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第二章 地底騒乱

第九百八話 ベルータスの子息

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「おいそこ! 食事は静かに取れ!」
「すみません、失礼しました」

 思わず少し大きい声が出てしまった。
 教えてくれた人に悪いと思ったので、俺の食事を少し足しておいた。

「すまない。少々驚いて声が大きくなってしまった」
「いや。それよりいいのかい? もらっちゃっても」
「ああ。その代わりといってはなんだが、その人物を目線で教えてくれないか?」
「分かった。言葉で伝えた方がいい。キョロキョロすると怪しまれる。このテーブルが三
列目。ベルギルガ様がいるのは一番目のテーブルの最前列。最も大柄な方だよ」

 離れた場所で分かりづらいが……でかいというのだけは分かる。
 本当に妖魔か? 
 ベルギルガってことは、あいつもベル家のものか。
 まさか、ベルータスの子供? 
 ならば俺に交渉出来る余地があるのかどうか。
 あいつ、よく見ると相当な食事の献上品をもらってるのが分かる。
 椅子も取り換えてもらっていて明らかに待遇が違う。
 あいつが、鍵か……。少々、いやかなり難儀な話だ。

「有難う。当たってみる」
「なぁ、あんた……まさかここから抜け出すつもりなのか?」
「俺にはまだ、やらなければならないことがあるんだ」
「そう……か。やらなければいけないこと、か。なぁあんた。協力させてくれないか」
「いいのか? 危険だと思うぞ」
「俺も妻が……いや此処にいる奴ら全員、帰りたいんだ。故郷に」
「犠牲者が出て命を失うかもしれない。それでも帰りたいと願うのか」
「勇気が……出なかったんだ。俺はベレッタで兵士をしてた。邪念衆が強すぎて、俺たち
なんかじゃ全く歯が立たなかった。そんな奴らに捕まってなお、あんたは立ち上がろう
としてる。きっとあんたには何かあるんだろう?」
「あんたと同じだ。故郷に帰りたい。残してきた者がいる。その数が多いからかな」
「あんた、面白いな。俺の知合いにあんた……二千二十四番がベルギルガ様と話たがって
るってことを伝えておく。明日、自由時間に話かけてみてくれ」
「分かった。感謝する」

 隣の奴とギリギリまで小声で話をしながら食事を取り、いつも通りに鉱山へと向かった。
 四日目ともなればさすがに慣れて来た。
 鉱山労働はきつくない。はっきり言ってシーザー師匠やベルローゼ先生のしごきに比べれば
ぬるま湯もいいところだ。
 ……って感覚が既におかしいんだろうな。
 辛い目にあらかじめあっておくと後が楽ってのは前世で培ったものだ。
 ジオのように最初から鋼の肉体を持ってればもっと楽なんだろうけど。
 本日分の作業も手早く済ませて、後半はジオと話しながらまったり採掘をするのが恒例と
なった。
 無論さぼっているのがばれたらことだから、配分は決めてある。
「こっちは進展あったんだよねえ。そっちはどう?」
「ここにベルギルガという奴がいて、枷を外せないか調べているようだ」
「おっと。その情報は古いねえ。調べていた……が正解だねえ」
「つまり外し方を把握してるのか?」
「そのようだねえ。もう外せるようだよ」
「そうか、それなら早急に接触が必要か」
「ついでにそいつの情報も仕入れてあるけど知りたいかねえ?」
「よくそこまで調べられたな」
「こうみえてもフェルス皇国でそれなりに仕事をこなしてきたからねえ。警戒はされてる
けどねぇ……」
「それで、どんな奴なんだ?」
「ベルータスという奴の第三皇子だねえ。実力はあるようだよ。妖魔としてはかなり」
「やはりそうか。まさか残虐のベルータスに子供がいたとは」
「かなり多く子供がいたようだよ。他の皇子は死んでるけどねえ」
「……そうか。いや、考えなかったわけじゃない」
「フェルドナージュ様に敗れてからというもの、衰退を辿っていたところに攻め入ら
れ、降ったのがあの皇子、ベルギルガただ一人って話。通り名も知りたいかい?」
「いいや、どうせ天下りだか崖下りとかそんなところだろう。それよりもベルベディシア
の方はどうだ?」
「どうやらその能力を見込まれて、力の一部を残したまま動力源として使われているみた
いだねえ」
「そうすると鉱山にはいないのか?」
「いや、鉱山で採掘されたものを運搬する装置があるらしくてねぇ。そこにいるようだ
よ」
「それだけの情報を仕入れられるってことは、その宮使いは奴隷ではないのか?」
「邪念衆の酒運びだねぇ。立派な奴隷さ」
「役割まで決めてるのか。フェルドナーガって奴はとことん頭がいいな」
「いいや、それらを指揮しているのはフェルドナーガ第一王子、フェルドラーヴァだねえ」
「あいつか……まるで政治家のようだな。あれで王子ってのが信じ難い」
「かなりのキレモノだねぇ。フェルドナーガ自身も全面的な信頼を持って管理を任せている
ようだよ」
「ここを脱出するにはあいつをどうにかしないといけないのか。それと、枷を外し、脱出
経路の確保をしないとな」
「そうだねぇ。問題はそれなんだよねえ。実はそれさえどうにかなれば、フェルドナー
ジュ様やニンファを助け出すのは苦労しないんだよねえ」
「というと? 幽閉されてるなら門番が大勢いるんだろ?」
「抜け道を掘ってあってねぇ。こうみえて僕、ドワーフだから」
「あ、ああ……それってまさかニンファを覗くためなんじゃ」
「酷いねぇ!? 真面目に脱出経路を確保しただけだよねぇ!?」
「分かった、悪かったって。その脱出経路ってニンファたちにも伝えてあるのか?」
「いいや。完全に開通するとばれるから少し見える穴を作っただけだねぇ」
「……お前……」
「そんな目で見ないで欲しいねぇ!? 経路はちゃんと隠してあるし僕だけが知ってる場
所だねえ」
「ひとまず二人が無事そうなら良かった。いやある意味無事では無いのだが……しかし幽
閉か」
「どうかしたかねえ?」
「リルの母でありフェルドナージュ様の妹でもある、フェルデシアという妖魔を手にかけたの
がフェルドナーガだという話を、昔聞いていたから。もっと無情な奴かと思っていたんだけど」
「そうか、君は知らないんだねぇ。フェルドナーガっていう奴の能力を」
「能力? 能力が関係するのか?」
「奴を恐れ、従う者が増える程邪眼の力が増すんだよねえ。奴隷を増やしているのもそ
のためでもあるんだよ。フェルドナージュ様の妹さんが死んだ理由は知らないけどねぇ。
恐らく奴の能力が関係してるんじゃないかねえ」
「恐れ従う者が増える程力が増す……か。ならば奴隷全員従わなくなり逃げたら奴の
能力はかなり……」
「落ちるだろうねえ。そうすれば逃げる隙も大きくなる。それは名案だけど、果たして出
来るかねえ」
「出来るかもしれない。後は逃げる道だが……やっぱりあれしかないだろう」
「あれ? あれってまさか、君が捕まった原因の?」
「そうだ。妖魔導列車。まずフェルス皇国に戻り仲間を再結集させ、その後にアトアクル
ークへ向かう。今のままアトアクルークに向かっても、文字通り戦力不足でベオルブイー
ターには太刀打ち出来ないだろう」
「動かせるのかねえ? あれにはレイスの力が必要だと思うけど」
「当てならある。そのためにもベルギルガに接触してみることにしよう」

 やることは決まった。
 ノースフェルド皇国からの離脱するため、行動開始だ。
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