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第15話 「白い結婚のはずが…なぜ私、旦那様と“夫婦ケンカ”してるの?」
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第15話 「白い結婚のはずが…なぜ私、旦那様と“夫婦ケンカ”してるの?」
---
朝の光が差し込む食堂で、私は焼きたてのキッシュを切り分けながら、
なんとなく視線を感じていた。
……見られている。
完全に見られている。
斜め前の席に座るクルト様が、
手を止めたまま、じっと私だけに視線を注いでいるのだ。
(な、なんですの……?)
視線を合わせると、彼は一言。
「……昨日、寝つきが悪かった」
「そ、そうですの? 大丈夫でした?」
「当たり前だ。原因は言うまでもない」
言うまでもない?
え、待って。こわい。なに?
「……カチュア」
「は、はい?」
「どうして昨日、私を置いてリリィと二人だけで街へ行った?」
(あ、嫉妬だこれ。)
リリィと“スイーツ新店めぐり”しただけなのに!
「だ、だって旦那様は仕事中でしたし……」
「呼べばいい」
「呼んだら……断ると思いまして……」
「断るわけがないだろう。妻と出かけると言われて断る夫がいるか?」
(いや昨日まで“白い結婚だから干渉しない”って顔してましたよね!?)
言い返したい。
けれど、クルト様はさらに続ける。
「……正直に言う。寂しかった」
「っ…………」
その言葉に、胸が跳ねた。
リリィが後ろで小声で「ひゃああっ……ッ!」と悶えている気配がする。
分かる。分かるけれども……落ち着いてほしい。
「でも、でも……私たちは白い結婚で……干渉しないと……!」
言い訳のように言うと、クルト様はテーブル越しに身を乗り出してきた。
低い声で。
「……カチュア。白い結婚は“君が望んだから”そうしただけだ」
「は、はい……?」
「私は、最初から……君を妻として大事にしたかった」
(あれ?)
(あれれれれれ!?)
「な、なんで……最初は距離を置いていたような……?」
「あれは“うっかり距離を詰めると君が逃げる”と思ったからだ」
(急に告白みたいな真実を落ち着いた声で語らないで……!)
「昨日、街で君が笑っているのを見た。……嫉妬した」
「えっ……えっ……」
「次、出かけるときは、私を最初に誘え」
「えええぇぇ!?!?」
そこへリリィが震える声で。
「ク……クルト様……独占欲丸出しです……最高です……!」
(リリィ、それは言わないで!)
「……嫌か?」
クルト様が少しだけ不安げに眉を下げる。
その表情が反則すぎる。
「いや、その……嫌では……ない……です……」
自分でも情けないくらい声が小さくなる。
クルト様の瞳が、ほんの少し柔らかくなった。
「では決まりだな。今度の休みは三人で出かけよう」
「さ、三人で?」
「……私は、夫婦で過ごす時間を増やしたい」
(はあああああああああ!!!)
内心悲鳴を上げていると、隣のリリィがニヤリとした。
「先生……じゃなくてカチュア様。
そろそろ“白い結婚ごっこ”やめてもよい頃では?」
「ご、ごっこではありません!!」
——その瞬間だった。
クルト様が、ふっと笑った。
いつもの無表情ではない、
柔らかくて微かに甘い、溶けるような笑顔。
「……そのうち、ごっこじゃなくなる」
「なっ……なにを……!」
「安心しろ。焦らない。ちゃんと、君が納得する形で進める」
その言葉に、胸がじんわり熱くなる。
でも。
でも。
私の理想は“干渉のない静かな生活”だったはずなのに——。
(なんで、こんなにドキドキしてるの……?)
クルト様がそっと椅子を引いて立ち上がり、私の頭を軽く撫でた。
「仕事に行く。……夕食は、君の好きなものを作っておこう」
「え……作ってくださるの……?」
「ああ。……妻の笑顔が見たい」
リリィがバタンと倒れた。
分かる。
分かりたくはないけれど、分かる。
私はただ、顔が熱くて仕方がなかった。
---
朝の光が差し込む食堂で、私は焼きたてのキッシュを切り分けながら、
なんとなく視線を感じていた。
……見られている。
完全に見られている。
斜め前の席に座るクルト様が、
手を止めたまま、じっと私だけに視線を注いでいるのだ。
(な、なんですの……?)
視線を合わせると、彼は一言。
「……昨日、寝つきが悪かった」
「そ、そうですの? 大丈夫でした?」
「当たり前だ。原因は言うまでもない」
言うまでもない?
え、待って。こわい。なに?
「……カチュア」
「は、はい?」
「どうして昨日、私を置いてリリィと二人だけで街へ行った?」
(あ、嫉妬だこれ。)
リリィと“スイーツ新店めぐり”しただけなのに!
「だ、だって旦那様は仕事中でしたし……」
「呼べばいい」
「呼んだら……断ると思いまして……」
「断るわけがないだろう。妻と出かけると言われて断る夫がいるか?」
(いや昨日まで“白い結婚だから干渉しない”って顔してましたよね!?)
言い返したい。
けれど、クルト様はさらに続ける。
「……正直に言う。寂しかった」
「っ…………」
その言葉に、胸が跳ねた。
リリィが後ろで小声で「ひゃああっ……ッ!」と悶えている気配がする。
分かる。分かるけれども……落ち着いてほしい。
「でも、でも……私たちは白い結婚で……干渉しないと……!」
言い訳のように言うと、クルト様はテーブル越しに身を乗り出してきた。
低い声で。
「……カチュア。白い結婚は“君が望んだから”そうしただけだ」
「は、はい……?」
「私は、最初から……君を妻として大事にしたかった」
(あれ?)
(あれれれれれ!?)
「な、なんで……最初は距離を置いていたような……?」
「あれは“うっかり距離を詰めると君が逃げる”と思ったからだ」
(急に告白みたいな真実を落ち着いた声で語らないで……!)
「昨日、街で君が笑っているのを見た。……嫉妬した」
「えっ……えっ……」
「次、出かけるときは、私を最初に誘え」
「えええぇぇ!?!?」
そこへリリィが震える声で。
「ク……クルト様……独占欲丸出しです……最高です……!」
(リリィ、それは言わないで!)
「……嫌か?」
クルト様が少しだけ不安げに眉を下げる。
その表情が反則すぎる。
「いや、その……嫌では……ない……です……」
自分でも情けないくらい声が小さくなる。
クルト様の瞳が、ほんの少し柔らかくなった。
「では決まりだな。今度の休みは三人で出かけよう」
「さ、三人で?」
「……私は、夫婦で過ごす時間を増やしたい」
(はあああああああああ!!!)
内心悲鳴を上げていると、隣のリリィがニヤリとした。
「先生……じゃなくてカチュア様。
そろそろ“白い結婚ごっこ”やめてもよい頃では?」
「ご、ごっこではありません!!」
——その瞬間だった。
クルト様が、ふっと笑った。
いつもの無表情ではない、
柔らかくて微かに甘い、溶けるような笑顔。
「……そのうち、ごっこじゃなくなる」
「なっ……なにを……!」
「安心しろ。焦らない。ちゃんと、君が納得する形で進める」
その言葉に、胸がじんわり熱くなる。
でも。
でも。
私の理想は“干渉のない静かな生活”だったはずなのに——。
(なんで、こんなにドキドキしてるの……?)
クルト様がそっと椅子を引いて立ち上がり、私の頭を軽く撫でた。
「仕事に行く。……夕食は、君の好きなものを作っておこう」
「え……作ってくださるの……?」
「ああ。……妻の笑顔が見たい」
リリィがバタンと倒れた。
分かる。
分かりたくはないけれど、分かる。
私はただ、顔が熱くて仕方がなかった。
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