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第2話:秘書課での初日と運命の出会い
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第2話:秘書課での初日と運命の出会い
月曜の朝。
相沢結衣は、会社の10階――秘書課のフロア前で足を止めていた。
エレベーターから降りた瞬間、空気が違った。
高級ホテルのラウンジを思わせる静けさと清潔感。
営業部で聞き慣れたキーボード音や雑談はここにはない。
フロア全体が“品位”というルールで統率されているようだった。
結衣は無意識に背筋を伸ばした。
手のひらには緊張の汗。
胃の奥がほんのり冷たい。
「……やるしかないよね。」
小さく呟き、深く息を吸う。
そして、コンコンとノックした。
「どうぞ。」
落ち着いた女性の声に促され扉を開くと、目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
白とグレーを基調とした洗練されたオフィス。
整然と並ぶデスク、最上級のオフィスチェア、窓から流れ込む柔らかな朝日――
これが秘書課。会社の中枢。
営業部のような雑然さは一切なく、ここにいるだけで背筋が張り詰める。
「相沢結衣さんですね?」
声の主は、落ち着いた目元と知的な雰囲気が印象的な30代半ばの女性だった。
無駄のない所作、シンプルなスーツ……この人こそ“秘書の鏡”という雰囲気だ。
「はい。本日から配属になりました相沢結衣です。よろしくお願いいたします!」
深く頭を下げると、彼女は柔らかく微笑んだ。
「私は長谷川綾子。この秘書課のリーダーです。まずは席をご案内しますね。」
---
◆秘書課の中心で始まる新しい日
案内された席は、秘書課のほぼ中央。
新しいパソコン、整った文具、無駄のないレイアウト。
隣の席には長谷川が座り、今日からの結衣を直接指導するらしい。
「秘書課の仕事は、書類整理やスケジュール管理だけではありません。
特に社長直属の私たちは、“先読み”が求められます。」
長谷川は淡々としながらも、丁寧に説明する。
「社長がまだ言葉にしていない要求を予測し、先回り。
それができて、初めて“秘書”として評価されるのです。」
結衣は大きく頷いた。
「……はい。頑張ります!」
言葉とは裏腹に、内心は不安でいっぱいだった。
“言われたことを正確にこなす”だけが強みだった結衣にとって、
“先回りして動く”という世界は未知に近い。
でも――逃げるわけにはいかない。
---
◆午前の仕事と高まる緊張
午前中は比較的簡単な業務が中心だった。
資料の並び替え、スケジュール表のチェック、メールの振り分けなど。
だが、秘書課独特の“静かなのに重い空気”が、結衣にじわじわと緊張を与える。
一つの音や呼びかけに皆が敏感に反応し、仕事に隙がない。
「相沢さん。」
長谷川が書類の束を差し出す。
「これを社長室に届けてもらえますか?」
――社長室。
脳内で警報が鳴る。
西園寺蓮。
冷徹、完璧主義、落ち度は許さない。
今日、初めて会うことになる。
「わ、わかりました……!」
書類を抱えて立ち上がると、足が震えているのが自分でも分かった。
---
◆社長室、その扉の向こうへ
社長室の扉の前に立ち、結衣は深呼吸をした。
(落ち着いて……落ち着いて……!)
コンコン。
「失礼します。相沢結衣です。書類をお届けに参りました。」
扉を開けると――世界が変わった。
高層階からの眺望を背景に、広すぎるほどのオフィス。
広いデスク、重厚感のある革張りのチェア、選び抜かれたアート。
すべてが“社長の部屋”として完璧だった。
そして、その中心に座る男――西園寺蓮。
長身に仕立ての良いスーツ。
横顔だけで絵になる整った顔立ち。
氷のように冷たく研ぎ澄まされた雰囲気。
彼が顔を上げ、結衣を見る。
刹那、視線が交わる。
結衣の心臓が跳ねた。
(え……綺麗……)
思わずそんな言葉が脳裏によぎるほどの美しさ。
だが、同時に圧倒的な威圧感が襲う。
「そこに置いておけ。」
低く、よく響く声。
静かなのに、心に刺さる強さがある。
「は、はい……!」
結衣は慌てて書類をデスクへ置こうとした――その瞬間。
指先が震え、書類がふわりと滑り落ちる。
パサ……ッ。
音がやけに大きく響いた。
「あっ、も、申し訳ありませんっ……!」
結衣は慌てて書類を拾い始めるが、手が震えて思うようにいかない。
すると――。
目の前に黒い革靴が止まった。
顔を上げると、蓮がかがみ込み、無言で書類を拾っている。
(しゃ、社長が……!?)
思わず固まった。
蓮は整った指先で書類を揃え、静かに言った。
「……不注意だな。」
冷たい言葉。しかし、その声にはどこか落ち着きがあった。
「ミスを恐れるな。ただ、次は気をつけろ。」
叱責ではない。突き放すわけでもない。
短い言葉の奥に、
――“改善すればいい”
そんな意図が確かに含まれていた。
結衣は胸が熱くなる。
「……はいっ!」
蓮は一瞬だけ結衣の顔を見た。
その視線は冷静で、どこか測るようで――
けれど不思議と嫌な感じはしなかった。
「もう行っていい。」
結衣は頭を下げ、社長室を後にした。
---
◆初日が残した“何か”
秘書課へ戻る直前、結衣は廊下で壁に背を預け、ふぅっと息を吐いた。
「……こわかった……けど……優しかったような……?」
緊張で足元が少しガクガクしている。
でも――心の奥がほんのり温かい。
ミスしたのに怒鳴られなかった。
冷徹だと思っていた人が、意外にも落ち着いていた。
そして何より……
(あんなに綺麗な人がいるなんて……)
思わず赤面し、顔を覆う。
「ダメダメ!初日から何考えてるの私!」
気持ちを切り替えようと深呼吸し、オフィスへ戻る。
しかし――。
この日の出会いこそが、
結衣と蓮の運命を大きく動かす“始まり”であることを、
まだ誰も知らなかった。
月曜の朝。
相沢結衣は、会社の10階――秘書課のフロア前で足を止めていた。
エレベーターから降りた瞬間、空気が違った。
高級ホテルのラウンジを思わせる静けさと清潔感。
営業部で聞き慣れたキーボード音や雑談はここにはない。
フロア全体が“品位”というルールで統率されているようだった。
結衣は無意識に背筋を伸ばした。
手のひらには緊張の汗。
胃の奥がほんのり冷たい。
「……やるしかないよね。」
小さく呟き、深く息を吸う。
そして、コンコンとノックした。
「どうぞ。」
落ち着いた女性の声に促され扉を開くと、目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
白とグレーを基調とした洗練されたオフィス。
整然と並ぶデスク、最上級のオフィスチェア、窓から流れ込む柔らかな朝日――
これが秘書課。会社の中枢。
営業部のような雑然さは一切なく、ここにいるだけで背筋が張り詰める。
「相沢結衣さんですね?」
声の主は、落ち着いた目元と知的な雰囲気が印象的な30代半ばの女性だった。
無駄のない所作、シンプルなスーツ……この人こそ“秘書の鏡”という雰囲気だ。
「はい。本日から配属になりました相沢結衣です。よろしくお願いいたします!」
深く頭を下げると、彼女は柔らかく微笑んだ。
「私は長谷川綾子。この秘書課のリーダーです。まずは席をご案内しますね。」
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◆秘書課の中心で始まる新しい日
案内された席は、秘書課のほぼ中央。
新しいパソコン、整った文具、無駄のないレイアウト。
隣の席には長谷川が座り、今日からの結衣を直接指導するらしい。
「秘書課の仕事は、書類整理やスケジュール管理だけではありません。
特に社長直属の私たちは、“先読み”が求められます。」
長谷川は淡々としながらも、丁寧に説明する。
「社長がまだ言葉にしていない要求を予測し、先回り。
それができて、初めて“秘書”として評価されるのです。」
結衣は大きく頷いた。
「……はい。頑張ります!」
言葉とは裏腹に、内心は不安でいっぱいだった。
“言われたことを正確にこなす”だけが強みだった結衣にとって、
“先回りして動く”という世界は未知に近い。
でも――逃げるわけにはいかない。
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◆午前の仕事と高まる緊張
午前中は比較的簡単な業務が中心だった。
資料の並び替え、スケジュール表のチェック、メールの振り分けなど。
だが、秘書課独特の“静かなのに重い空気”が、結衣にじわじわと緊張を与える。
一つの音や呼びかけに皆が敏感に反応し、仕事に隙がない。
「相沢さん。」
長谷川が書類の束を差し出す。
「これを社長室に届けてもらえますか?」
――社長室。
脳内で警報が鳴る。
西園寺蓮。
冷徹、完璧主義、落ち度は許さない。
今日、初めて会うことになる。
「わ、わかりました……!」
書類を抱えて立ち上がると、足が震えているのが自分でも分かった。
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◆社長室、その扉の向こうへ
社長室の扉の前に立ち、結衣は深呼吸をした。
(落ち着いて……落ち着いて……!)
コンコン。
「失礼します。相沢結衣です。書類をお届けに参りました。」
扉を開けると――世界が変わった。
高層階からの眺望を背景に、広すぎるほどのオフィス。
広いデスク、重厚感のある革張りのチェア、選び抜かれたアート。
すべてが“社長の部屋”として完璧だった。
そして、その中心に座る男――西園寺蓮。
長身に仕立ての良いスーツ。
横顔だけで絵になる整った顔立ち。
氷のように冷たく研ぎ澄まされた雰囲気。
彼が顔を上げ、結衣を見る。
刹那、視線が交わる。
結衣の心臓が跳ねた。
(え……綺麗……)
思わずそんな言葉が脳裏によぎるほどの美しさ。
だが、同時に圧倒的な威圧感が襲う。
「そこに置いておけ。」
低く、よく響く声。
静かなのに、心に刺さる強さがある。
「は、はい……!」
結衣は慌てて書類をデスクへ置こうとした――その瞬間。
指先が震え、書類がふわりと滑り落ちる。
パサ……ッ。
音がやけに大きく響いた。
「あっ、も、申し訳ありませんっ……!」
結衣は慌てて書類を拾い始めるが、手が震えて思うようにいかない。
すると――。
目の前に黒い革靴が止まった。
顔を上げると、蓮がかがみ込み、無言で書類を拾っている。
(しゃ、社長が……!?)
思わず固まった。
蓮は整った指先で書類を揃え、静かに言った。
「……不注意だな。」
冷たい言葉。しかし、その声にはどこか落ち着きがあった。
「ミスを恐れるな。ただ、次は気をつけろ。」
叱責ではない。突き放すわけでもない。
短い言葉の奥に、
――“改善すればいい”
そんな意図が確かに含まれていた。
結衣は胸が熱くなる。
「……はいっ!」
蓮は一瞬だけ結衣の顔を見た。
その視線は冷静で、どこか測るようで――
けれど不思議と嫌な感じはしなかった。
「もう行っていい。」
結衣は頭を下げ、社長室を後にした。
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◆初日が残した“何か”
秘書課へ戻る直前、結衣は廊下で壁に背を預け、ふぅっと息を吐いた。
「……こわかった……けど……優しかったような……?」
緊張で足元が少しガクガクしている。
でも――心の奥がほんのり温かい。
ミスしたのに怒鳴られなかった。
冷徹だと思っていた人が、意外にも落ち着いていた。
そして何より……
(あんなに綺麗な人がいるなんて……)
思わず赤面し、顔を覆う。
「ダメダメ!初日から何考えてるの私!」
気持ちを切り替えようと深呼吸し、オフィスへ戻る。
しかし――。
この日の出会いこそが、
結衣と蓮の運命を大きく動かす“始まり”であることを、
まだ誰も知らなかった。
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