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終章 精霊達よさようなら
第8話 二人の日常ー1ー
リヴァリオン国の北に位置する街ローフェス、リーリラは父からの遺言で結婚後はローフェスに近い村に半年前から移り住んでいる。
「こんにちはー」
「リーリラちゃん、いらっしゃい」
「腰の具合どう?薬持ってきたわ」
「いつもありがとう。だいぶ良くなって来たわ。お茶でも飲んで行きなさい」
「お邪魔しまぁす」
リーリラは隣人のハントン夫人に薬を届けにやって来た。高齢者が多く住む村に薬屋はなく街まで足を運ばなくては行けない。リーリラは神官で培った薬の知識を年老いた村人のために使っている。
隣人のハントン夫妻はダリル・ハントンの両親だ。姉のリンダの事件以来、周りの反感もあり肩身の狭い思いを経験し王都から離れたこの村に移住を余儀なくされた。今では事件のことを皆すっかりと忘れ、二人は穏やかに暮らしている。
息子のダリルは国が開国してから半年経つが一向に戻ってくる気配もなかったのだ。
「ダリルったら帰国命令が出たのにまだ帰ってこないわ、何をしているのやら」
「戻れない事情があるのよ」
「もうあんな奴のことは気にするな!ダリルはいい年だ。なんとかやってるさ」
ダリルの父が畑から戻って来たようだ。手には新鮮な野菜を持っている。
「あなた……」
「おじさん…」
「野菜が良い物が取れたから持って帰っておくれ」
「おじさん、いつもありがとう」
「そうね、いい年だものね。きっと元気にやってるわね」
ダリルの母は健気に振舞うが息子のことを心配せずにはいられないのだとリーリラ気の毒に感じる。
「じゃあ、私そろそろお暇します」
「そうだわ、スープ多めに作ったから持って帰って」
「いつも、助かります…」
ハントン夫人は両手に野菜を持つリーリラのために家までスープを運ぶと申し出た。
「鍋はいつでもいいわよ」
「おばさんのスープ具沢山で美味しいから楽しみだわ」
「それより、リーリラちゃん。ちゃんと寝てる?目の下のクマすごいわよ」
「うそっ、やだ!」
リーリラは顔をペタペタと触る。
「まぁ、新婚さんだからね、私も若い時は寝不足になったわ。なにせ騎士だからね」
とくすりと笑う。
「おばさんも大変だったの?」
「そりゃ大変だったわ。騎士って無駄に体力があるでしょう」
「確かに……」
この半年間で身に染みて感じているリーリラは言葉が出てこなかった。
「リーリラちゃん、きついならちゃんと話さないと男はわからないから言わないとダメよ」
「うっ……。肝に銘じます」
結婚後、リーリラは初めて家事をすることになり慣れない洗濯、料理、掃除などハントン夫人に教わりながらこなし、時には夫婦の悩みやアドバイスをくれる母的な存在なのだ。
家事だけではなく村人のために薬草栽培、調合を行い毎日充実した忙しい日々を過ごしていた。
有り難いことに一族の力は消えたがリーリラの光の力は消えることなく今も使える。精霊達も見ることができ、この地に残ったカヤックや若い精霊達も遊びに泉からやって来るのだ。
だいたいの家事を終え、ソファに座り苦手な刺繍を始める。日々の練習の成果も出てようやくプレゼント出来るまで腕を上げたのだ。
「ふふふ、お父さんとお母さんにあげるハンカチが出来たわ!!」
ようやく完成した刺繍に満足するリーリラ。
「ただいま」
夫のカイルが仕事から戻ってきた。
「おかえりなさい」
カイルは立ち上がったリーリラを抱きしめるとリーリラの唇に啄むようにキスをする。
何度キスをされても慣れないリーリラは顔を赤くする。
「きょ、今日も帰りが早いね」
夫のカイルもローフェスの騎士団に転団し騎士の仕事を続けている。
騎士団は家から少し距離があるが、王都で働いていた時に比べ帰りが毎日早い。
「王都に比べたら人口も少ないし、トラブルがないからね。開国した王都は大変だと思うよ。もしかすると北の街にも人が増えたから忙しくなるかもね」
ふぅーんと聞きながらカイルの上着をかけ、お願いしていたパンなどを受け取り、早めの夕食の準備にかかる。
「洗濯物も取り込んでおいたから」
「あ、ありがとう」
リーリラが夕食の準備をしていると、カイルは洗濯物を取り込み、片付けも済ませている。
若い時から寄宿舎で一人で生活していたカイルは家事能力が優れておりリーリラは劣等感を感じずにはいられないのだ。
「食事にしましょう、スープはおばさんから頂いたの」
「美味しそうだ」
食卓にスープやサラダ、街で購入したパンを並べる。
「あぁ。今日は何してたの?」
「うーん、洗濯でしょ、あとハントンさんの薬を調合したでしょ」
カイルはうん、うんと笑顔でリーリラの話を聞く。
「刺繍がうまく出来たわ。お父さんとお母さんに贈って欲しいの」
「私にはないの?」
しょんぼり寂しそうな表情になるカイル。
「あるわ!明日からお仕事に持って行ってね」
とモジモジと照れながら伝えると、
「クッ、可愛いすぎる。最高に幸せだ」
とカイルはポツリ呟いた。今夜もまた抑えれそうにないなと夫の熱い眼差しを一向に気付かない新妻はきょとんとしながらパンを頬張るっていた。
「こんにちはー」
「リーリラちゃん、いらっしゃい」
「腰の具合どう?薬持ってきたわ」
「いつもありがとう。だいぶ良くなって来たわ。お茶でも飲んで行きなさい」
「お邪魔しまぁす」
リーリラは隣人のハントン夫人に薬を届けにやって来た。高齢者が多く住む村に薬屋はなく街まで足を運ばなくては行けない。リーリラは神官で培った薬の知識を年老いた村人のために使っている。
隣人のハントン夫妻はダリル・ハントンの両親だ。姉のリンダの事件以来、周りの反感もあり肩身の狭い思いを経験し王都から離れたこの村に移住を余儀なくされた。今では事件のことを皆すっかりと忘れ、二人は穏やかに暮らしている。
息子のダリルは国が開国してから半年経つが一向に戻ってくる気配もなかったのだ。
「ダリルったら帰国命令が出たのにまだ帰ってこないわ、何をしているのやら」
「戻れない事情があるのよ」
「もうあんな奴のことは気にするな!ダリルはいい年だ。なんとかやってるさ」
ダリルの父が畑から戻って来たようだ。手には新鮮な野菜を持っている。
「あなた……」
「おじさん…」
「野菜が良い物が取れたから持って帰っておくれ」
「おじさん、いつもありがとう」
「そうね、いい年だものね。きっと元気にやってるわね」
ダリルの母は健気に振舞うが息子のことを心配せずにはいられないのだとリーリラ気の毒に感じる。
「じゃあ、私そろそろお暇します」
「そうだわ、スープ多めに作ったから持って帰って」
「いつも、助かります…」
ハントン夫人は両手に野菜を持つリーリラのために家までスープを運ぶと申し出た。
「鍋はいつでもいいわよ」
「おばさんのスープ具沢山で美味しいから楽しみだわ」
「それより、リーリラちゃん。ちゃんと寝てる?目の下のクマすごいわよ」
「うそっ、やだ!」
リーリラは顔をペタペタと触る。
「まぁ、新婚さんだからね、私も若い時は寝不足になったわ。なにせ騎士だからね」
とくすりと笑う。
「おばさんも大変だったの?」
「そりゃ大変だったわ。騎士って無駄に体力があるでしょう」
「確かに……」
この半年間で身に染みて感じているリーリラは言葉が出てこなかった。
「リーリラちゃん、きついならちゃんと話さないと男はわからないから言わないとダメよ」
「うっ……。肝に銘じます」
結婚後、リーリラは初めて家事をすることになり慣れない洗濯、料理、掃除などハントン夫人に教わりながらこなし、時には夫婦の悩みやアドバイスをくれる母的な存在なのだ。
家事だけではなく村人のために薬草栽培、調合を行い毎日充実した忙しい日々を過ごしていた。
有り難いことに一族の力は消えたがリーリラの光の力は消えることなく今も使える。精霊達も見ることができ、この地に残ったカヤックや若い精霊達も遊びに泉からやって来るのだ。
だいたいの家事を終え、ソファに座り苦手な刺繍を始める。日々の練習の成果も出てようやくプレゼント出来るまで腕を上げたのだ。
「ふふふ、お父さんとお母さんにあげるハンカチが出来たわ!!」
ようやく完成した刺繍に満足するリーリラ。
「ただいま」
夫のカイルが仕事から戻ってきた。
「おかえりなさい」
カイルは立ち上がったリーリラを抱きしめるとリーリラの唇に啄むようにキスをする。
何度キスをされても慣れないリーリラは顔を赤くする。
「きょ、今日も帰りが早いね」
夫のカイルもローフェスの騎士団に転団し騎士の仕事を続けている。
騎士団は家から少し距離があるが、王都で働いていた時に比べ帰りが毎日早い。
「王都に比べたら人口も少ないし、トラブルがないからね。開国した王都は大変だと思うよ。もしかすると北の街にも人が増えたから忙しくなるかもね」
ふぅーんと聞きながらカイルの上着をかけ、お願いしていたパンなどを受け取り、早めの夕食の準備にかかる。
「洗濯物も取り込んでおいたから」
「あ、ありがとう」
リーリラが夕食の準備をしていると、カイルは洗濯物を取り込み、片付けも済ませている。
若い時から寄宿舎で一人で生活していたカイルは家事能力が優れておりリーリラは劣等感を感じずにはいられないのだ。
「食事にしましょう、スープはおばさんから頂いたの」
「美味しそうだ」
食卓にスープやサラダ、街で購入したパンを並べる。
「あぁ。今日は何してたの?」
「うーん、洗濯でしょ、あとハントンさんの薬を調合したでしょ」
カイルはうん、うんと笑顔でリーリラの話を聞く。
「刺繍がうまく出来たわ。お父さんとお母さんに贈って欲しいの」
「私にはないの?」
しょんぼり寂しそうな表情になるカイル。
「あるわ!明日からお仕事に持って行ってね」
とモジモジと照れながら伝えると、
「クッ、可愛いすぎる。最高に幸せだ」
とカイルはポツリ呟いた。今夜もまた抑えれそうにないなと夫の熱い眼差しを一向に気付かない新妻はきょとんとしながらパンを頬張るっていた。
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