14 / 17
第13話 裏庭に咲いた、ささやかな味方
しおりを挟む婚礼の準備と、ステラリア家のギャラリー計画。
二つの大きな行事が同時進行しているせいで、屋敷の空気は日を追うごとにせわしなくなっていった。
伯爵ハロルドは、画商や出資者との交渉を立て続けにこなし、廊下を早足で行き来しては、「名家ステラリアの復興」をあらゆる形で周囲に見せつけようと必死になっている。
カリナ・ステラリアもまた、その渦中に組み込まれていた。
父の命令で来客をもてなし、遠方から訪れる貴族たちに挨拶し、笑顔で言葉を交わす。
形式どおりの会話を繰り返すたび、胸の奥にひっそり沈む疑問は、消えるどころか濃くなっていった。
――本当に、このまま婚礼を迎えてしまっていいのだろうか。
エドリック・ヴェイル。
彼と顔を合わせるたび、交わされるのは冷たい言葉ばかりだ。
婚礼パーティが開かれたあの日から、すでにいくつもの月日が過ぎているというのに、エドリックは一向に「夫」としての情を見せる気配がない。
ステラリア家に足を運ぶのは、彼にとって“義務”に駆られたときだけ。
その場で容赦なく侮蔑の言葉を浴びせてきたり、愛人を平然と伴って現れたりする。
彼の隣で、饒舌に笑う見目麗しい女たちの姿が、どれほどカリナの胸を冷やしているかなど、知ろうともしない。
「どうして私が……こんな相手と一生をともにしなければならないの」
夜、ベッドに身を横たえたカリナは、ひとり声にならないため息を漏らすことが増えていた。
早く式を挙げて、さっさとヴェイル公爵家に嫁いでしまえば、諦めもつくのかもしれない。
けれど、ヴェイル家での生活を思い浮かべると、そこに広がるのは、さらなる侮蔑と無視、そして愛人の影が常に視界の端にちらつく日々――。
想像しただけで、胸の奥が冷たく締め付けられる。
それでも、その暗い影と同じ場所に、確かな光も育ちはじめていた。
リース・アルファードが進めているギャラリー企画。
伯爵にとっては、社交界に「ステラリアの名家ぶり」を誇示するための道具にすぎないのだろう。
けれどカリナにとって、それはまったく違う意味を持っていた。
――自分の絵を、公の場に飾れるかもしれない。
夜明けの花を描いたキャンバスは、少しずつ完成へと近づいている。
さらにカリナは、蔦や石壁、空の表情など、新たなモチーフにも手を伸ばし始めていた。
絵筆を握り、色を重ねるたびに感じる「生きている」という手ごたえ。
それこそが、結婚という牢獄を目の前にしても、自分を見失わずにいられる、唯一の支えだった。
そんなある朝のことだった。
カリナは、いつもより少し早く目を覚ました。
まだ空気には夜の冷たさが残っている。
窓の外には薄曇りの空が広がり、近づく秋の気配が肌をひんやりと撫でていった。
(……結婚前の、最後の季節になるのかもしれないわね)
そう思うと、自然と心の奥に物悲しさがこみ上げる。
だが、そこで立ち止まってはいられない。
「今、できることを、少しでも増やしておかなくちゃ」
自分にそう言い聞かせるように呟き、身支度を整えると、カリナは屋敷の庭へと足を運んだ。
向かった先は、ふだんはほとんど誰も近づかない「裏庭」だった。
使用人たちが行き来する通用路の近くに、小さな庭がある。
表側の庭園と違い、手入れは行き届いていない。
雑草は伸び放題で、古い石壁には蔦が絡みつき、ところどころが崩れかけている。
けれど、そのぶん建物の影に隠れて死角が多く、視線も届きにくい。
(ここなら……少しぐらいスケッチしていても、気づかれにくいわよね)
カリナは、胸元に抱えていた小さなカバンを静かに開き、中からスケッチブックと鉛筆を取り出す。
木陰に腰を下ろし、膝の上にスケッチブックを置くと、目の前の景色をじっと見つめた。
蔦に覆われた古い石壁。
朝の淡い光に照らされた葉は、まだ夏の濃い緑を残しながらも、ところどころに黄色がにじみ始めていて、そのかすかな変化が、季節の移ろいを告げている。
カリナはそっと鉛筆を走らせた。
葉の輪郭を取り、葉脈の筋を追い、石壁のざらりとした質感を、線で拾っていく。
集中すればするほど、さっきまで胸を占めていた不安や閉塞感は、少しずつ遠のいていくようだった。
(……やっぱり、描いているときが一番、楽に息ができる)
無心になって線を重ねる時間だけは、自分の中のどす黒い感情が、静かにろ過されていくような気がする。
どれくらい時間が経ったころだろう。
ふと、遠くから足音が近づいてくる気配を感じた。
(誰か来る……!)
カリナは反射的にスケッチブックを閉じ、胸元に抱え込む。
この場所を知っている使用人もいる。
もし父の耳に入れば、「裏庭でこそこそ何をしていた」と問い詰められるのは目に見えている。
息を詰めて身を固くした、その瞬間。
「……カリナ?」
聞き覚えのある声が、そっと耳をかすめた。
「お母様?」
思わず顔を上げる。
そこに立っていたのは、ステラリア伯爵の妻であり、長らくこの家を支えてきた女性――カリナの母だった。
母は、いつものように上品なドレスに身を包んでいたが、顔色は少し疲れて見えた。
病弱というほどではない。
けれど、伯爵の側で長く気を張り続けているせいか、人前に出るときには、いつもどこか影のようなものをまとっている。
そんな彼女が、一人で、裏庭に。
それは、ほとんど見たことのない光景だった。
「お母様……どうして、ここに?」
戸惑い混じりに問いかけると、母は一歩近づき、少しだけ目を丸くした。
けれど、すぐにふんわりと微笑む。
「たまには静かに庭を歩きたくてね。
表の庭は、最近いつも誰かの視線がありますから」
そう言うと、今度はカリナの手元へ視線を落とす。
「あなたこそ、こんな裏庭で……何をしているの?」
カリナはとっさにスケッチブックを胸元に押し当てた。
母は昔から伯爵の意向に逆らわない人だ。
自分の夢を打ち明けたところで、理解してくれるとは限らない。
それでも――
先ほどの微笑みの柔らかさを思い出すと、完全に隠し続けることも、なぜだかできなかった。
「……私、絵を描いていたの」
小さな声で打ち明ける。
「子どもの頃からずっと好きだったのに、婚約話が決まってからは、父様に“無駄なことをするな”って叱られてばかりで……
本当は、やめたくなかったのに」
言葉にしてしまった途端、胸の奥に溜まっていた悔しさが、じわりとこみ上げてくる。
母は黙って耳を傾けると、そっと娘の手元へと視線を下ろした。
スケッチブックの端にこびりついた鉛筆の粉。
指先に残る絵具の跡。
服の裾についた、ほんの小さな色のしみ。
それらは、カリナがどれほど真剣に「描こうとしているか」を、静かに物語っていた。
「そう……あなたは、絵を描きたいのね」
母の声は低く、しかしそこには一切の嘲りも否定もなかった。
代わりに、どこか懐かしさと、遠い憧れのような響きが、ほんの少しだけ混ざっている気がして――カリナの胸がきゅっと痛む。
「お母様は……」
気づいたときには、もう口が動いていた。
「お母様は、父様に従うしか、なかったの?
自分のやりたいことは、本当に何もなかったの?」
あまりにも踏み込みすぎた問いだと、自分でも分かっていた。
「ごめんなさい、今のは……」
慌てて言葉を継ごうとしたとき、
「いいのよ」
母は、驚くほど穏やかに笑った。
それから、ゆっくりと首を横に振る。
「私の時代には、選択肢なんて、ほとんどなかったわ」
どこか遠くを見つめるように、静かに語り始める。
「伯爵家に嫁ぐことも、華やかな場で“理想の夫婦”を演じることも、“奥方”として恥じぬように振る舞うことも……
全部、当然の運命だと教えられて育ってきたの。疑う余地なんて、最初からなかった」
その言葉には、淡い諦めの色が滲んでいた。
けれど同時に、そこには確かな強さも宿っていた。
「でもね、カリナ」
母はもう一度、娘を見つめる。
「あなたは、私よりずっと強い子だと思うのよ」
「……え?」
「だって、こうしてスケッチブックを抱えているでしょう?」
母は、カリナの胸元にあるスケッチブックをそっと指し示した。
「叱られても、やめなさいと言われても、それでもまだ手放していない。
それは、“本当に大切なもの”を知っているということよ」
柔らかな笑みを浮かべながら、静かに続ける。
「だから――描きたいなら、描いてもいいんじゃないかしら」
あまりにもさりげなく告げられた一言が、カリナの耳には、驚くほど大きく響いた。
「お母様……?」
思わず、声が震える。
「ありがとう……でも、お母様がこうして許してくださっても、父様やエドリック様はきっと……」
弱々しく続けた言葉を、母はそっと遮った。
「この世には、“許される選択”もあれば、“許されない選択”もあるわ」
抱きしめるような声音だった。
「けれどね、あなたがどうしても手放せないものがあるなら――諦めないで」
その瞳には、どこか祈るような光が宿っていた。
「私が言えるのは、それだけ」
そう言うと、母は小さく息を吐き、玄関の方角へ視線を向ける。
「あなたが戻るときのために、玄関のほうを見ておくわね。
誰かが探していたら、“私と散歩していた”と言えばいいでしょう?」
まるで、少しでもカリナに「描く時間」を与えようとしているかのような言葉だった。
「……お母様」
名を呼んだときには、母の背中はもう屋敷の方へと向かっていた。
背筋をまっすぐ伸ばしたまま、静かに歩いていく後ろ姿。
カリナは、その細い背中を見送りながら、胸の奥にじんわりと広がる感謝と切なさを、どうしようもなく噛みしめていた。
人気のない裏庭の一角にひとり残されて、カリナは、もう一度スケッチブックを開く。
今度は、蔦の葉だけでなく、その向こうにわずかに覗く空の色も紙の上に映し取ろうとした。
曇りがちな空。
けれど、雲の切れ間からこぼれる光が、ほんのりと石壁の一部を照らしている。
そこには、「結婚」も「家名」も「義務」もない。
ただ、静かに息づく自然の美しさだけがあった。
――母もまた、かつては何かを夢見たのかもしれない。
伯爵の妻として生きるうちに、その夢をどこかに置いてきてしまったのかもしれない。
だからこそ、最後に「あなたは諦めないで」と言ってくれたのだろう。
ページに線を重ねながら、カリナはそっと目を細める。
(お母様のためにも……私が、この壁を壊してみせる)
ステラリア家という、見えない石壁。
その向こう側にあるはずの、自分だけの世界。
婚礼の日が近づくほどに、カリナの決意は、むしろ固くなっていった。
エドリックから向けられる冷淡さも。
父ハロルドが求める「名家の体裁」も。
いつか必ず、乗り越えなければならない。
そうしなければ、彼女は“本当に大切なもの”を失ったまま、形だけの結婚に縛られてしまう。
(私は、自分の手で色彩を取り戻す)
(この婚礼がどれほど“無彩”でも――いつか必ず、色を灯してみせる)
その意志こそが、カリナにとっての「新たな旅立ち」の合図だった。
結婚式は、彼女の望む形ではないかもしれない。
ヴェイル公爵家での生活も、想像するだけで閉塞感に満ちている。
それでも、今のカリナには――
自分の意志で筆を握り、
自分の目で世界を見つめ、
そして描きとめる力が残っている。
家の伝統も、夫となるはずの男の冷酷さも、どうやって乗り越えるのか。
その手段を模索しながら、彼女は一歩ずつ、確かに歩み始めていた。
ふと、空を見上げる。
厚い雲の切れ間から、一筋の光が差し込んでいた。
曇天の下でも、雲の隙間さえあれば、光は必ず地上へ届く。
(私の未来も、きっと同じ)
カリナはそう信じながら、鉛筆を走らせる。
自分の手で描き続ける“色彩の未来”は、今まさに幕を開けようとしている。
もし、自ら立ち上がり、選び取る勇気を持てるなら――。
世界は、必ず変えられる。
そう確信できるほどの強さが、彼女の胸には、もう確かに満ち始めていたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる