく分からない奇抜な生物と化し
ていた。
 そもそもキメラとは様々な生物の集合体だ。
 それは一概に見覚えのある生命体だけで構築されているとはいえない。
 魔族が変異したものではないかとも思われる個体もいれば、どうみても蛇や鶏のような
もので構成されている、いわゆるバジリスク的な奴もいる。

「これ、でかすぎないか」
「思ったより合体したね……ほら、君の出番でしょ」
「お前もたまには戦ったらどうなんだ?」
「私は戦闘するより鑑賞する方が好きなの!」
「聞いて無いわそんなこと!」
「私なんかよりタルタロスがやった方がいいでしょ」
「……出来るだけ干渉したくない。戦わんぞ」
「ですよね。君ならそう言うと思ってた」
「ベリアル。いけそうか? 俺、ここで消耗したくないんだけど」
「おいおい、せっかくコラーダがパワーアップしたって言ってたのに何もしねえつもり
か?」

 ひと悶着していると、キメラの合体が完了してしまったようで、幾重にも重ねられた羽
ばたきが突風を引き起こし始める。
 顔面を探す方が大変なほどの取り込みようで、ただのスプラッターな気色の悪い生命体だ。
 
「迷ってる暇は無いか。封剣、剣戒……あれ? コラーダが出ない!」
「にゅいーん。てぃーちゃん参上でごじゃろ!」
「コラーダが出ないんだが」
「嫌がってるでごじゃろ! コラちゃんの扱いが悪すぎたのでごじゃろ!」
「……まぁ、否定出来ない。パワーアップのお披露目はお預けかな」
「おいルイン。おめえキメラは取り込んだことあるんだろ?」
「ああ。使えない技だったからルーン国に置いてあるけど」
「んじゃ、あいつは俺がもらうぜ……ぶち死ねぇ!」

 竜形態に戻ったベリアルが、超巨大キメラに取っ組み合いを挑む。
 ベリアルの登場に一瞬怯んだように見えたキメラだが、前爪で殴られて逆上し、奇声を
挙げ始めた。

「ゴルギリイイイシャアアアアアアアアアアア!」
「うっ! なんつーバカでかい音だ。しかも色々混ざってる」
「耳元でぎゃんぎゃんわめくんじゃねえ、この合体野郎が!」

 とっつかんで殴り合いを始めるその様は、まるで怪獣もののショーを見ているかのようだ。
 思わず見とれて……いる場合じゃ無かった。
 手助けをした方がいい。何せ竜形態のベリアルより巨大だ。
 ガルドラ山脈顔負けの大きさだよ。
 
「そうだティソーナ。絶魔中にかなり強力な剣技を無意識的に使ってたけど、あれってど
うやるんだ?」
「知らないでごじゃろ。そもそも絶魔は御前の能力でごじゃろ?」
「ティソーナの力でやってたわけじゃないのか……そうするとあれもカイオスの力ってわけか。
だとすると、非絶魔で行える最大の技は、うーん」
「おいルイン! こいつ思ったより力がありやがる。さっさと手を貸せ!」
「三分待ってくれ。その間に考えるから」
「おい何言ってやがる! ぐおお、この俺が押されるだと!? しゃらくせえ、ガァァーー!」

 至近距離でブレスを放つベリアル。あれはテュポーンじゃないな。
 そう何度もテュポーンを連発出来るわけじゃないか。
 さて、ベリアルが戦ってくれている間に考えよう。
 非絶魔とはいえ神魔解放状態だ。
 ずば抜けた身体能力、反射性能、回復力を持つ状態を維持出来る、既に人間も魔族も超えるよう
な力を持つわけだが。
 それにも関わらず更にその上を行く超越者を見すぎたせいで、自信を若干失っている俺。
 ここは一ついいところを見せ自信を取り戻そう。
 ついでにタルタロスにも効きそうな技を……よし、やってみるか。

 ティソーナを思い切り前方に突き出す形を取る。
 必要なのは回転なんだが、ここは奪い取ってしまった能力の一つを加えてどうにかしよう。
 一体何をやるのか……それは。

「バネジャンプ、不動明王回転人間魚雷剣!」

 キメラに向けて一直線に飛んでいく俺。
 タルタロスが放出した不動明王の秦とかいうおかしな恰好の奴が行っていた技。
 その名も不動明王剣とかいう技で、前進が回転して刃が突き出て対象を即座に切り刻む。
 一発一発は大したことが無い威力だが、これに跳躍とティソーナの貫通力を加わり……
「うおおおお、気持ち悪いいいいいいーーー!」
「ゴルギリイイイシャアアアアアアアアアアア!」
「おお、やりゃ出来るじゃねえか。もらったぁーーー!」

 体ごと突進して奴を突き破る俺。
 目が回り奴の肉片がこびりつき、気分は最悪のグロッキーだ。
 しかし確実に巨大生物を貫く程の技を手にしたに違いない。
 だが着地して心に決めた。
 二度と使うまいと。

「目が回ったでごじゃろー……」
「ま、回り過ぎた。気持ち悪い……」
「かっはー。ダメだ、おめえの体じゃねえからテュポーン無しで吸収出来ねえ」
「……お前たちはいつもこんな戦い方をしているのか」
『いつもじゃねえ!』
「それにしてもキメラは何で合体したんだろね?何の影響うけたのかな?」
「さぁな。それよりも……ここからでもはっきり見えやがる。随分とでけえ結界だったよ
うだな」
「あ……」

 気持ち悪さが引いてきて、遥か遠方を望むと……そこにはくっきりと赤紫色の結界がみ
えていた。
 そして……「ちょっとーー! あんた何処ほっつき歩いてたのよ!」

 こちらに向かって来る者……それは見慣れた恐怖マシーンにまたがる、クイーンライラ
ロその人だった。
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