婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚

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第三章:公爵令嬢の再出発と新たなる波紋

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3.新たな縁談の気配

 そんな折、公爵家には“縁談”に関する話が次々と舞い込んでくる。
 とりわけ、アナスタシアのもとへ持ち込まれる縁談は少なくない。中には「第一王子の腹心を務める侯爵家の嫡男」といった、政治的に大きな後ろ盾を持つ相手もいれば、「王国軍の若き将軍」として名声を得ている貴族など、さまざまな候補が並ぶ。
 元々公爵令嬢として相応の条件を持っていたアナスタシアだが、アレンとの破局後はむしろ「より自由な立場」になったとも見なされ、彼女に好意を寄せる者、あるいは公爵家との結びつきを強めたいと考える者が一斉にアプローチをかけてきているのだ。
 アナスタシアの父である公爵は、一連の騒動後だからこそ慎重に話を進めようと考え、すべての縁談を一旦アナスタシアに報告し、本人の意思を尊重する姿勢を見せている。
「アナスタシア。お前の幸せが何より大事だ。私としては、どれほど家格の高い相手でも、お前が望まないなら無理強いするつもりはない」
 父の言葉を聞き、アナスタシアはそっと微笑む。
「ありがとうございます。――正直に言うと、今はまだあまりそういったことを考える気にはなれません。公爵家の仕事も忙しいですし、そもそも私は、愛のない婚約はもう御免ですわ」
 かつては政治的思惑で結ばれた婚約に、彼女なりに努力して順応しようとしてきた。しかし、結果として婚約者が不誠実な男だった以上、今後は「形だけ」の結婚に自ら飛び込むことはしないだろう――そういう決意があるのだ。
 父である公爵も、その気持ちを尊重する。幸い公爵家は領地も広大で、財政基盤も盤石。アナスタシアが当主の座につくにしても、当面は何ら不安のない体制が築かれている。
 だからこそ父は、アナスタシアにこう続けた。
「もし、お前が自分で相手を選びたいというなら、時間をかけてじっくり見極めればいい。もっとも、あまり長く独身でいると、周りがやかましいのは事実だが……」
「……ええ。それでも、私はまだ自分の意思を第一にしたいと思います」
 そこに微かな苦笑が混じる。父もまた娘に早く安定した結婚相手を見つけてほしい気持ちはあるが、それ以上に、「次の相手こそは、娘が本当に幸せになれるような男であってほしい」という思いが強いのだろう。
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