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第4章:ざまあ――屈辱と決別する花嫁
3.決断――王宮を捨てるとき
しおりを挟む3.決断――王宮を捨てるとき
書斎からの帰り道、オデットの足取りは驚くほど軽かった。もちろん心は鉛のように重い。これから押し付けられた無理難題について考えれば、暗澹たる気持ちになる。しかし、どこかで「これが限界だ」という思いがはっきりと形になったことで、吹っ切れた部分もあるのだ。
(あの人は、私を道具か何かだと思っている。――いいわ、もう十分。ブランシュフォール家への影響も覚悟したうえで、私はこの国を出る準備を進めよう)
あの書簡は、レオポルド王子からの誠意に満ちていた。ブランシュフォール家が希望すれば、一緒に移住する支援をするとも書かれている。
ただ、現実問題として父や一族すべてが“隣国へ”というわけにはいかないかもしれない。父は侯爵としての責務があるし、急激な動きは王太子の疑念を招くだろう。
(でも、もし私一人だけでも先に逃れられれば、アルベールからの圧力を回避できる。それに、いずれ父も安全を確保したうえで動けるようになるかもしれない。そう考えるしかないわ)
オデットは自室に戻るなり、机に向かって急ぎ手紙を書き始めた。宛先はアルヴェール王国のレオポルド王子。――この国を出る意思があること、ただ時期は慎重に選ばねばならないこと、そしてもし可能ならば“ひそかに入国できるルート”を用意してほしいという内容を、丁寧な言葉で綴る。
(本当にこれが正しい決断かどうか、わからない。でも、私はこのまま王太子妃として生きる道が正解とは思えない)
震える手を必死に抑えながら書簡を仕上げ、厳重に封をした。王宮の一般の郵便ルートは使えない。誰に見られるかわからないからだ。
そこで、オデットが頼りにしたのは、自分の侍女の一人――実家から帯同している、信頼できる娘だった。彼女はブランシュフォール家の屋敷とも内通があり、秘密裏に使者をやり取りすることができる。
「これを、絶対に誰にも見られないように、ブランシュフォール邸へ持ち帰って。父に頼んで、信頼できる商人経由で隣国へ送ってもらいたいの。……私があなたを巻き込むのは心苦しいけど、お願いできますか」
オデットの必死の訴えに、侍女は少し怯えたような表情を見せたが、すぐにかぶりを振って答えた。
「わかりました、オデット様。私はあなたのためなら、どんな危険を冒しても構いません。ずっとお仕えしていて、あなたがどれほど苦しんでいるか見てきたから……何とか力になりたいんです」
その言葉に、オデットは胸が締めつけられそうになる。
「ありがとう。……あなたの忠誠心と優しさに感謝します。気をつけて、絶対に怪しまれないようにしてちょうだい」
侍女は深く頭を下げ、書簡をそっと懐に忍ばせて部屋を出ていった。
(どうか無事に届きますように。そして、レオポルド殿下が力を貸してくださるように……)
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