婚約破棄されたので、愛のない契約結婚を選んだはずでした

鍛高譚

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第1章 婚約破棄と白い結婚の提案

6話

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夕食会当日。アルベルト侯爵夫妻とカーテンリンゼは、公爵邸へと馬車で向かった。王都の中心に位置するその邸宅は、華やかさと重厚感が共存する、まさに“新興の名門”を象徴するような造りになっている。
 玄関ホールでは、既に多くの招待客が集まっており、公爵家の使用人たちが行き届いたもてなしをしている。ゴブラン織のカーペット、磨き上げられた大理石の柱、そして壁に飾られた数々の名画が目を楽しませた。
 「ようこそ、アルベルト侯爵殿、レベッカ侯爵夫人、そしてカーテンリンゼ嬢」
 低く落ち着いた声が響き、カーテンリンゼが視線を上げると、そこには長身で威厳に満ちた男性が立っていた。これが、レオポルド公爵――レオポルド・ヴァレンシュタインその人である。

 その髪は深い漆黒、瞳は澄んだ灰色。鍛え抜かれた体躯がタキシード越しでもわかるようで、普通の貴族男性のような線の細さとは一線を画していた。厳格さを感じさせる表情だが、その奥にはどこか落ち着いた優しさも見える。
 カーテンリンゼは礼儀正しく一礼し、「本日はご招待いただきありがとうございます」と言葉を添える。レオポルドは軽く頷き、「どうぞ、くつろいでいってください」と微笑んだ。
 その笑みを見て、カーテンリンゼは少しだけ意外に思った。武功で地位を得た新興の公爵というと、もっと粗野な印象があるのかと勝手に想像していたのだ。しかし実際は、貴族社会をよく理解し、上品な振る舞いを身につけた人物に見える。

 「このたびは突然の招待で驚かせてしまったかもしれない。実は、私も最近まで北方の領地の整理や軍備の再編などで王都を離れることが多かったのでね。少し落ち着いたら、ぜひともアルベルト侯爵殿と親交を深めたいと思っていたところなのだ」
 レオポルドはそう言い、侯爵とお互いに礼儀正しく言葉を交わす。どこかぎこちない空気はあるが、それでも初対面にしては和やかな会話が続いていた。
 「侯爵令嬢であるあなたにも、ぜひお目にかかりたかった。噂はかねがね聞いている。優美なだけでなく、頭脳明晰で聡明な女性だと」

 ――“噂”とは、きっと良くない意味で広まっているものも含まれるだろう。
 カーテンリンゼはそう思いつつ、眉を動かさないように気をつける。今や王都では“王太子との婚約を破棄された女”として有名になっているはずだ。この公爵も、そのことを知らないわけがない。
 「とんでもない。私はまだまだ未熟です。公爵様のように国に貢献できる功績は何一つありません」
 当たり障りのない返事をしながら、カーテンリンゼは相手の反応を探っていたルビ。だが、レオポルドの視線は冷たくもなく、また興味本位に取り繕ったものでもない。むしろ何かを考えるように穏やかに微笑んでいる。
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