SP24歳 女子高生始めました。

鍛高譚

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第44話 再び、セーラー服とバレンタイン

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:再び、セーラー服とバレンタイン



二月。



デパートの催事場、バレンタイン特設売り場には、今年も異質な光景があった。



 



セーラー服の女性が、二人。



 



年齢、二十六歳。



 



「……最近、もう恥ずかしいとかなくなってきたっす」



 



そう呟いたのは、真田真子。元・対策庁所属、今は警備会社勤務のエースだ。



細身で小柄、どう見ても未成年にも見える童顔が逆に強みとなり、こうして今でも“現役女子高生役”を続けている。



 



「私もだいぶ麻痺してきました……」



 



隣で溜息をついたのは服部倉子。



知的な雰囲気を漂わせる彼女もまた、見た目は二十代前半にしか見えない美貌の持ち主。



もちろん、身分証を出せば誰もが驚く。



 



「それにしても、制服着てここに立つの、もう何年目でしたっけ?」



 



「数えたら負けな気がするっす」



 



派遣元の警備会社が毎年請け負う恒例業務。



“制服姿で売り場を巡回する謎のJKコンビ”という都市伝説が、チョコ業界で定着してしまっている。



 



今日も多くの来場者がスマホを向け、隠しきれない注目を集めていた。



 



「……あ、あの子、手ぇ振ってる」



 



「あ、はい。にこっ♪」



 



倉子はさっと営業用の笑顔を作って手を振った。すると、小さな女の子がはにかんで手を振り返す。



 



「……対応が板についてきてるっすね、先輩」



 



「褒めてるんですか?」



 



「うん、でも、来年はそろそろ“保護者役”になりたいっす」



 



「……切実ですね」



 



どこか遠い目をしながら、二人はチョコの香りに包まれた空間の中、今年もまた“バレンタイン任務”をこなしていた。



 



* * *



 



そして翌日——。



 



学校ではない、あくまで「母校を借りた講演イベント」の日。だが、そこにはチョコが山のように集まっていた。



 



「なぁんか、去年より明らかに増えてないっすか?」



 



「増えてます。完全に“カロリーで殺す”量ですね……」



 



後輩から、先生から、卒業生から、関係者から、謎のファンから——



どれも“義理”というにはクオリティが高すぎる。箱の大きさも予算も桁違い。



 



そんな中、スーツ姿の大橋弓子が、どこかもじもじしながら近づいてきた。



 



「こ、これ……受け取ってもらえますか」



 



「……お、今年は委員長もチョコくれるっすか?」



 



「ありがたく頂きます」



 



倉子が柔らかく微笑みながらチョコを受け取ると、弓子はほっとしたように頭を下げた。



 



「……やっぱり今年もすごい人気ですね」



 



「いやいや、あくまで“任務の一環”ですから」



 



「“バレンタインの警備”って、なんなんすかね……?」



 



「たぶん、“業務命令”という名の公開処刑ですね」



 



二人はそんな冗談を交わしながら、配られたチョコの山を見て、ひときわ長い溜息をつく。



 



けれど——この日、まだ“最後の任務”が残っていることを、二人は忘れてはいなかった。



 



それは、澪の送迎。



 



そして、そこでもまた、甘い贈り物が待っているのだった。





第45章-2:校内バレンタイン地獄



 



「……なんか、去年より多くないっすか?」



 



教室の机の上に並べられた無数のチョコレートを前に、真子は腕を組んで唸った。



 



「うん、多いね。これは……確実に去年の倍はあるわ」



 



倉子が冷静に答える。だがその表情には、若干の引きつりがあった。



 



放課後、下駄箱の前で。教室の前で。昇降口の角で。



次々と現れるクラスメイトや後輩たちが、緊張した面持ちでチョコを差し出してきた。



しかも、その多くが手作り。



 



「義理でもさすがにこれは、カロリーでオーバーキルっすよ!」



 



真子は受け取りながら、内心で叫んだ。いや、わりと口にも出ていた。



 



「こっちは“義理っぽく見えるけどちょっと特別”系が多いね。重さが違う……」



 



倉子も溜息まじりに小箱を受け取りながら、少し首を傾げる。



甘い香りに包まれながら、ふたりの手提げ袋はどんどん重くなっていった。



 



そんなとき、教室のドアが控えめに開いた。



 



「あのっ……」



 



現れたのは、学級委員長の大橋弓子。やや緊張した様子で、小さな紙袋を抱えていた。



 



「あ、委員長。どうかしたっすか?」



 



真子が振り向くと、弓子は一歩、二歩と近づいてきて——



 



「これ……受け取って、もらえますか……?」



 



差し出された袋は、赤いリボンで丁寧に結ばれていた。どこか、気合の入り方が他とは違う。



 



「え、今年は委員長もくれるんっすか?」



 



真子がにやっとする。



 



「ありがとう。うれしいよ」



 



倉子がやさしく受け取ると、弓子の顔が一気に真っ赤になった。



 



「じゃ、じゃあ……っ!」



 



弓子は返事も聞かず、顔を覆いながら逃げるように教室を出ていった。



 



「なんか、去年とはちょっと雰囲気ちがうっすね、委員長」



 



「うん……たぶん、来年はもっとすごいことになってるかも」



 



「来年って……もう卒業っすよ?」



 



「そうだったね。ふふ」



 



甘くて、ちょっと苦い。

女子高生警備員コンビのバレンタインは、まだまだ終わらない——。



 



:澪からの“恒例”



 



夜。冷え込む帰り道。



澪の護衛と送迎を終えたあと、車の前で彼女がそっと立ち止まった。



 



「今年も、お世話になりました。これ……よろしければ」



 



差し出されたのは、小ぶりで上品なチョコレートの箱。



高級ブランドのロゴ入り。去年と同じだ。



 



「ありがとう、澪ちゃん。毎年恒例になってきたわね」



 



倉子が穏やかに微笑むと、澪は小さく首をかしげた。



 



「少し迷ったんですけど、やっぱり……これが一番、気持ちが伝わる気がして」



 



「律儀っすね、ほんと」



 



真子は受け取りながら、にやけそうになるのを必死に堪えていた。



 



「でもまあ、正直、うれしいっす」



 



「ふふ。そう言ってもらえてよかったです」



 



そのまま、三人は軽くお辞儀し合い、礼儀正しい空気のまま澪を送り出した。



 



その直後——



 



倉子と真子のスマホが、同時に震えた。



 



「……社からメールっす」



 



「件名:【至急】帰宅前に社事務所に寄ること」



 



「中身、短っ……“必ず来ること”って」



 



「……今年も、来たわね」



 



倉子が、チョコ以上に重たい空気を感じたように、ため息をついた。



 



「……去年の“チョコの山”再びっすか?」



 



「たぶん、もっと増えてる」



 



「げぇっ……!」



 



それでも、二人は方向を変え、社の事務所へとハンドルを切るのだった。



 



了解しました。以下に**第45章-4「チョコの山と社長の嘆き」**をラノベ小説形式でお届けします。





---



第45章-4:チョコの山と社長の嘆き



 



夜のオフィス街を歩く二人の足取りは、どこか重たい。



 



「うう……すでに手に持ってるチョコの重さが尋常じゃないっす」



 



「私はもう、帰って冷蔵庫の棚割りの心配してるよ……。アイス枠を一時解放しなきゃいけないかも」



 



真子がげんなりした声を漏らし、倉子は真剣に家庭の冷蔵庫事情に頭を悩ませながら歩いていた。



社の事務所のドアを開けた瞬間、二人は立ち止まった。



 



甘い香り。



鼻腔をくすぐるその匂いは、チョコレートのそれ。しかも、かなり大量。



 



「ちょっ……もうおかしくないっすか? この匂い、壁から滲み出てるレベルっすよ?」



 



「空間全体が“洋菓子屋”になってる。というか、匂いで糖分摂取できそうなんだけど」



 



奥からパタパタと足音が近づいてくる。



「よく来てくれた……」と現れたのは、社長だった。



しかしその表情は明らかに疲弊しており、手には湯呑み、顔には本気のクマができていた。



 



「どう見ても寝不足っす……」



 



「寝られるわけがないだろう……。見ろ、これが現実だ」



 



社長に促され、奥の会議室へ。



その扉を開けた瞬間、二人は思わず息を呑んだ。



 



——壁一面、チョコ、チョコ、チョコ。



 



積み重ねられたギフトバッグ、リボン付きの箱、手作りと思しきラッピングに高級ブランドのパッケージ。もはや“山”ではない。“壁”だった。



 



「去年は会議室のテーブルだけで済んだのに……なんで、今年は……応接室、給湯室、廊下まで……」



 



「入りきらなくてな。書類棚の上にも置いてある。火災報知器の邪魔になるからって、総務から苦情も来た」



 



「社長、これ……どうするつもりなんです?」



 



「だから、お前たちを呼んだんだ!」



 



社長はズズッとお茶をすすって深いため息。



 



「正直、社内だけじゃ消費しきれん。いや、無理だ。去年の軽トラどころか……」



 



「……今年はダンプじゃないと運べないっすね」



 



真子が真顔でつぶやき、倉子も頷いた。



 



「このままだと賞味期限切れで大量廃棄になります。どこかの施設や、子どもたちに配ってください」



 



倉子の言葉に、社長は一瞬だけ無言になり……ふっと笑った。



 



「そうだな。そうする。すぐに善処しよう」



 



「もらったものを無駄にしたくないっすからね」



 



「私たちアイドルじゃないんだけどね……」



 



言いながら、ふたりは社内のチョコの壁をもう一度見回す。



その背中はどこかあきらめ半分、でもちょっとだけ誇らしげ。



 



——今年も、いろんな人に感謝された証拠。



 



「でも……来年は、これ減らせないかなあ……」



 



「それ言うと炎上するっすよ。ファン心理って、そういうもんっす」



 



「そっか……じゃあ、受け止めよう……カロリーも、好意も、全部」



 



そんなふたりのやりとりを聞いて、社長が思わず吹き出した。



「やれやれ、お前たち……おつかれさん」



 



 



——バレンタイン。それは、警備女子たちにとって、もはや“戦場”だった。



 
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