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20話
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それから数週間が過ぎ、私たちの“本当の結婚式”の準備が着々と進んでいく。
といっても、派手な招待状をばらまくわけではなく、親族や親しい友人、そしてジークフリートの特務仲間などが、こっそり声をかけ合って集まる程度。
場所はアルグレイン男爵家の広々とした庭を使うことにした。
秋の始まりの涼やかな空気の中、庭園には可憐な花々が咲き、澄んだ空が晴れやかに広がっている。きっと素敵な式になるだろう。
挙式当日、私は白く美しいドレスを身にまとって、屋敷の一室で静かに息を整えていた。
かつて王太子との婚約中に仕立ててもらったものとはまるで違う、軽やかで柔らかな素材。胸元には小さく花の飾りがあしらわれ、まるで私自身が再生するような印象を与えてくれる。
鏡に映る自分の姿は、以前の“王太子妃候補”のころのようにぎこちなくはなく、どこか自然体に見えた。
コンコン、とノックの音がして、侍女が顔を出す。
「奥様、旦那様が入口でお待ちです。みなさまもそろそろお揃いになられますよ」
「ありがとう。今行きます」
胸の奥が高鳴る。
(仮面夫婦でもなく、形式的でもない。本当の意味での結婚式……私は今から、それを迎えるんだ)
私はゆっくりと立ち上がり、ドアを開けて廊下へ出る。
ホールを抜けて庭へと続く回廊に差しかかったとき、私の視線の先にジークフリートの姿があった。
いつもと違う礼服に身を包んだ彼は、引き締まった体躯と浅黒い髪がより一層引き立って、堂々とした雰囲気を放っている。
だが、その瞳には私を見た瞬間、はっきりとわかる優しい輝きが宿っていた。
「……クレスタ」
彼の低く柔らかな声を聞くだけで、私は心が甘く溶けていくのを感じる。
「ジークフリート様……私、変ではありませんか?」
照れくさくて尋ねると、彼は微かな笑みを浮かべてかぶりを振る。
「とても美しい。……言葉では足りないほどだ」
その言葉に、私の頬はかっと熱くなる。まだ慣れない甘い台詞に、どう返事をしていいか迷う。
だけど、彼の瞳が真剣で、決してからかっているわけではないことは、はっきりと伝わってきた。
「……ありがとう、ございます」
ようやくそう答えると、彼は私の手を取って回廊を進み始める。
ドアの向こう、ガーデンには簡素だけれど飾り付けが施され、参列者の皆が待っている。
父や妹をはじめ、アルグレイン家の使用人や、ジークフリートの仕事仲間たち。それに、先日村でお世話になった農民の代表まで、こっそり招かれているのを見て、私は少し驚いた。
(こんなにたくさんの人が、私たちのために集まってくれたんだ……)
胸がいっぱいになる。以前、王太子との婚約で挙げようとしていた式は、はるかに多くの招待客がいたはずなのに、私の心は常に不安と義務感で押しつぶされそうだった。
でも、今日は違う。温かい祝福の空気が、私たちを包み込んでいる。
ジークフリートと手を繋ぎながら、私は祭壇へとゆっくり歩みを進める。
「皆さま、本日は私たちのためにお集まりいただきありがとうございます。……私はクレスタ・エルバンシュ、そして、これより真の夫婦として、ジークフリート・アルグレインと新たな誓いを交わします」
震える声でそう告げると、ゲストの中から温かな拍手が湧き上がった。
私の目には、うっすらと涙が浮かぶ。でも、決して悲しい涙じゃない。
ジークフリートが祭壇に立ち、私の前に向き直る。司祭役を務める老紳士が、静かに言葉を紡いだ。
「ジークフリート・アルグレイン、あなたはクレスタ・エルバンシュを、真実の妻として愛し、敬い、慈しみ、そして守ることを誓いますか?」
沈黙が降りた庭で、彼の声がはっきりと響く。
「誓います。……私のすべてを懸けて、彼女を幸せに導くことを」
その言葉のひとつひとつが、私の胸に深く刻み込まれる。
司祭が私のほうに視線を向ける。
「クレスタ・エルバンシュ、あなたはジークフリート・アルグレインを、真実の夫として愛し、助け合い、そして彼の歩む道をともに進むことを誓いますか?」
私は大きく息を吸い、涙を拭いながら答える。
「はい、誓います。彼を愛し、共に生きていくと」
そう口にした瞬間、自分の中の不安や迷いが消え去り、胸いっぱいに充足感が広がった。
王太子との結婚準備のころ、私は“誓います”という言葉をなかなか言えずにいた。それが義務でしかなかったから。しかし、今は心からそう言える。
司祭が「よろしい、では指輪を」と促すと、ジークフリートは私の左手を取り、小さな指輪をはめる。
銀色に光るリングには、先日選んだばかりの上品な細工が施されている。
私もまた、彼の左手薬指に指輪をはめた。
すると、ゲストたちから拍手が鳴り、使用人たちが歓声を上げる。
父や妹も涙ぐみながら、心から喜んでくれているのがわかる。
「……クレスタ」
ジークフリートが微かに笑んで、私を抱き寄せた。
拍手喝采の中、私は恥ずかしさと幸福感でいっぱいになる。
もうこれが、私たちの“真実の結婚”なのだ。過去の痛みとは無縁の、純粋な愛の証。
まわりで花びらが舞い散り、明るい陽光が差し込む中、私たちは静かに唇を重ねる。
その瞬間、ゲストたちの歓声と拍手がさらに高まった。
といっても、派手な招待状をばらまくわけではなく、親族や親しい友人、そしてジークフリートの特務仲間などが、こっそり声をかけ合って集まる程度。
場所はアルグレイン男爵家の広々とした庭を使うことにした。
秋の始まりの涼やかな空気の中、庭園には可憐な花々が咲き、澄んだ空が晴れやかに広がっている。きっと素敵な式になるだろう。
挙式当日、私は白く美しいドレスを身にまとって、屋敷の一室で静かに息を整えていた。
かつて王太子との婚約中に仕立ててもらったものとはまるで違う、軽やかで柔らかな素材。胸元には小さく花の飾りがあしらわれ、まるで私自身が再生するような印象を与えてくれる。
鏡に映る自分の姿は、以前の“王太子妃候補”のころのようにぎこちなくはなく、どこか自然体に見えた。
コンコン、とノックの音がして、侍女が顔を出す。
「奥様、旦那様が入口でお待ちです。みなさまもそろそろお揃いになられますよ」
「ありがとう。今行きます」
胸の奥が高鳴る。
(仮面夫婦でもなく、形式的でもない。本当の意味での結婚式……私は今から、それを迎えるんだ)
私はゆっくりと立ち上がり、ドアを開けて廊下へ出る。
ホールを抜けて庭へと続く回廊に差しかかったとき、私の視線の先にジークフリートの姿があった。
いつもと違う礼服に身を包んだ彼は、引き締まった体躯と浅黒い髪がより一層引き立って、堂々とした雰囲気を放っている。
だが、その瞳には私を見た瞬間、はっきりとわかる優しい輝きが宿っていた。
「……クレスタ」
彼の低く柔らかな声を聞くだけで、私は心が甘く溶けていくのを感じる。
「ジークフリート様……私、変ではありませんか?」
照れくさくて尋ねると、彼は微かな笑みを浮かべてかぶりを振る。
「とても美しい。……言葉では足りないほどだ」
その言葉に、私の頬はかっと熱くなる。まだ慣れない甘い台詞に、どう返事をしていいか迷う。
だけど、彼の瞳が真剣で、決してからかっているわけではないことは、はっきりと伝わってきた。
「……ありがとう、ございます」
ようやくそう答えると、彼は私の手を取って回廊を進み始める。
ドアの向こう、ガーデンには簡素だけれど飾り付けが施され、参列者の皆が待っている。
父や妹をはじめ、アルグレイン家の使用人や、ジークフリートの仕事仲間たち。それに、先日村でお世話になった農民の代表まで、こっそり招かれているのを見て、私は少し驚いた。
(こんなにたくさんの人が、私たちのために集まってくれたんだ……)
胸がいっぱいになる。以前、王太子との婚約で挙げようとしていた式は、はるかに多くの招待客がいたはずなのに、私の心は常に不安と義務感で押しつぶされそうだった。
でも、今日は違う。温かい祝福の空気が、私たちを包み込んでいる。
ジークフリートと手を繋ぎながら、私は祭壇へとゆっくり歩みを進める。
「皆さま、本日は私たちのためにお集まりいただきありがとうございます。……私はクレスタ・エルバンシュ、そして、これより真の夫婦として、ジークフリート・アルグレインと新たな誓いを交わします」
震える声でそう告げると、ゲストの中から温かな拍手が湧き上がった。
私の目には、うっすらと涙が浮かぶ。でも、決して悲しい涙じゃない。
ジークフリートが祭壇に立ち、私の前に向き直る。司祭役を務める老紳士が、静かに言葉を紡いだ。
「ジークフリート・アルグレイン、あなたはクレスタ・エルバンシュを、真実の妻として愛し、敬い、慈しみ、そして守ることを誓いますか?」
沈黙が降りた庭で、彼の声がはっきりと響く。
「誓います。……私のすべてを懸けて、彼女を幸せに導くことを」
その言葉のひとつひとつが、私の胸に深く刻み込まれる。
司祭が私のほうに視線を向ける。
「クレスタ・エルバンシュ、あなたはジークフリート・アルグレインを、真実の夫として愛し、助け合い、そして彼の歩む道をともに進むことを誓いますか?」
私は大きく息を吸い、涙を拭いながら答える。
「はい、誓います。彼を愛し、共に生きていくと」
そう口にした瞬間、自分の中の不安や迷いが消え去り、胸いっぱいに充足感が広がった。
王太子との結婚準備のころ、私は“誓います”という言葉をなかなか言えずにいた。それが義務でしかなかったから。しかし、今は心からそう言える。
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「……クレスタ」
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