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第二章:運命の転回と新たなる秩序
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4.加速する浪費と綻び
カリーナが欲しがる装飾品やドレスは高価なものばかりで、しかも彼女は浪費を隠そうとしない。エルドレイン家の邸宅は改装が進められ、古びた家具は新調され、召使いも増員された。だが、それらの費用の大半はアレンが拠出しているに等しく、王家からの正式な援助があるわけではない。
「一体、あれほどの資金をどこから引っ張ってきているのだろう? まさか借金をしているのでは?」
「アレン殿下は第三王子に過ぎないし、国王陛下もこの状況に眉をひそめていると聞く。もはや王家からの支給は極僅かだろう。もしや、高利貸しや闇商人と……」
そんなよからぬ噂さえ囁かれるようになり、アレンの立場はますます危うくなっていた。しかし、アレン本人は「今が踏ん張りどきだ。カリーナの家が復興すれば、きっと大きな恩恵が返ってくる。そうすれば父上も見直してくださる」と、まるで夢を追いかける少年のように自分を鼓舞しているのである。
一方、カリーナはアレンのその様子に、当初こそ「なんて真っ直ぐな方なの」と満足気だったが、彼女の欲望は止まることを知らなかった。新しいドレスを買えば、今度は高価なアクセサリーを買い揃えたくなる。邸宅を改装すれば、次は馬車や庭園の整備をしたくなる。アレンの財力の限界を考えず、いくらでも金を引き出そうとするのだ。
それでも最初は、アレンがどんなに苦労して資金を捻出しているのかを知らなかったのかもしれない。だが、次第にアレンが険しい表情で帳簿を眺める姿を見かけても、カリーナは優しく言葉をかけるどころか、
「アレン様、私、近々開催される伯爵家の舞踏会に招かれたのです。素敵なドレスが必要ですわね」
「あなたが王子であることを印象づけるためにも、豪華な衣装を着て行きませんか? ほら、王子の品格を見せつけられるでしょう?」
などと、さらなる贅沢を要求してくる。アレンはうんざりした様子を見せながらも、結局は彼女の言う通りにしてしまう。
そうした生活が続くうちに、アレンは次第に自分の立場が危うくなりつつあることを痛感せずにはいられなくなった。すでに王城での居場所は狭まっており、父である国王や兄たちからは冷たい目を向けられるばかり。
さらに、アナスタシアとの一件で決まった慰謝料の支払い期限も近づいているというのに、まだ支払いが滞ったままだった。もちろん、公爵家から公式な督促が来るわけではないが、放置するわけにもいかない。国王の命令として下された慰謝料なのだから、王子と言えども無視すればそれ相応の報いを受けることになる。
「どうする……。いよいよ、金が回らなくなってきた。借金でもしないと、まずいんじゃないか……?」
アレンがそう呟くほどに追い詰められたある日、カリーナはまるで他人事のように言い放った。
「アレン様、私の家が没落したのは前の世代のせいであって、私には関係ありません。あなたは王子なのだから、どうにかして資金を調達してくださいな。まさか、できないなんて言わないわよね? あなたは“愛のためなら何でもする”って言ってくれたではありませんか」
これには、さすがにアレンも苛立ちを隠せない。
「……だが、今の俺にはどうにもならないこともある。父上から援助を断られた以上、王家の財産を勝手に使うわけにもいかないんだ。ましてや、“第三王子”の地位ってのは、思っているほど自由が利くものじゃない……」
「あら、そう? でも、あなたは王子でしょう? なんとかして頂戴。私が恥をかくのは嫌ですもの」
カリーナは拗ねたように唇を尖らせる。それを見たアレンは、再び「愛のためだ」と自分に言い聞かせ、何とか資金の工面を試みる。
しかし、無理な借金は積み重なり、急場しのぎの金策はやがて行き詰まるのは目に見えている。そうした危うい綱渡りがいつまでも続けられるはずがなかった。
カリーナが欲しがる装飾品やドレスは高価なものばかりで、しかも彼女は浪費を隠そうとしない。エルドレイン家の邸宅は改装が進められ、古びた家具は新調され、召使いも増員された。だが、それらの費用の大半はアレンが拠出しているに等しく、王家からの正式な援助があるわけではない。
「一体、あれほどの資金をどこから引っ張ってきているのだろう? まさか借金をしているのでは?」
「アレン殿下は第三王子に過ぎないし、国王陛下もこの状況に眉をひそめていると聞く。もはや王家からの支給は極僅かだろう。もしや、高利貸しや闇商人と……」
そんなよからぬ噂さえ囁かれるようになり、アレンの立場はますます危うくなっていた。しかし、アレン本人は「今が踏ん張りどきだ。カリーナの家が復興すれば、きっと大きな恩恵が返ってくる。そうすれば父上も見直してくださる」と、まるで夢を追いかける少年のように自分を鼓舞しているのである。
一方、カリーナはアレンのその様子に、当初こそ「なんて真っ直ぐな方なの」と満足気だったが、彼女の欲望は止まることを知らなかった。新しいドレスを買えば、今度は高価なアクセサリーを買い揃えたくなる。邸宅を改装すれば、次は馬車や庭園の整備をしたくなる。アレンの財力の限界を考えず、いくらでも金を引き出そうとするのだ。
それでも最初は、アレンがどんなに苦労して資金を捻出しているのかを知らなかったのかもしれない。だが、次第にアレンが険しい表情で帳簿を眺める姿を見かけても、カリーナは優しく言葉をかけるどころか、
「アレン様、私、近々開催される伯爵家の舞踏会に招かれたのです。素敵なドレスが必要ですわね」
「あなたが王子であることを印象づけるためにも、豪華な衣装を着て行きませんか? ほら、王子の品格を見せつけられるでしょう?」
などと、さらなる贅沢を要求してくる。アレンはうんざりした様子を見せながらも、結局は彼女の言う通りにしてしまう。
そうした生活が続くうちに、アレンは次第に自分の立場が危うくなりつつあることを痛感せずにはいられなくなった。すでに王城での居場所は狭まっており、父である国王や兄たちからは冷たい目を向けられるばかり。
さらに、アナスタシアとの一件で決まった慰謝料の支払い期限も近づいているというのに、まだ支払いが滞ったままだった。もちろん、公爵家から公式な督促が来るわけではないが、放置するわけにもいかない。国王の命令として下された慰謝料なのだから、王子と言えども無視すればそれ相応の報いを受けることになる。
「どうする……。いよいよ、金が回らなくなってきた。借金でもしないと、まずいんじゃないか……?」
アレンがそう呟くほどに追い詰められたある日、カリーナはまるで他人事のように言い放った。
「アレン様、私の家が没落したのは前の世代のせいであって、私には関係ありません。あなたは王子なのだから、どうにかして資金を調達してくださいな。まさか、できないなんて言わないわよね? あなたは“愛のためなら何でもする”って言ってくれたではありませんか」
これには、さすがにアレンも苛立ちを隠せない。
「……だが、今の俺にはどうにもならないこともある。父上から援助を断られた以上、王家の財産を勝手に使うわけにもいかないんだ。ましてや、“第三王子”の地位ってのは、思っているほど自由が利くものじゃない……」
「あら、そう? でも、あなたは王子でしょう? なんとかして頂戴。私が恥をかくのは嫌ですもの」
カリーナは拗ねたように唇を尖らせる。それを見たアレンは、再び「愛のためだ」と自分に言い聞かせ、何とか資金の工面を試みる。
しかし、無理な借金は積み重なり、急場しのぎの金策はやがて行き詰まるのは目に見えている。そうした危うい綱渡りがいつまでも続けられるはずがなかった。
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