離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚

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第4章 「離婚と決断――仮面夫婦の行方」

40話

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ベガの迷いと幼馴染の忠告

 夕刻になり、王宮から戻ってきたベガと合流する。
 早速、書簡の件を伝えようとすると、彼はもう既にその話をイリオン殿下から聞いていたらしく、予想通りの反応を示した。

「やはり王家としても、ハッキリとさせたいということか……。俺としては、当然“離婚しない”方向で構わないが」

「ええ、私も同じです。書簡には“近いうちにお二人そろって王宮へ”とありましたけれど、詳しい日時の指定はなかったようですし、こちらから日程を提示すれば大丈夫かと」

「わかった。俺のほうも治療師に相談して、体調を整えておこう。ここぞというときに、また倒れてしまっては示しがつかないからな」

 そう言って微笑む彼に、私も安心して笑顔を返す。
 ――これで私たちは正式に“離婚しない”と表明し、新たなスタートを切れるのだろう。

 しかし、その夜、思いがけない人物が公爵邸を訪れた。
 応接室に通されたのは、私の幼馴染であるルイーゼ・ディルフェン令嬢。以前に比べてやや落ち着いた雰囲気をまといながらも、どこか慌ただしげだ。

「ルイーゼ、久しぶりね。どうしたの、こんな夜遅くに?」

「ごめんなさい、急に押しかけて。どうしてもアルタイに伝えたいことがあって……」

 ルイーゼはチラリとベガを見る。彼女にとっては初めての直接対面ではないが、話しづらそうにしている。私は気を利かせて、彼女をサロンのソファへ促した。

「ルイーゼ、ベガ様は気にしなくていいわ。どうせ私たちはもう隠すことなんてないもの。何か話があるなら、はっきり言ってちょうだい」

「うん……それなら遠慮なく。実はね、今日になって私のもとにも“辺境伯夫妻が離婚をするらしい”という噂がまだ絶えないって話が舞い込んできたの。私もずっと“そんなわけない”って否定していたんだけど、ある男爵夫人が『いや、確かに北方で見初めた女が』なんて執拗に……」

 私は思わず吹き出しそうになりながら苦笑する。
 ――またその話か。まったく懲りない連中だ。ベガも呆れたように首を振っている。

「ルイーゼ、安心して。私たちは既に“離婚しない”と決めたの。それを王宮でも正式に宣言するつもり。……ああ、もちろん本当に北方に女性を連れてきたなんて事実もないわ」

「そう……よかった! それを聞いて安心したわ。いや、私もほら、昔からアルタイのことを大事に思っているから。もし万が一、アルタイがつらい思いをしているようなら、何としてでも力になろうとしていたところだったの」

 ルイーゼは心底ホッとした様子で胸を撫で下ろす。

「でもね、気をつけて。噂話って一度広まると、本当かどうかなんて関係なしに延々と尾を引くものよ。今回のことをすっぱり断ち切るには、何かしら強いアクションが必要だと思うわ。……それこそ、王宮の場で正式に発表するなり、みんなが納得する形を取らないと」

「ええ、まさにそうするつもり。心配してくれてありがとう、ルイーゼ」

「ううん、私も力になれるなら何でも言って。あ、ベガ侯爵様……いえ、ベガ様も、どうかアルタイのことをよろしくお願いします。彼女って、外から見るほど強くないところもあるから」

 ルイーゼは顔を赤らめながら、真っ直ぐベガに向かって頭を下げる。
 ベガは少し驚いたようだが、真剣なまなざしで彼女に答えた。

「もちろんだ。俺のほうこそ、あいつを頼りにしっぱなしだからな。これからも大切にしていく」

 その言葉を聞いて、私は胸が熱くなる。そして、ルイーゼは嬉しそうに笑った。

(大丈夫。私たちはもう大丈夫。周囲が何を言おうと、私とベガ様がどうありたいかをはっきり示せばいいのだから)

 そう改めて心に刻む。
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