婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚

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第二章:運命の転回と新たなる秩序

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2.没落貴族の現実:カリーナとエルドレイン家

 カリーナ・エルドレインは、王都ルメリアの片隅にある小さな邸宅に住んでいた。かつては王国に広い領地を持つ名門貴族だったエルドレイン家だが、先代当主が投資に失敗したことを機に大幅に財産を失い、その結果、領地をほとんど売却したのだという。
 現在は形式上“子爵”という爵位は残っているものの、実情はほぼ没落といって差し支えない程度の経済規模で、カリーナ自身も豪華な衣服や宝石を買い漁る余裕などほとんどなかった。それでも、彼女は美貌を武器にして王都の社交界に顔を出し、時折開かれる舞踏会や茶会などで男たちの心を奪い、貢ぎ物を受け取るなどして生活費を補っていたようだ。
 アレンは、まだエルドレイン家がそこまで困窮しているとは知らず、単に「かつて大きな領地を有していた旧家」という程度の認識だった。カリーナは巧みに言葉を使い、「私の家は不遇続きで、今は苦しいけれど、本来は古くからの名門なのです」「本当に私を大切にしてくれる方が現れれば、きっと家も復興できるでしょう」などと夢見るように語っていたからだ。
 しかし、いざ正式にカリーナと婚約を交わし、エルドレイン家を訪れる機会が増えてくると、アレンもさすがに気づき始める。邸宅は広さこそそれなりにあるものの、壁の塗装は剥げかけ、調度品も古びて色あせている。召使いも数えるほどしかおらず、屋敷の手入れも行き届いていない。
 それでもアレンは「結婚の前には多少の出費が伴う。今はこうして古びていても、いずれ俺が何とかすればいい」と自らに言い聞かせるかのように、カリーナを安心させる。
「心配することはない。俺は王子だ。たとえ第三王子でも、必要な資金くらい用立てることはできるさ」
「まあ、アレン様……! でも、あまり無理はなさらないでくださいね。私、あなたさえいてくだされば、ほかには何もいらないわ」
 そう言いながらも、カリーナの瞳には金銭的な期待がはっきりと浮かんでいた。しかし、アレンはそのことにまるで気づかない――いや、気づかないふりをしているのかもしれない。人の愛情とは、あるとき盲目になりやすいものだ。
 こうして婚約後、アレンはカリーナとともに王都での新婚生活――正式な挙式まではもう少し時間があるが、事実上の同棲に近い形――を始めることになる。もっとも、王城の居住区は家族や側近の厳しい視線があり、気ままに暮らせない。そこでアレンは、しばしばエルドレイン家の邸宅に滞在してカリーナと過ごし、やがては彼女の家に必要な改装費を提供し始めた。
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