SP24歳 女子高生始めました。

鍛高譚

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第31話 年末年始

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【カウントダウン警備】



 大晦日。再びこの日がやってきた。



 倉子と真子の2人は、夕方前には大日神社に到着し、昨年と同じく巫女装束に着替えていた。警備員でありながら巫女装束を着せられるという不思議な立場も、もはや慣れたものだった。



「……やっぱり、去年より小さい気がする」  更衣室で着替えながら、倉子が不穏なことをつぶやいた。



「先輩、それは布じゃなくて……気のせいじゃなくて?」 「言うな。まだ正月前だ、縁起でもない」



 境内に出れば、すでに雑踏警備班の30人が持ち場についていた。2人の任務は、参拝客の誘導ではなく、社務所周辺の警備と不審者対策、そして必要に応じた救護対応である。



 日が暮れるにつれて、境内は徐々に人で埋まっていく。焚火の灯りが揺れ、甘酒の香りが漂う。



「先輩、もう年越しそば、始まってますっすよ」 「仕事中に食うな」



 時間は23時50分。境内はすでに参拝客でぎゅうぎゅう詰めになっていた。警備班から無線で報告が飛ぶ。



『初詣客、列制御完了。カウントダウンまで警戒強化』



 倉子と真子は、社務所裏の勝手口付近で立哨に入った。



「……なんか、去年より多い気がするな」 「この一年で、うちらの噂も広まったっすからね。メイドSPの次は巫女SPって……」 「やめろ、その単語、聞くだけで寒気がする」



 そして、24時。  鐘の音が鳴り響き、境内から一斉に歓声が上がった。



「今年も無事越せましたね」 「まだ、1月1日が始まったばかりだよ……」



 しばらくして、人波が一段落したころ、真子が何かに気づいたように声をひそめた。 「先輩……あそこ、社務所前に誰か近づいてきますっす」



 振り返ると、若い参拝客の一団がスマホを手に近づいてきた。



「すみません!一緒に写真、お願いできますか?巫女SPさんですよね?」



「申し訳ありません。任務中ですので」



「写真撮影はご遠慮いただいてますっす」



 2人が冷静に断ると、若者たちは「あー残念」と笑いながら立ち去った。



 ……その数分後。



 今度は本職の神社巫女たちが、ひそひそと近寄ってくる。



「倉子さん、真子さん……よければ、一緒に記念写真を……プライベートで、SNSには絶対上げませんからっ!」



 戸惑う2人。 「いや、それは……」



「お願いですっ。今年もずっと楽しみにしてたんです!」



 その目に押されて、結局1枚だけ、控えめに社務所の裏で記念写真を撮る羽目になった。



 シャッター音のあと、巫女たちは深々と頭を下げた。 「ありがとうございました。今年も警備よろしくお願いします!」



「……はい……任せて」



 真子がぼそっと呟いた。 「……こういう時、断るより疲れるっすよね」



 倉子はうんざりした表情のまま、軽く息をついた。



 年が変わっても、戦う場所は変わらない。





【1日警備 酔っ払い対応】



 新年を迎えてわずか数時間、境内には再び人があふれかえっていた。



 倉子と真子は、年越しカウントダウンから一睡もせず、社務所の警備業務を継続していた。まだ午前8時を回ったばかりだというのに、すでに疲労はピークに達している。



「先輩……目の下のクマが濃くなってきてますっすよ」



「お互い様だろ……。元旦の朝っぱらから巫女装束着て立哨とか、何度目だ……」



 境内には、家族連れや年配の夫婦、若いカップルに外国人観光客と、ありとあらゆる人種が参拝に訪れていた。雑踏警備班の30名以上が持ち場に立ち、無線は常に飛び交っている。



『社務所前、参拝列が境内外まで延伸。動線修正を要請』 『了解。第三小隊を動員して警備補強に入ります』



 そんな喧騒の中、社務所裏の影で、倉子と真子は短い休憩を取っていた。



「……しかし、この人数、去年より明らかに増えてない?」



「暖冬の影響でこの時期としては、気温がたかいせいっすかね?」 



「気温は優しいのに、勤務はいつもどおり厳しいのが解せない……」



 そんな軽口も、長くは続かない。



「うぃ~、巫女さーん……こっちにも福、ちょーだいよぉ……」



 社務所前に、酒臭い中年男性がふらふらと近づいてきた。



「すみません、お参りの列はこちらです。お静かにお願いします」



 倉子が遮るように立ちふさがると、男は頬を赤らめた顔で彼女を見つめた。



「いやあ、べっぴんさんだねぇ~。おみくじより、君の笑顔のほうがご利益ありそうだ~」



「先輩、これは……」



「対応する。真子は社務所の中、確認してきて」



 倉子が一歩前に出た瞬間、背後からスッと影が伸びた。雑踏警備班の若い警備員が、手際よく男の腕を取り、反対側から補助に入る。



「お客様、こちらへどうぞ。お手洗いの方へご案内します」



「あー、すまんすまん……トイレな、トイレ……」



 男はそのまま、警備員に連れられて裏手のトイレ方面へ姿を消した。



「ナイスカバー……」



「さすがに今年は慣れてきたっすね、酔っ払い対応」



「いや、それにしても朝から飲みすぎだ……」



 その後も、同じような酔客の対応が続いた。騒ぎを起こすわけではないが、テンションの高い参拝客や、騒ぎたいだけの若者集団など、注意喚起と誘導が途切れることはなかった。



 正午を過ぎる頃には、境内はまるで縁日のような賑わいになっていた。



「先輩、もうすぐ14時っす……あと6時間……」



「言うな……数字にすると遠さが際立つ……」



 午後も変わらず勤務が続く中、倉子と真子はそれぞれ交代で昼食を摂った。



「温かい甘酒……しみるっす」



「……飲みすぎるなよ。夜までもたなくなる」



 やがて日が暮れ、夕方になると参拝客のピークは徐々に落ち着きを見せ始めた。だが油断はできない。日没後は、周囲の明かりが減るため、事故や転倒が起こりやすくなる。



 18時を過ぎ、神社の照明が灯される中、2人は最後の気力を振り絞って対応を続けた。



「……あと1時間半……」



「目の前の時間を数えるな……余計長く感じる……」



 そして、20時。



『警備班、全体業務終了。本日分の配置解除します。お疲れさまでした』



 その無線が流れた瞬間、2人は同時に天を仰いだ。



「終わった……」



「やっと終わったっす……でも……」



「でも?」



「明日も、8時出勤っす……」



「うっ……ブラック……ブラックだわ……」



 ぐったりとしながらも、それでも翌日が最後の警備日だと自分に言い聞かせる。



「ここを乗り切れば、7日までは休み……っす」



「その言葉だけが、今の私の支えだ……」



 2人は巫女装束のまま、神社の裏手へと向かい、片付けと明日の準備を始めた。



 それでも、まだまだ“戦い”は続く。









【2日警備 迷子対応】



 新年2日目の朝、神社の空気はすでに混雑の予感に満ちていた。



 朝8時、澄んだ冬の空気を吸い込む間もなく、倉子と真子は再び巫女装束に袖を通して、持ち場に立っていた。2日目となると体力的にはかなりキツい。カウントダウンから続いた勤務に、すでに足腰が悲鳴をあげている。



「先輩……私、足が棒っす……」



「……私も腰が死にそう。明日もあるんだっけ……」



 だが文句を言っても、任務が終わるわけではない。  朝の参拝客の波は、元旦よりもやや緩やかに見えたが、逆にファミリー層の比率が増えていた。



 小さな子どもたちの手を引いた家族連れ、ベビーカーを押す若い夫婦、着物姿の母娘など、和やかな雰囲気に包まれていた。



「今日の参拝客、昨日よりは穏やかですね」



「油断するな。静かな時ほど、面倒な案件が来るんだ」



 そう言った矢先だった。



 境内に響く泣き声。



「ままぁ~!うわぁぁん……」



 2人の耳がぴくりと動く。



 社務所前にいた真子がすぐに声の方へ目を向けた。  人混みの中で泣いているのは、赤いニット帽をかぶった女の子。年の頃は4、5歳くらいだろうか。人の波に紛れて、完全に迷子になっていた。



「先輩、迷子ですっ」



「確認するっ」



 倉子と真子は迅速に女の子の元へ駆け寄った。



「こんにちは。大丈夫?お母さんとはぐれちゃったの?」



 倉子が優しい声で話しかけると、女の子は大きく頷いた。



「おままが……いな……いの……」



 涙でぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで軽く拭きながら、真子が後ろからブランケットをそっと肩にかける。



「寒いっすから、これで少し落ち着くっす」



 倉子はインカムに切り替える。



「こちら社務所前、迷子対応発生。4~5歳の女児、赤い帽子、白のダッフルコート着用。母親とはぐれた模様。放送と案内頼む」



『了解、ただちに放送入れます』



 境内に響くアナウンス。 「お呼び出しします。お子様とはぐれた方はいらっしゃいませんか。赤い帽子に白のコートを着た女の子が社務所前にて保護されております」



 女の子は、まだ不安そうな目で倉子と真子を見つめていた。



「大丈夫、お母さんすぐ来るからね」



「さすがに巫女姿の我々が迷子保護してると、目立つっすね……」



 その言葉通り、周囲からは「巫女さん優しい……」と声が聞こえてくる。



 5分ほど経過したころ、駆け寄ってくる女性の姿が見えた。



「○○ちゃんっ!」



 子どもがぱっと顔をあげる。 「ママァッ!」



 感動の再会だった。



「ありがとうございます、本当にありがとうございます……!」



「いえ、ご無事でなによりです」



「でもお母さん、参拝に来たときは、お子さんの手を離さないでくださいねっす」



 真子がぴしりと注意する。



 女性は深々と頭を下げ、娘の手を引いてその場を去っていった。



 その後も、迷子の案内や落とし物、そして酔っ払いへの対応など、次から次へと小さな事件が続いた。



「先輩……これはもう、なんというか……」



「イベント時の百貨店の店員か、保育士だな……」



「本当に、警備員ってなんでも屋っすね……」



 夕方、陽が落ちたころ、ようやく警備終了の報が入る。



「あと1日っすね……」



「うん、3日目を終えれば、ようやく休暇だ……」



 だが2人とも知っていた。  最終日が最も厄介になる可能性が高いことを――。



【3日警備 スリと痴漢騒ぎ】



 三が日、最後の警備日。1月3日、午前8時。



 倉子と真子は、すでに神社の裏手にある詰所で装備を整え、巫女装束に身を包んでいた。



「……ついに3日目っす」



「足の感覚がない……もう半分、魂抜けてる……」



 疲労困憊とはいえ、2人の表情はどこか吹っ切れていた。



「……今日が終われば、明日からはオフ。7日まで自由!」



「自由って、素敵な響きっすね……」



 しかし、最後の日は、事件もまた起きやすい。



 午前中は大きな問題もなく、比較的穏やかに時間が流れた。だが、昼を過ぎたころ、人混みの中から悲鳴が上がった。



「キャアアッ!財布が!誰かっ!」



「先輩っ!事件っす!」



「確認するっ!」



 人混みをかき分けて現場に急行する。



 女性の叫び声とともに、周囲に動揺が広がる中、倉子が腕を振るって指示を出した。



「社務所前!境内西側の通路、封鎖!スリが出た!目撃証言を集めて!」



 神社の雑踏警備班も即座に動く。



 そして、10分後――



 参拝客の1人が、「あの人、不自然に混雑から離れようとしてた」と証言した男を発見。    真子が人混みを追いかけ、男の腕を掴む。



「すいませんっす、お話伺いますっ!」



「な、なんだお前、離せ!」



 がっちり腕をとって離さない。



「おっと、そんなに逃げ急ぐ必要あるっすか?お財布でも落としましたかぁ?」



 男が反射的に逃げようとした瞬間、倉子が正面から立ちはだかる。



「逃げたら、もっと怪しいってことになるけど、どうする?」



 男は観念したように立ち尽くし、まもなく駆けつけた警察に引き渡された。



 事態はすぐに収拾し、被害者の財布も無事戻った。



「スリ、捕獲完了っと……」



「でも、今日はもうひと波乱ある気がするっす……」



 真子の予言は、的中した。



 日が傾き始めた午後3時過ぎ。



 境内の奥で再び悲鳴。



「やっ……触ったでしょ!?誰かこの人止めて!」



 今度は痴漢騒ぎだった。



 神社の参道、混雑する列の中で女性が男性の腕を掴み、怒鳴っていた。



 騒ぎを聞きつけた倉子がすぐに駆けつける。



「状況確認。どちら様ですか?」



 女性は怒りで顔を紅潮させている。



「この人、私のお尻に……!」



「違う!混雑してたんだ、当たっただけだ!」



 真子が後方から回り込む。



「言い分は後で聞きますっす。とりあえず、社務所裏で話を伺いましょう」



 境内にある簡易詰所に2人を誘導する。



 警察にも通報し、現場で対応。



 最終的に、被害者の女性の証言と、周囲の参拝客の目撃証言が一致し、男性に痴漢の容疑が固まった。



「ふぅ……痴漢まで出るとは思わなかったっす」



「混雑は人を狂わせる……明日からのんびり寝正月しよう……」



 神社に夜の帳が降りる頃、最後の参拝客が境内を後にする。



 全警備員に業務終了の報が入り、無線が静寂を取り戻す。



 詰所で着替えを終えた2人は、ようやく長い長い三が日警備を終えたことを実感する。



「倉子先輩……終わりましたね」



「……寝る。何も考えずに寝る」



 帰路につく2人の背に、神社の灯籠の光がやさしく照らしていた。



了解しました。それでは、第32章-2「は?ヴァレンタインのデパート警備?なぜ学校の制服で?」を、以下の基本設定を踏まえてラノベ小説形式で2000文字以上で書き直します。





---



【は?ヴァレンタインのデパート警備?なぜ学校の制服で?】



 バレンタイン直前の金曜日、早朝のセキュリティ・アテナ本部。  休憩室で、制服姿の倉子と真子は、配属先を記した紙を受け取って固まった。



「……ウエストデパート……って、あの繁華街のランドマーク的な……」



「しかも制服着用指示付きっすよ、先輩……私服でなく、学校の制服って……どういう思考回路っすか!?」



 二人はセキュリティ・アテナ所属の警備員であり、25歳。平日は澪という名のお嬢様女子高生のボディガードとして、彼女が通う名門女子校に“潜入”している。ゆえに、平日もセーラー服で勤務しているのだが——。



「まさか、休日の土日まで制服で働かされるとは思わなかったわ……」



「しかも、本来なら私ら土日が休みだったっすよ!? 平日は澪様の護衛してるんすから!」



 カレンダーを確認しながら真子が肩を落とす。



「今年のバレンタインは日曜日。明日と明後日、つまり13・14日はデパート激混み必至なんで、警備要請が全国から殺到中……って話は聞いてましたけど……」



「で、その結果がこれ?」



 制服姿でデパート内を警備せよ——というお達し。



「……おかしくない? どう考えてもおかしくない!? バレンタイン→青春→学生→制服って、そんな思考の連鎖、正常じゃないでしょ!?」



「私ら、チョコの販促ポスターか何かと思われるっすよ……」



 もちろん、倉子たちは制服姿での警備に慣れている。だがそれは、あくまで女子高での“潜入任務”という前提があってこそだ。



 しかし今回は、休日の人混みに揉まれながらのリアル制服警備である。  しかも対象が恋愛イベントの王様・バレンタイン。



 朝10時、ウエストデパートの警備室。  セキュリティ・アテナから派遣された警備員たちが、次々と配属先を確認していく。中でも、ひときわ注目を集める制服姿の二人。



「うわ、あれ、リアル制服じゃん……コスプレ?」



「いや、なんかガチらしいよ。セキュリティ・アテナの人だって」



 周囲の視線が突き刺さるなか、倉子はそっと口元を引きつらせた。



「……やっぱ、客寄せパンダ枠じゃん、私たち……」



「むしろ混雑を助長してるっすよ、これ。警備の意味……」



 案の定、午後からは人出が爆発的に増え、二人は迷子の保護、落とし物対応、さらに一部熱狂的なチョコレートファンの押し合いに巻き込まれるなど、対応に追われることになった。



 特に困ったのは、中高生グループからの写真撮影リクエスト。



「巫女の次は、制服警備員……」



「いやほんと、今年入ってから晒し者続きっすよ、先輩」



 そして、18時を過ぎても警備は終わらない。夜の混雑がピークを迎えた頃、バレンタインイベントのステージが始まり、また人の波が動き出す。



「ステージ見たら即帰る流れ、まったく守られてないっす……!」



「足が……棒に……」



 そんななか、無邪気なデパートの社員が、ニコニコと声をかけてきた。



「お疲れ様です! 制服姿、評判良かったですよー! 明日もお願いしまーす!」



 この言葉が、決定打となった。



 警備室の休憩ソファに戻った瞬間、倉子はばたりと倒れ込む。



「……ねえ、真子」



「なんすか?」



「これ、給料、2倍でも許されるレベルじゃない?」



「いや、週明けまで休めない方がキツいっす。平日ずっと澪様の護衛っすよ? 今日明日出たら、次の土日まで休みなし……」



「……12日連勤……?」



 二人は無言のまま、ソファに崩れ落ちた。



 休憩室の窓の外、街はまだバレンタインの熱気に包まれていた。





---



【チョコと疲労と軽トラと】



連勤続きで迎えた月曜日。澪の護衛任務もあるため、当然のように制服を着て登校する倉子と真子。だが――



「……なんか、やたら視線を感じるんだけど……」



「気のせいじゃないっす。今日、ヴァレンタインデーっすよ?」



そう、今日は2月14日。朝から廊下にはそわそわした女子生徒たちが行き交い、どこか空気も浮き足立っていた。そんな中――



「倉子センパイ、よかったら、これ……」



「真子センパイも、いつもありがとうございますっ」 

「クラスメイトだから、先輩はやめてって、いつも言ってるのに…」



澪のクラスメイトたちが、次々と可愛いラッピングのチョコレートを差し出してくる。



「わぁ……ありがとう。嬉しいわ。まさか、こんなに……」



「本当にありがたいっす。うち、まだ全身筋肉痛っすけど、これは癒されるっす」



もちろん、一番大きな箱を差し出してきたのは澪だった。



「ふふ、これは特別製。手作りですのよ。召し上がってくださいな、二人とも」



「ありがとうございます、お嬢様」



「これで、今日一日やっていける気がしてきたっす」



そうして荷物がどんどん増えていく中、ようやく勤務時間を終えた二人は、澪を車で送り届け、ようやく帰宅モードに――入るはずだった。



「ふぅ……さあ、今日は帰ってすぐ寝ましょ」



 車に乗り込んだ倉子がエンジンをかけた瞬間。



 ピコン。



 スマホに通知が届く。



「あれ、メールっすか?」



 二人のスマホが同時に鳴っていた。



 表示された内容は、セキュリティ・アテナからの業務連絡。



《倉子・真子 両名 本日帰宅前に本部へ立ち寄ること 至急》



 ※業務連絡※の赤文字が、精神的ダメージを倍増させる。



「げっ……まさか、このまま夜勤業務追加とか言う冗談、ないわよね……」



「先輩、それ言っちゃダメっす!それ、完全にフラグっす! 死亡フラグっす!」



 暗雲が立ち込める中、二人は意を決して本部へ向かった。



「おう、二人とも。ちょっと来い」



手をひらひらと振る社長に導かれて会議室のドアを開けると――



「なっ……!」



「……あの、これ、なにごとっすか……?」



会議室のテーブルの上には、ぎっしりと積まれた箱、箱、箱。まばゆい装飾と甘い香りが鼻腔を刺激する。



「これ全部……チョコ?」



「お前らに届いたんだよ。持って帰れ」



「いやいやいや! 量が異常すぎません!? これはもう、芸能人に届くアレじゃないっすか!」



「軽トラ手配しようか?」



「やめてください! そもそも、これ食べきったら糖分過多で死にます!」



社長は肩をすくめる。



「もちろん全部チョコってわけじゃない。ぬいぐるみとかもある。酒も少しあったな」



「……チョコ以外といって、酒か、酒か、と思ったらぬいぐるみって……なんというギャップっす」



「ていうか、なんでこんなに来たんですか?」



「一番は、昨日のウエストデパートからのお礼だな。あそこ、お前らの警備にえらく感動してたらしい」



「……いや、それ売れ残りの山じゃないですか?」



「それもあるかもしれんがな。あと、大日神社の巫女さん達やら、例のトラブル大統領の一件でお前らファン増えたろ? SNSで結構話題になってるぞ。なんなら“アテナの制服警備員推し”ってタグまである」



「そんなタグ、嬉しくない……!」



「先輩、もしかして、私らって、もはや制服着た公認マスコットみたいな立ち位置なんじゃ……」



「それ、むしろ業務外じゃない!?」



チョコの山に目を回しながらも、倉子は深いため息をついた。



「お返しが……お返しがとんでもない規模になりそう……」



「会社の経費で……いけないっすよね……?」



「当然、いけない」



社長の即答に、二人はそっとプレゼントの山を眺めた。



「じゃあ……チョコ以外のものだけ、ありがたく持ち帰らせてもらいます……」



「ぬいぐるみ抱いて寝たら、ちょっとだけ疲れが取れるかもしれないっす」



「チョコは、社で分配してください。私たち、学校ですでに甘いもの漬けです……」



「了解した。全部配っとく。あとでお前らのSNSアカウントで“ありがとうメッセージ”出しとけな」



「社長、私たち、芸能人じゃありませんから!」



「……そう言いながらも、明日は明日で制服で澪様のお出迎えっす」



「……平日休めないのに、土日出たから、次の土日まで休みなし……12日連勤……」



「言うなっ……! 心が折れる……!」



会議室のチョコレートの香りは、二人にとってもはや甘いものではなく、疲労の香りと化していた――。





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