婚約破棄されたので辺境でスローライフします……のはずが、氷の公爵様の溺愛が止まりません！』

第1話 「婚約破棄の瞬間、私の未来はバラ色になった」

第1話　「婚約破棄の瞬間、私の未来はバラ色になった」


王城の大広間。
煌びやかなシャンデリアの下で、私はひとり正座させられていた。

「エリシア・フェルメール。君との婚約を破棄する！！」

第二王子ラルフ殿下が、まるで劇でも演じているかのように高らかに宣言する。

……はい出た。

この人、昔から“大声を出せば勝てる”と思っている残念王子である。

「理由を聞いてもよろしいですか、殿下」

私は微笑んだ。声も穏やかに、礼儀正しく。

すると殿下は鼻を鳴らし、

「君は――完璧すぎる！
礼儀、学問、魔法、戦闘、全部できる。可愛げがない！」

……は？

大広間の空気が凍る。

可愛げがない？

それは褒め言葉では？

姉妹都市の代表が私に教えてくれた言葉を思い出す。

“可愛げがないと言われたら、それは相手の器が小さい証拠よ”

まさにその通りであった。

「エリシア。これ以上君と婚約を続けるのは苦痛だ！
これからは、平凡で控えめで、僕を立ててくれる女性を選ぶ！」

（うんうん、頑張って探してくださいませ）

私は内心で拍手した。
だってこれ、自由になれるのでは？

しかし貴族として形式はある。

「……承知いたしました。では本日をもって婚約は白紙に」

「よし！では今すぐ城を――」

「退場しますわね」

殿下より早く言い切った。

周囲がざわつく。

（これで……やっと……！）

私の心の中では花火が打ち上がっていた。

＊＊＊

屋敷に戻ると、侍女のミナが飛びついてくる。

「お嬢様！婚約破棄されたって本当ですか！？わたくし、嬉しくて！」

「ええ、ついに自由を手にしましたわ」

「では、あの悲願の――」

「昼まで寝る生活、再開ですわ！」

ミナと私は両手を取り合って回りながら喜んだ。

そう、私の夢はただひとつ。
だれにも邪魔されず静かに暮らし、お昼まで寝ること。

王城の行事、勉強会、社交界……全部私の睡眠を奪っていた。

もう二度とあの地獄には戻らない。

しかし父は深いため息をついた。

「エリシア、お前を王都に残すわけにはいかん。……辺境へ行ってはどうだ？」

「辺境……？」

「“氷霧の領地”だ。冬は氷獄と化すが、人は少ない。お前なら好きに過ごせるだろう」

最高では？

人がいない＝朝から晩まで寝ても誰も咎めない。

「ぜひ行きます！」

父が驚愕した。

＊＊＊

そして三日後。

私は荷物をまとめ、馬車に乗り込んでいた。

ミナが涙ぐむ。

「お嬢様……本当に行ってしまうのですね……」

「ミナも一緒に来るのよ？」

「もちろんです！！」

馬車はゴトゴトと揺れ、王都を離れていく。

「お嬢様……噂によると、“氷の公爵”アークライト様は女性が苦手で、超絶無愛想で……」

「あら、最高では？　距離を置かれたほうが気楽ですわ」

「そ、そうでしょうか……」

窓から外を眺めながら、私は胸を張った。

（これで、最高のスローライフが始まるはず……！）

――しかし、このときの私は知らなかった。

この“氷の公爵”が、
実は 超絶不器用で、無表情なだけで、内面は犬系男子 だということを。

そして私は、
彼に一目惚れされる未来が待っているということも……。


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