『無彩の婚礼に、絵筆で抗います ―伯爵令嬢カリナの色彩革命―』

鍛高譚

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第13話 裏庭に咲いた、ささやかな味方

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 婚礼の準備と、ステラリア家のギャラリー計画。

 二つの大きな行事が同時進行しているせいで、屋敷の空気は日を追うごとにせわしなくなっていった。

 伯爵ハロルドは、画商や出資者との交渉を立て続けにこなし、廊下を早足で行き来しては、「名家ステラリアの復興」をあらゆる形で周囲に見せつけようと必死になっている。

 カリナ・ステラリアもまた、その渦中に組み込まれていた。

 父の命令で来客をもてなし、遠方から訪れる貴族たちに挨拶し、笑顔で言葉を交わす。
 形式どおりの会話を繰り返すたび、胸の奥にひっそり沈む疑問は、消えるどころか濃くなっていった。

 

 ――本当に、このまま婚礼を迎えてしまっていいのだろうか。

 

 エドリック・ヴェイル。

 彼と顔を合わせるたび、交わされるのは冷たい言葉ばかりだ。

 婚礼パーティが開かれたあの日から、すでにいくつもの月日が過ぎているというのに、エドリックは一向に「夫」としての情を見せる気配がない。

 ステラリア家に足を運ぶのは、彼にとって“義務”に駆られたときだけ。

 その場で容赦なく侮蔑の言葉を浴びせてきたり、愛人を平然と伴って現れたりする。
 彼の隣で、饒舌に笑う見目麗しい女たちの姿が、どれほどカリナの胸を冷やしているかなど、知ろうともしない。

 

「どうして私が……こんな相手と一生をともにしなければならないの」

 

 夜、ベッドに身を横たえたカリナは、ひとり声にならないため息を漏らすことが増えていた。

 早く式を挙げて、さっさとヴェイル公爵家に嫁いでしまえば、諦めもつくのかもしれない。
 けれど、ヴェイル家での生活を思い浮かべると、そこに広がるのは、さらなる侮蔑と無視、そして愛人の影が常に視界の端にちらつく日々――。

 想像しただけで、胸の奥が冷たく締め付けられる。

 

 それでも、その暗い影と同じ場所に、確かな光も育ちはじめていた。

 リース・アルファードが進めているギャラリー企画。

 伯爵にとっては、社交界に「ステラリアの名家ぶり」を誇示するための道具にすぎないのだろう。

 けれどカリナにとって、それはまったく違う意味を持っていた。

 ――自分の絵を、公の場に飾れるかもしれない。

 夜明けの花を描いたキャンバスは、少しずつ完成へと近づいている。
 さらにカリナは、蔦や石壁、空の表情など、新たなモチーフにも手を伸ばし始めていた。

 絵筆を握り、色を重ねるたびに感じる「生きている」という手ごたえ。

 それこそが、結婚という牢獄を目の前にしても、自分を見失わずにいられる、唯一の支えだった。

 

 そんなある朝のことだった。

 カリナは、いつもより少し早く目を覚ました。

 まだ空気には夜の冷たさが残っている。
 窓の外には薄曇りの空が広がり、近づく秋の気配が肌をひんやりと撫でていった。

(……結婚前の、最後の季節になるのかもしれないわね)

 そう思うと、自然と心の奥に物悲しさがこみ上げる。

 だが、そこで立ち止まってはいられない。

「今、できることを、少しでも増やしておかなくちゃ」

 自分にそう言い聞かせるように呟き、身支度を整えると、カリナは屋敷の庭へと足を運んだ。

 

 向かった先は、ふだんはほとんど誰も近づかない「裏庭」だった。

 使用人たちが行き来する通用路の近くに、小さな庭がある。

 表側の庭園と違い、手入れは行き届いていない。
 雑草は伸び放題で、古い石壁には蔦が絡みつき、ところどころが崩れかけている。

 けれど、そのぶん建物の影に隠れて死角が多く、視線も届きにくい。

(ここなら……少しぐらいスケッチしていても、気づかれにくいわよね)

 カリナは、胸元に抱えていた小さなカバンを静かに開き、中からスケッチブックと鉛筆を取り出す。

 木陰に腰を下ろし、膝の上にスケッチブックを置くと、目の前の景色をじっと見つめた。

 

 蔦に覆われた古い石壁。

 朝の淡い光に照らされた葉は、まだ夏の濃い緑を残しながらも、ところどころに黄色がにじみ始めていて、そのかすかな変化が、季節の移ろいを告げている。

 カリナはそっと鉛筆を走らせた。

 葉の輪郭を取り、葉脈の筋を追い、石壁のざらりとした質感を、線で拾っていく。

 集中すればするほど、さっきまで胸を占めていた不安や閉塞感は、少しずつ遠のいていくようだった。

(……やっぱり、描いているときが一番、楽に息ができる)

 無心になって線を重ねる時間だけは、自分の中のどす黒い感情が、静かにろ過されていくような気がする。

 

 どれくらい時間が経ったころだろう。

 ふと、遠くから足音が近づいてくる気配を感じた。

(誰か来る……!)

 カリナは反射的にスケッチブックを閉じ、胸元に抱え込む。

 この場所を知っている使用人もいる。
 もし父の耳に入れば、「裏庭でこそこそ何をしていた」と問い詰められるのは目に見えている。

 息を詰めて身を固くした、その瞬間。

「……カリナ?」

 聞き覚えのある声が、そっと耳をかすめた。

「お母様?」

 思わず顔を上げる。

 そこに立っていたのは、ステラリア伯爵の妻であり、長らくこの家を支えてきた女性――カリナの母だった。

 

 母は、いつものように上品なドレスに身を包んでいたが、顔色は少し疲れて見えた。

 病弱というほどではない。
 けれど、伯爵の側で長く気を張り続けているせいか、人前に出るときには、いつもどこか影のようなものをまとっている。

 そんな彼女が、一人で、裏庭に。

 それは、ほとんど見たことのない光景だった。

「お母様……どうして、ここに?」

 戸惑い混じりに問いかけると、母は一歩近づき、少しだけ目を丸くした。

 けれど、すぐにふんわりと微笑む。

「たまには静かに庭を歩きたくてね。
 表の庭は、最近いつも誰かの視線がありますから」

 そう言うと、今度はカリナの手元へ視線を落とす。

「あなたこそ、こんな裏庭で……何をしているの?」

 

 カリナはとっさにスケッチブックを胸元に押し当てた。

 母は昔から伯爵の意向に逆らわない人だ。
 自分の夢を打ち明けたところで、理解してくれるとは限らない。

 それでも――

 先ほどの微笑みの柔らかさを思い出すと、完全に隠し続けることも、なぜだかできなかった。

「……私、絵を描いていたの」

 小さな声で打ち明ける。

「子どもの頃からずっと好きだったのに、婚約話が決まってからは、父様に“無駄なことをするな”って叱られてばかりで……
 本当は、やめたくなかったのに」

 言葉にしてしまった途端、胸の奥に溜まっていた悔しさが、じわりとこみ上げてくる。

 母は黙って耳を傾けると、そっと娘の手元へと視線を下ろした。

 スケッチブックの端にこびりついた鉛筆の粉。
 指先に残る絵具の跡。
 服の裾についた、ほんの小さな色のしみ。

 それらは、カリナがどれほど真剣に「描こうとしているか」を、静かに物語っていた。

 

「そう……あなたは、絵を描きたいのね」

 母の声は低く、しかしそこには一切の嘲りも否定もなかった。

 代わりに、どこか懐かしさと、遠い憧れのような響きが、ほんの少しだけ混ざっている気がして――カリナの胸がきゅっと痛む。

「お母様は……」

 気づいたときには、もう口が動いていた。

「お母様は、父様に従うしか、なかったの?
 自分のやりたいことは、本当に何もなかったの?」

 あまりにも踏み込みすぎた問いだと、自分でも分かっていた。

「ごめんなさい、今のは……」

 慌てて言葉を継ごうとしたとき、

「いいのよ」

 母は、驚くほど穏やかに笑った。

 それから、ゆっくりと首を横に振る。

「私の時代には、選択肢なんて、ほとんどなかったわ」

 どこか遠くを見つめるように、静かに語り始める。

「伯爵家に嫁ぐことも、華やかな場で“理想の夫婦”を演じることも、“奥方”として恥じぬように振る舞うことも……
 全部、当然の運命だと教えられて育ってきたの。疑う余地なんて、最初からなかった」

 その言葉には、淡い諦めの色が滲んでいた。

 けれど同時に、そこには確かな強さも宿っていた。

 

「でもね、カリナ」

 母はもう一度、娘を見つめる。

「あなたは、私よりずっと強い子だと思うのよ」

「……え?」

「だって、こうしてスケッチブックを抱えているでしょう?」

 母は、カリナの胸元にあるスケッチブックをそっと指し示した。

「叱られても、やめなさいと言われても、それでもまだ手放していない。
 それは、“本当に大切なもの”を知っているということよ」

 柔らかな笑みを浮かべながら、静かに続ける。

「だから――描きたいなら、描いてもいいんじゃないかしら」

 

 あまりにもさりげなく告げられた一言が、カリナの耳には、驚くほど大きく響いた。

「お母様……?」

 思わず、声が震える。

「ありがとう……でも、お母様がこうして許してくださっても、父様やエドリック様はきっと……」

 弱々しく続けた言葉を、母はそっと遮った。

「この世には、“許される選択”もあれば、“許されない選択”もあるわ」

 抱きしめるような声音だった。

「けれどね、あなたがどうしても手放せないものがあるなら――諦めないで」

 その瞳には、どこか祈るような光が宿っていた。

「私が言えるのは、それだけ」

 そう言うと、母は小さく息を吐き、玄関の方角へ視線を向ける。

「あなたが戻るときのために、玄関のほうを見ておくわね。
 誰かが探していたら、“私と散歩していた”と言えばいいでしょう?」

 まるで、少しでもカリナに「描く時間」を与えようとしているかのような言葉だった。

 

「……お母様」

 名を呼んだときには、母の背中はもう屋敷の方へと向かっていた。

 背筋をまっすぐ伸ばしたまま、静かに歩いていく後ろ姿。

 カリナは、その細い背中を見送りながら、胸の奥にじんわりと広がる感謝と切なさを、どうしようもなく噛みしめていた。

 

 人気のない裏庭の一角にひとり残されて、カリナは、もう一度スケッチブックを開く。

 今度は、蔦の葉だけでなく、その向こうにわずかに覗く空の色も紙の上に映し取ろうとした。

 曇りがちな空。
 けれど、雲の切れ間からこぼれる光が、ほんのりと石壁の一部を照らしている。

 そこには、「結婚」も「家名」も「義務」もない。

 ただ、静かに息づく自然の美しさだけがあった。

 

 ――母もまた、かつては何かを夢見たのかもしれない。

 伯爵の妻として生きるうちに、その夢をどこかに置いてきてしまったのかもしれない。

 だからこそ、最後に「あなたは諦めないで」と言ってくれたのだろう。

 ページに線を重ねながら、カリナはそっと目を細める。

(お母様のためにも……私が、この壁を壊してみせる)

 ステラリア家という、見えない石壁。
 その向こう側にあるはずの、自分だけの世界。

 

 婚礼の日が近づくほどに、カリナの決意は、むしろ固くなっていった。

 エドリックから向けられる冷淡さも。
 父ハロルドが求める「名家の体裁」も。

 いつか必ず、乗り越えなければならない。

 そうしなければ、彼女は“本当に大切なもの”を失ったまま、形だけの結婚に縛られてしまう。

 

(私は、自分の手で色彩を取り戻す)

(この婚礼がどれほど“無彩”でも――いつか必ず、色を灯してみせる)

 

 その意志こそが、カリナにとっての「新たな旅立ち」の合図だった。

 結婚式は、彼女の望む形ではないかもしれない。
 ヴェイル公爵家での生活も、想像するだけで閉塞感に満ちている。

 それでも、今のカリナには――

 自分の意志で筆を握り、
 自分の目で世界を見つめ、
 そして描きとめる力が残っている。

 家の伝統も、夫となるはずの男の冷酷さも、どうやって乗り越えるのか。
 その手段を模索しながら、彼女は一歩ずつ、確かに歩み始めていた。

 

 ふと、空を見上げる。

 厚い雲の切れ間から、一筋の光が差し込んでいた。

 曇天の下でも、雲の隙間さえあれば、光は必ず地上へ届く。

(私の未来も、きっと同じ)

 カリナはそう信じながら、鉛筆を走らせる。

 自分の手で描き続ける“色彩の未来”は、今まさに幕を開けようとしている。

 もし、自ら立ち上がり、選び取る勇気を持てるなら――。

 世界は、必ず変えられる。

 そう確信できるほどの強さが、彼女の胸には、もう確かに満ち始めていたのだった。
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