王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました

鍛高譚

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第2章:偽りの王妃と宮廷の嘲笑

2-3

 朝食の席は、王宮の一角にある小さなサロンだった。丸いテーブルを囲む形で、王妃陛下、王太子アルベール、そしてオデットが顔を合わせる。国王陛下は公務のため既に執務室に向かったとのことだ。
 王妃陛下は病弱でありながらも、礼儀を重んじる気品ある女性だ。だが、この国の実権は既にアルベールに移りつつあり、王妃陛下にはそれを制御するだけの力は残されていない。そのことを、オデットはよく知っていた。
 「オデット、体調はいかが? 王宮に移ってから慣れないことも多いでしょう」
 そう優しく声をかけてくれたのは王妃陛下。彼女は儚げな微笑みを浮かべながら、オデットの顔を覗き込む。
 「ご心配をありがとうございます。私は大丈夫です。王宮はとても快適で、侍女の皆様にもよくしていただいております」
 そう返事をしたオデットの横で、アルベールは興味なさげにカップを傾けている。彼は王太子としての威厳こそあるが、オデットには見向きもしない。
 「母上、朝食が終わったら、例の件について相談したいのですが……」
 アルベールは王妃陛下を“母上”と呼びながら、ちらりとオデットを一瞥した。オデットが何の話だろうと思っていると、アルベールの口から飛び出したのは、今後の王宮での“行事分担”についてだった。
 「オデットには、これから王宮の行事を一手に引き受けてもらうことにします。舞踏会の準備、宮廷行事の運営、あとは……母上の体調が優れないときには、国賓への対応も任せたいと考えています」
 彼の言葉に、オデットは一瞬目を見張った。
 「……それは光栄なことですが、私に任せてもよろしいのですか?」
 王太子妃となる立場であれば、そうした公務を手伝うことは珍しくない。むしろ当然とも言える。だが、これまでアルベールはオデットに関心を示さず、王宮の行事ごとにも積極的に参加させようとはしなかった。
 どうして急に、と思わず戸惑いが顔に出てしまう。しかし、アルベールはまるで無機質な調子で言葉を続ける。
 「母上の負担を減らしたいだけだ。正式に式を挙げるまで、表向きは“王太子妃候補”としての振る舞いをしてくれればいい。もっとも……」
 そう言いかけて、彼は唇の端をわずかに吊り上げた。
 「夫婦になるといっても、形式上のことだ。まあ、今はその話はいいだろう」
 オデットがうつむくのを感じたのか、王妃陛下が気まずそうに声をかける。
 「アルベール。オデットはまだ若いのですから、あまり負担をかけるのは良くありませんよ」
 しかし、アルベールは聞く耳を持たず、さらりと話題を変える。まるで「形だけ仕事を押し付ければいい」とでも言わんばかりの態度だ。
 結局、朝食の席は重苦しい空気のまま終わった。王妃陛下も口数少なく、オデットも何を話してよいのか分からない。アルベールだけがやけに落ち着いた様子で、最後にこう告げてその場を去ったのだった。
 「今日のうちに、舞踏会のリストを渡す。これは母上のためでもあるから、しっかり頼むぞ」


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