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第2章:偽りの王妃と宮廷の嘲笑
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しおりを挟む応接間の扉を開けると、ルイーゼは既にソファに腰掛けていた。豪奢な金の刺繍が施されたドレスをまとい、髪には宝石がちりばめられ、威圧感さえ覚える派手な装いだ。年齢は四十代半ばほどか。けれども、浮かべる笑みは若作りで、白粉の匂いが鼻を刺激する。
「まあ、オデット様。お会いできて嬉しゅうございますわ」
そう言って優雅に立ち上がり、オデットの両手を取る。その仕草こそ丁寧だが、どこか上から目線の態度は隠せない。
「フロレンティーヌ公爵夫人、本日はわざわざお越しいただきありがとうございます。わたくしにご用件とは、いかがいたしましたか?」
オデットも微笑みをたたえながら応じる。だが、ルイーゼの口元には、見え透いた敵意というか、挑発的なものが見え隠れしているように感じた。
ルイーゼはソファに再び腰を下ろし、テーブルの上に置かれたティーカップを手に取った。
「実は、今度の舞踏会のことについてご相談があって参りましたの。王太子殿下主催で、宮廷の内外を問わず多くの貴族が出席される大きな催しになるそうですわね。オデット様が準備の中心を担われるとお聞きしまして……」
言いながら、目を細めてオデットを観察する。
「王太子妃になる方が直接ご準備されるなんて、わたくし、心から感心しておりますの。とても大変そうですものねえ?」
オデットは笑みを崩さず、「ありがとうございます。やりがいを感じておりますわ」と答える。
すると、ルイーゼはわざとらしくため息をつく。
「とはいえ、何もかもオデット様お一人でお引き受けになるのは、荷が重すぎやしません? まだ若いお嬢様ですもの。もし万が一、ご準備に不手際があったら、王太子妃候補としての面目丸つぶれ、なんてことになるかもしれませんわよ」
その物言いは、明らかにオデットを脅すかのような響きがある。
「ええ。ですから、当日は皆様のお力添えをいただきたく思っておりますわ。慣れない立場ゆえ、助けていただくこともあるかと」
オデットが柔らかな声で返すと、ルイーゼは面白くなさそうに鼻を鳴らす。どうやらもっと動揺させたかったらしい。
「まあまあ、オデット様はお優しいのね。……ところで、殿下のお相手でいらっしゃるミレイユ様の件、ご存じかしら?」
唐突にミレイユの名前が出た。その意図を問いただす前に、ルイーゼは続ける。
「殿下は、ミレイユ様も舞踏会に同席させるおつもりのようですわ。さすがに表立って“愛人”として紹介するわけにはいかないでしょうけれど、私たちの間ではもう彼女の存在は周知の事実。……オデット様、もし殿下とミレイユ様が仲睦まじくしていても、どうか大目に見て差し上げてね」
あまりに図々しい物言いに、オデットの胸は静かに煮え立つ。だが、それを顔には出さない。
「そうですか。私には関わりのないことですわ。殿下の行動に口出しできる立場ではございませんし」
そう言いつつも、オデットは内心で叫び出したい気分だった。まさか、この公爵夫人は、わざわざオデットをおとしめるためにやってきたのだろうか。
「まあ、そう仰らずに。オデット様は、これから王太子妃になられる方。もう少し“王太子殿下を手綱で操る”くらいの気概があってもよろしいのではなくて? ……といっても、実際にはそうもいかないのでしょうけれど」
ルイーゼは意味深に微笑みながら、ティーをすすった。まるで王太子から何かを聞いているかのような口ぶりだ。
「……もしや、公爵夫人は殿下から何か特別なお話を伺っていらっしゃるのですか?」
オデットが静かに問い返すと、ルイーゼはわざと大げさに首を振る。
「あらあら、恐ろしいわ。そんなことありませんわよ。ただ、周りを見ればわかるじゃありませんか。王太子殿下とミレイユ様が、公の場でも隠そうともせずにご一緒にいらっしゃる。その姿を見れば、たとえ形式的に結婚されようと、オデット様はあまりにお可哀想だわ、と思うだけですの」
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