SP24歳 女子高生始めました。

鍛高譚

文字の大きさ
27 / 43

第27話 文化祭プロローグ

しおりを挟む
【文化祭プロローグ】



 時をさかのぼること一ヶ月前――。  まだ夏の名残を感じる教室に、文化祭に向けた高揚感が静かに広がっていた。



「では、議題に入ります。文化祭のクラス発表について……」



 教壇に立ったのは、2年B組の委員長。

 学年初日からその堅実な仕切りで信頼を集めている、学年でも屈指の実力者だ。



「クラス全員一致により、当クラスは“演劇発表”に決まりました」



 どよめきも歓声もない。ただ淡々と受け入れられる、既定路線の決定。  そんな空気の中、後方の窓際席では、ひときわ目立つ二人組が静かに座っていた。



 服部倉子と真田真子。  護衛対象である澪と同じクラスに“学生として潜入”している彼女たちは、こうしたクラス運営には基本的に口を挟まない。

 だが――。



「……さて、肝心の演目ですが――」



 委員長は教室の前に立ったまま、何のためらいもなく、こう口にした。



「“実録・24歳SP24時間”で行こうと思います」



 その瞬間だった。



「やめろぉおおおおおおおっ!!」



 爆発音のごとく叫んだのは、もちろん倉子。



「むしろなぜそれを演劇に!? 実録ってなに!? ドキュメント!? それとも再現ドラマ!?」



 隣の真子も、机を叩いて絶叫する。



「やめて! プライバシーの侵害! 任務機密の暴露! 人権無視っすーっ!!」



 しかし教室の空気はむしろ楽しげに盛り上がる。



「で、主演はもちろん――倉子さん、真子さん、澪さんの三人で!」



「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



 再び絶叫する三人。



 クラスメイトたちはにやにや笑いながら拍手を送る。



「うちのクラスだけ生で警護が見られるなんてずるいって他のクラスから言われたんで、ここは一発やってもらおうかと」



「そんな理由で舞台化しないでええええ!!」



 こうして文化祭は、既に始まる前から嵐の予感に包まれていた。



 当然、この後正式に“脚本会議”という名のさらなる地獄が待っていることを、倉子たちはまだ知らなかった。





「わがクラスに、こんなおいしい素材が転がってるのに……」



 委員長は教壇の前で、胸を張って高らかに宣言した。



「これを発表せずにいられますか!!」



 その目はキラキラと輝き、周囲の生徒たちは大きく頷いている。

 そう、もはや全会一致の空気。



「で、舞台化するのは……“トラブル大統領来日警護・修羅場編”です!」



「やめてええええええええっ!!!」



 教室中に響く悲鳴。



 叫んだのはもちろん倉子。



「そ、それは……マジで……トラウマなんだからああああああっ!!」



「むしろ私らが表彰される前より、その一件の方が精神的ダメージやばかったっすからねっ!」



 真子も青ざめながら同意する。



 だが、委員長は一切動じなかった。



「お三方だけに重役を押し付けたりはしませんよ」



 そして、手を挙げて高らかに――



「“トラブル大統領”役は、私がやります!」



「おまえ! 絶対楽しんでるだろう!」



 倉子のツッコミはもはや悲鳴だった。



「何をおっしゃいます。せっかくの文化祭、楽しんだ者勝ちじゃないですか」



 まるで悟りきったかのような微笑を浮かべる委員長。



「それに、舞台上でも三人には“護衛任務”が発生します。役割としても理にかなってますよね?」



「……突然、正論持ち出しやがった……」



 倉子の肩が、ガクンと力なく落ちる。



「先輩、これ……どうやら、逃げられないっす」



「……いや、むしろ逃げる手段がない……っ」



 こうして“文化祭の舞台裏劇場”は、正式に幕を開けた。



 笑いと涙とトラウマと、ほんの少しの感動を引き連れて――。









【台本、それは暴走のはじまり】



 数日後、放課後の教室にて。



「台本の第一稿ができました!」



 満面の笑みを浮かべた委員長・大橋弓子が、倉子、真子、澪の3人にコピーを手渡す。



「……ちょっと待って。なんだこれは……」

 台本をパラパラとめくっていた倉子の表情が一瞬で曇る。



「メイド服は分かる。制服もまあ、分かる。……だけど、なんでスクール水着のシーンがあるのよ!?」



「ファンサービスということで!」



「ファンなどいない! しかも誰得よそれ!」



 隣で読んでいた真子も慌てて突っ込む。



「巫女服シーンまであるっす。大統領の護衛のとき、関係ないっすよね!?」



「なんなら、ポスターに“あの伝説のスク水メイドSP、再び!”ってキャッチ入れようかと……」



「断固拒否する!! 当日休む!」

「私も休みます!」



 澪も珍しく強い口調で口を挟んだ。



「それでは、澪さんの当日の護衛はどうなさいますか?」

「代行を頼む。永遠の17歳の先輩に!」

「……24歳の先輩が、17歳なんですか?」



「自称なんだ! そこ突っ込むな!」



 ついに澪が静かに声を上げた。



「大橋さん。これは私個人としてだけでなく、生徒会会長としても、スクール水着での演劇は許可できません。文化祭には外部の方々も来校されるのです」



「そ、そうですよ。生徒会としても許可できないっす」

「むしろ文化祭中止に追い込まれるわ、これ……」



 強く拒否され、弓子もようやく観念したように台本に赤ペンで大きく線を引く。



「わかりました。スク水シーン、削除しまーす……」



 こうして、生徒たちの理性と生徒会の権限によって、ギリギリのラインは守られたのだった――。





【リハの毎日】



「カットーっ!」



 講堂に再び響き渡る、委員長・大橋弓子の鋭い声。



 ステージの上で硬直したような表情のまま立ち尽くすのは、もちろん倉子と真子。



「倉子さん、真子さん、台詞は完璧なんです!でも、なんでそんなに棒読みなんですか!? それでもプロですか!?」



「プロは警備だけだ。演技は関係ない」



「もともと無茶振りっす」



 吐き捨てるように応じる2人に、弓子は頭を抱える。



 そう、これは毎日繰り返されている地獄のようなリハーサルの光景だった。



 しかも、2人はただでさえ放課後の大半を文化祭準備委員会の生徒会業務に費やしている。企画調整、備品管理、教室配置、来場者対応──。



「SPとしての本業よりハードっすよ、これ……」



 真子がぼやけば、倉子も苦笑いする。



「制服着てるけど、これ、絶対ブラック制服だよな……」



 気が付けば、文化祭まで残り1週間。生徒会室では、2人がぐったりと椅子にもたれかかり、机に突っ伏していた。



「やっぱ、本番当日は休みたい……」



 倉子がうめくように言うと、真子が無情な事実を告げた。



「それが、もう手遅れっす。井上先輩、当日、別件が入っちゃったらしいっす」



「……あの人が当日いないのか」



 一瞬の安堵。



「でも、たぶん、いたら演劇も喜んで出てましたよ。しかもスクール水着で」



「……自称17歳のスクール水着……」



 二人は顔を見合わせ、静かに呟いた。



「恐ろしい人だ……」



 そんなこんなで、日々のリハーサルと準備に追われながら、文化祭本番は、容赦なく近づいていた。

















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...