離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚

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第3章 「公爵家の大宴会と揺れ動く想い」

29話

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貴婦人たちの探り合い

 アンナール子爵夫人の邸宅は、王都中心部の華やかな街並みの一角に立っている。
 そこへ姿を見せた私は、さっそくたくさんの貴婦人たちに囲まれてしまった。彼女たちは上品な笑顔を浮かべながらも、目は好奇心に輝いている。

「まあまあ、アルタイ様。お久しぶりですわ。最近はあまり顔を出されないから、どうしていらっしゃるかと思っていましたのよ」

「辺境伯様がお帰りになったそうですね。ご負傷なされたとか……まあ、お気の毒ですわ」

 口々に言われる言葉は、一見すると同情を装っている。だが、その裏側には「本当のところはどうなの?」「あの噂は本当なのかしら?」という意図が透けて見える。
 私はそれを承知の上で、丁寧に微笑み返す。

「ええ、おかげさまで随分と回復しましたの。戦地での負傷ですから心配しましたけれど、今は治療師や侍女たちの力もあって、歩くことは支障なくできるようになりました。ほっとしておりますわ」

「まあ、それは何よりですわね。そろそろ、アルシェール侯爵様も公の場にお顔を出されるのでしょう?」

「そうですわね。まだしばらく静養が必要と言われていますが、いずれは王宮にも挨拶に行く予定ですわ」

 そんな風に、穏やかなやり取りで会話を進めていく。
 しかし、貴婦人たちの目的は私たち夫婦の近況報告では終わらなかった。質問はどんどん深いところへ踏み込もうとしてくる。

「ところで……その、離縁なさるとかいう噂を耳にしたのですけれど、まさか、そんなことはありませんわよね?」

「ええ、本当に。まことしやかな噂が飛び交っておりますけれど、私たちには信じられなくて……」

 ふわりと広がる甘いハーブティーの香りとは裏腹に、空気がピリッと張り詰める。
 私は一瞬、口元の笑みを崩さぬまま心の中で深呼吸をした。ここは慌てず、堂々と返したほうがいい。

「ご心配をおかけしているようですが、現時点で私たち夫婦にそのような予定はございませんわ。確かに、辺境伯様は長らく戦地にいらっしゃいましたから、中には妙な勘違いをされる方もいるのでしょう」

「まあ……そうだったのですか。安心しましたわ」

「けれど、実際に戦地で新しい恋人を作っていらっしゃった、なんて噂もありますものね?」

「噂は噂ですわ、皆様。お気になさらなくてよ」

 私は笑顔を湛えたままさらりと流す。そして、あえて何も否定も肯定もしないまま、次の話題へと移ってしまう。
 貴婦人たちにとって、この程度の明言しない返答は「探ってもこれ以上、何も出ないかもしれないわね」と思わせる効果がある。変にうろたえたり否定しすぎると、逆に怪しまれるからだ。

 そうして、ひとしきり周囲の質問を受け流した後、私は席を立つ前にわざとこう付け加えた。

「皆様、ベガ様へのご心配とお気遣い、本当にありがとうございます。もし辺境伯様が社交界に戻られましたら、ぜひまた皆様とご一緒させていただきたいですわ。では、失礼いたしますわね」

 遠回しに「もうすぐ夫は公式の場に復帰するので、噂話はほどほどに」というメッセージを暗に伝えたつもりだ。
 こうして、表立っての探り合いは一応の収束を迎えた――が、もちろん噂が完全に消えるわけもない。
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