上 下
5 / 5

過去

しおりを挟む



僕の家庭は母子家庭だ
母さんは父さんと僕が5歳の時にら離婚していて、母さんは仕事が好きな人だった
母さんが大事にしてたのは“良い事”だった
僕の将来とか就職先とか大学だとか
“僕の将来”のために僕によくしてくれた
だけど母さんはいつも、僕を大事にはしてくれなかった
“良い子供”の僕の事しか、母さんは見てくれなかった


きっと誰だって、少なからず“良い事”を大事にしている
良い就職先、良い大学、良い家族、良い会社、良い子供
社会的に見て、常識的に見て、それを“良い事”だって言ってるんだ

僕の母さんは“良い事”が好きな人だった
良い大学に入って、良い会社に就職して、お金だって持っているし、良い子供も持っている
きっとみんなそうだ、“良い事”が好きで、それを手に入れようとしている

でも、僕はいらなかったんだ

母さんに感謝してる
確かに良い会社に入れた方が生きやすいだろう
その為には良い大学に、良い高校に行った方がいいだろう
でも僕自身は、大学に行きたいと一言も言ってないんだ
良い会社に入りたいと一言も言っていないんだ
何かいう前から、僕の前には道が敷かれていた
きっと僕の様に学校に通って塾に行って大学受験をするタイプの学生は、みんなそうだ
僕ら自身にとっての“良い事”は気にされず、僕ら自身が何をやりたいかは聞かれず、それを通そうとしたらワガママだと、“良い子供”じゃ無いと非難される
「良い子にしなさい」って
「我慢しろ」って
僕は嫌だった
みんな我慢しているんだから僕も我慢しなきゃなんて、僕は全然思えなかった
誰かが我慢してたら、それが赤の他人でも、僕はそいつを見習わなくちゃいけないのか?
僕は嫌だった
我慢ばかりの生活も、嫌いになりきれないけど嫌な母さんも

僕に楽しいと思える趣味はない
小遣いを貯めて買ったCDは、ただの学校での話題のためのフリだった
でも僕には、やりたいと思える事があった
けどきっと
それは“良い事”じゃない
大勢に迷惑をかける
何より母さんに‥‥迷惑をかける事になる
僕は“良い事”があまり好きじゃない
けど母さんの事は、嫌いじゃない







『僕は人を傷つけるのが好きだ』







あの異世界転生で、僕は伝説の勇者となった
多分すごく悪い方向で
でもそのおかげであの国はもう、この国の人間を誘拐したりしなくなっただろう

僕が伝説の勇者になった事での“良い事”は、多分それくらいだ





だが僕は勇者になって、親友と幸せを手に入れた
もちろん、“良い事”なんかじゃ無いが、僕にとっての幸せだ


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...