王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました

鍛高譚

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第5章:報いの時 ―ザマアは静かに微笑んで―

第4節:去る者と残されし者の結末

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第4節:去る者と残されし者の結末

 王国の議場にて、重く、冷たい宣言が下されたのは、春を告げる花が開き始めたある日のことだった。

「王太子アルベール殿下は、その資質並びに近年の言動に鑑み、王太子位を正式に剥奪するものとする」

 その言葉が読み上げられた瞬間、玉座の間にいた高官たちは誰も声を発しなかった。
 誰一人として抗議する者はおらず、むしろ、安堵の吐息がそこかしこで漏れるほどだった。

 王太子アルベール。
 かつては“聡明”と称され、未来の王とまで期待された男が、今は国の重石として扱われていた。

「……ふざけるな……!」

 その決定を聞かされた直後、アルベールは書類を叩きつけ、机の上の文具をなぎ倒した。

「どうしてだ! 俺は王家の血を引く唯一の継承者だぞ! 誰が、こんな決定を……!」

「陛下の御決断です」

 静かに答えたのは、彼の長年の侍従であった老臣だった。
 その声音には、情も憐れみもなかった。

「もはや、貴殿の立場を守ろうとする者はおりませぬ。ミレイユ様の行いも……数々の証言と文書が集まりました。政敵を誹謗し、女官に圧力をかけ、私的に国費を流用した疑いまで浮上しております」

 アルベールの顔から血の気が引いた。

「……そんな……。俺たちは……ただ、愛し合っていただけなのに……」

 その哀れな呟きに、侍従は微かに目を伏せた。

「愛を盾に、正妃を傷つけ、国政を乱し、民心を失ったのです。もはや言い訳の余地はございません」

 そして、その日のうちに、王太子アルベールとその“愛人”ミレイユは、王宮の離宮へと移送された。
 表向きは“静養のため”という名目であったが、実質的な幽閉であり、二度と政務に関わることはなかった。

 ミレイユは移送の馬車の中で泣き叫んだ。

「私は……私は、王妃になるために全てを捨てたのよ! どうして、こんな仕打ちを受けなきゃいけないのよ!」

「……俺だって、オデットを失うなんて……思ってなかった」

 アルベールの呟きに、ミレイユは爛々と目を光らせた。

「オデット、オデットって……! 今さら後悔したって遅いのよ! あなたが選んだのは私でしょ!? あなたが“愛してる”って言ったから、私は……!」

 だが、その叫びはただ虚空へと吸い込まれていった。

 ──そのころ、隣国アルヴェール。

 柔らかな陽光が降り注ぐ宮殿の庭園で、オデットは静かに紅茶を口に運んでいた。
 隣には、レオポルド殿下の姿がある。

「……王太子廃嫡の報せが入ったよ。君の父上からも、詳細が届いている」

「……そうですか」

 オデットは微笑みながら頷いたが、その表情に喜びの色はなかった。

「私は、もうあの国に何の未練もありません。ただ……」

「ただ?」

「誰かが正しいと信じた道を踏みにじることが、どれほど重い結果を招くのか――それを知る者が、ひとりでも増えたなら」

 それでいい、と彼女は目を細めた。

「君は強いな。恨みの言葉を口にすることなく、相手を裁かずに“自分の道”を歩こうとする。……誇らしいよ」

 レオポルドは彼女の手にそっと触れた。
 その温もりが、かつての冷え切った日々を、まるで夢のように感じさせた。

「この国では、誰も君を“飾り”だなんて思わない。
君がここにいるだけで、皆が背筋を伸ばすんだ」

「……うふふ、それはちょっと、プレッシャーですね」

 オデットが笑うと、風が彼女の髪をやさしく揺らした。

 あの王宮では得られなかったもの。
 尊重され、愛され、信頼されること――それを今、ようやく手に入れた。

 そして、去った者たちは、閉ざされた離宮の中で、誰にも知られず、誰にも語られず、静かに朽ちていくのだった。

 それが、静かなる「ざまぁ」の結末。
 裁きの言葉など要らない。
 真実という光の下では、嘘も虚栄も、すべてが崩れていくのだから――。


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