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第3章 「公爵家の大宴会と揺れ動く想い」
25話
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7.広まる動揺と、アルタイの決断
その後も、私は公爵令嬢としての務めを果たしながら会場を行き来し、来客たちに挨拶を交わす。
しかし、先ほどの男爵夫人とのやり取りが頭から離れない。どこか苛立ちと不安が入り交じり、せっかくの宴なのに気が晴れない。
「アルタイ様、失礼いたします。少しよろしいでしょうか?」
侍女のリュネが慌てた様子で近づいてきた。彼女の顔には焦りの色が浮かんでいる。
「どうしたの、リュネ? そんなに急いで」
「じつは、先ほどレオさん(ベガ様の従者)が、辺境伯様がまた傷の痛みを感じているかもしれないと仰っていて……。それなのにご本人は“平気だ”とおっしゃって、大広間でお客様方とお話されているようです。もしまた痛みが酷くなると大変ですので、アルタイ様からも少し休むように促していただけませんか?」
「わかりました。すぐに向かいます」
私はリュネに礼を言い、急いで大広間の中央付近へと足を運んだ。
すると、そこにはやはりベガがいて、軍部の偉い方々と談笑している。彼の顔には笑みが浮かんでいるものの、肩のあたりにわずかな違和感が見て取れた。
(やっぱり無理をしているのでは……)
私は彼らの会話に割って入らぬよう近づき、タイミングを図る。すると、軍の高官の一人が「ああ、アルタイ様。ちょうどいいところに!」と手招きした。
「ベガ殿には、北方戦役での奮戦ぶりを詳しく伺っておるのですよ。公爵令嬢としても誇らしいでしょうな」
「ええ、私などが言うまでもなく、ベガ様は立派に任務を全うされました。……その功績を今夜讃えることができて、私も嬉しく思います」
そう答えながら、私はベガの横顔を覗き込む。すると、やはりどこか苦しげな表情を浮かべているのがわかった。
私が少し視線で「大丈夫?」と問いかけると、彼は「大丈夫だ」と首を小さく振る。だが、その額にはうっすらと汗がにじんでいる。
周囲に人が多すぎるので、迂闊に「休んでください」と言い出すこともできない。私は気を揉みつつも、話がひと段落するのを待つしかなかった。
しかし、軍高官の興味は尽きず、さらに話を続けようとしている。ベガがそれに応じているうちに、刻一刻と彼の負担は増しているはずだ。
(もう我慢できない。ベガ様の体が優先だわ)
意を決して私は口を開き、さりげなく会話を遮る。
「皆様、楽しげにお話しされているところ恐縮なのですが、どうか少し私どもにお時間をいただけませんか? せっかくの機会ですし、私ども夫婦も別室で来客対応をしなくてはならないものですから」
「おお、そうだったのか。これは失礼した。……ベガ殿、また改めて話を聞かせていただけるとありがたい」
高官たちが快く応じてくれたので、私はほっと安堵する。軽く会釈をしてから、ベガの腕をそっと取り、なるべく自然な動作で彼を人混みの外へと誘った。
「……すまない、アルタイ。助かった」
「いいえ。そろそろ休んでください。顔が青ざめていますわ」
「そうか? ……ああ、少し肩が疼くが、まだ我慢できないほどではない」
彼は強がっているが、その声は微かに震えているように感じる。私は焦る気持ちを抑えながら、使用人に頼んで先ほどの控え室を空けてもらうよう手配した。
その後も、私は公爵令嬢としての務めを果たしながら会場を行き来し、来客たちに挨拶を交わす。
しかし、先ほどの男爵夫人とのやり取りが頭から離れない。どこか苛立ちと不安が入り交じり、せっかくの宴なのに気が晴れない。
「アルタイ様、失礼いたします。少しよろしいでしょうか?」
侍女のリュネが慌てた様子で近づいてきた。彼女の顔には焦りの色が浮かんでいる。
「どうしたの、リュネ? そんなに急いで」
「じつは、先ほどレオさん(ベガ様の従者)が、辺境伯様がまた傷の痛みを感じているかもしれないと仰っていて……。それなのにご本人は“平気だ”とおっしゃって、大広間でお客様方とお話されているようです。もしまた痛みが酷くなると大変ですので、アルタイ様からも少し休むように促していただけませんか?」
「わかりました。すぐに向かいます」
私はリュネに礼を言い、急いで大広間の中央付近へと足を運んだ。
すると、そこにはやはりベガがいて、軍部の偉い方々と談笑している。彼の顔には笑みが浮かんでいるものの、肩のあたりにわずかな違和感が見て取れた。
(やっぱり無理をしているのでは……)
私は彼らの会話に割って入らぬよう近づき、タイミングを図る。すると、軍の高官の一人が「ああ、アルタイ様。ちょうどいいところに!」と手招きした。
「ベガ殿には、北方戦役での奮戦ぶりを詳しく伺っておるのですよ。公爵令嬢としても誇らしいでしょうな」
「ええ、私などが言うまでもなく、ベガ様は立派に任務を全うされました。……その功績を今夜讃えることができて、私も嬉しく思います」
そう答えながら、私はベガの横顔を覗き込む。すると、やはりどこか苦しげな表情を浮かべているのがわかった。
私が少し視線で「大丈夫?」と問いかけると、彼は「大丈夫だ」と首を小さく振る。だが、その額にはうっすらと汗がにじんでいる。
周囲に人が多すぎるので、迂闊に「休んでください」と言い出すこともできない。私は気を揉みつつも、話がひと段落するのを待つしかなかった。
しかし、軍高官の興味は尽きず、さらに話を続けようとしている。ベガがそれに応じているうちに、刻一刻と彼の負担は増しているはずだ。
(もう我慢できない。ベガ様の体が優先だわ)
意を決して私は口を開き、さりげなく会話を遮る。
「皆様、楽しげにお話しされているところ恐縮なのですが、どうか少し私どもにお時間をいただけませんか? せっかくの機会ですし、私ども夫婦も別室で来客対応をしなくてはならないものですから」
「おお、そうだったのか。これは失礼した。……ベガ殿、また改めて話を聞かせていただけるとありがたい」
高官たちが快く応じてくれたので、私はほっと安堵する。軽く会釈をしてから、ベガの腕をそっと取り、なるべく自然な動作で彼を人混みの外へと誘った。
「……すまない、アルタイ。助かった」
「いいえ。そろそろ休んでください。顔が青ざめていますわ」
「そうか? ……ああ、少し肩が疼くが、まだ我慢できないほどではない」
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