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終章 精霊達よさようなら

第10話 エドモンドの婿入り

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 旅立ちが近づいた頃、やはり最後に幼なじみの顔を見たいと思い、王都から離れた北の街ローフェスに向かう。姉のサーラから聞いた話ではローフェスにほど近い村に住んでいるらしい。

 振られてから二年経っただろうか…

 彼女への想いなどない様に振舞ってきた男に一瞬で奪われてしまった。まるで俺から引き離すかの様に婚姻を結ぶや否や北の村へ行ってしまったのだ。


 ローフェスから離れた村はわかりやすく彼女の家だろう場所までやって来た。
 村にしてはしっかりとした造りの家だ。話では、昔、一族の保養地として使われていたらしい。

「この家かなぁ……」
扉をノックしてすみませんと声をかけた。

「はーい」
懐かしい彼女の声が聞こえた。
ガチャと扉を開けたのは以前の様に男の姿でなく長い髪を束ね、色香漂う美しい女性へと変身していた。

「エド??びっくりしたぁー!」

「久しぶりかな?二年ぐらい?」

「そうだね。入って、入って」

「あいつは?」

「仕事だよ?」

「あぁ……、お邪魔します」

未婚の青年を家にあげるなど相変わらず警戒心のない幼なじみに呆れつつも家に入る俺も俺だなと家の中に入る。

 家の中は神殿のように薬の匂いが微かにする。恐らく村人の為に薬を調合しているのだろう。

「これ、みんなから頼まれたお土産」

「ありがとう~、サーラからね、リズお姉様からのお手紙もあるわ。そうだわ!私も手紙書いてたからお願いできる?」

「いいよ」

行きと同様の同じくらいの荷物を幼なじみに渡された。

「これ、エドモンドによ。国の紋章の刺繍をしたの。マルクスさんにも弟子の上達ぶりを見てほしいから渡してくれる?」
とハンカチを渡された。
義兄のマルクスと同じ物が渡され、俺だけじゃないのかとガッカリもするが彼女から貰えるなんて素直に嬉しく胸が温かくなった。

「いきなりどうしたの?」

「国を離れることになったからリーリラに挨拶に来たんだ」

「えっ?」

 アンデルク国と国交を1年ほど前から結び、より国同士の絆を深めるために王族との婚姻を結ぶことになったのだ。
 恐らくかつて保持していた聖なる力の噂は広まり、興味を持ったアンデルク国側から王族同士の婚姻を持ち掛けたのだ。
 我が国の王子達はまだ幼く、今や未婚の王族は先王の弟の息子である俺しかおらず白羽の矢が立ったのだ。ちょうどアンデルク国側にも未婚の末姫がおり婚姻を結ぶことになったことを説明した。

「アンデルク王女殿下と!凄い!」
手を合わせ感動するリーリラに心の中でおまえも王女殿下だけどなとつっこんでおく。

その後、彼女の手料理に舌を包み、たわいない話を楽しんだ。

「お茶のお代わりいれるわね」
彼女が傍にやって来てカップを下げようとした瞬間、甘い香りが漂ってきた。
 
 抱きしめたい…

思わずゴクリと喉を鳴らした。
瞬間、近い距離で目が合ってしまった。

 あいつはいない。
 いいだろう。
 抱きしめるくらい…。

手を伸ばしした瞬間、扉がガチャリと開いた。

「リーリラ!」

チッ。
やっぱり帰ってきたか。
伸ばした手を戻す。

「おかえり~。今日も早いやね」

今日っていつも早いのか?
あいつの焦った顔を見てわかる。
相当な独占欲なんだろうな。

「先輩、お邪魔しています」

「あぁ」

本当に迷惑そうな顔を見せてくる。やっぱり嫌いだアイツのことは。

「何の用だ」

「お別れの挨拶に来ました。もう国に戻ることもないので」

「えっ?」
二人は似たような顔をして驚いている。

「戻らないの?」

「一応、所帯を持つ身だからね、帰らない覚悟は必要だろう」
リーリラが複雑そうな表情をしている。本当の話をすればきっと悲しませるから言うつもりはない。

 相手の王女は父である王が侍女に手をつけ産ませた庶子なのだ。恐らく早くお払い箱にしたいがために小国の王族である俺と縁組をさせたのだ。俺達には一代限りの爵位しか与えられない。恐らくアンデルク国での立場は最悪なものだろう。俺はその王女と二人で生き抜かなくてはいけない。

「お二人が幸せそうで良かったです。王都まで離れているからそろそろ帰ります」

「エド……。元気でね」

「あぁ、リーリラも元気で。じゃあ、先輩失礼します」

「気をつけて」

 二人は俺が見えなくなるまで見送ってくれた。

 俺の愛しい幼なじみ、さよなら…



◇◇◇


 そして、国を出る時がやって来た。
 父、母、姉は涙を流し辛そうな表情で見送った。
 俺はそこまで悲観的には考えてはいない。この狭い国から出て新しい世界が見れるんだ。
 俺は負けやしない。
 必ずアンデルクで生き抜いて見せるさ、
 エドモンド・レキシントンとして…
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