婚約破棄されたので辺境でスローライフします……のはずが、氷の公爵様の溺愛が止まりません!』

鍛高譚

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第32話 **「アレクシスが本当の目的を明かす。 クルト様、カチュアを“離さない”と宣言する」**

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第32話

**「アレクシスが本当の目的を明かす。

クルト様、カチュアを“離さない”と宣言する」**


---

クルト様に手を引かれたまま部屋に戻ったあと――
私はしばらく胸の鼓動が落ち着かず、
ソファの端でそわそわしていた。

クルト様は私の前で立ち止まり、
深く息を吐いて私の方へ身体を向けた。

「……さっきの言葉。
俺は、一生忘れない」

「っ……」
(ま、まだ恥ずかしくて死にそうですわ……!)

けれど、クルト様はいつもの冷静さを取り戻しておらず、
どこか焦りの後が残っている表情だった。

「カチュア……」

「はい……」

「アレクシスは、お前を“揺さぶる”つもりだ」

「揺さぶる……?」
(意味深すぎますわ)

クルト様はわずかに眉を寄せた。

「アレクシスの本当の目的は……
俺ではなく、“お前の気持ち”だ」

「わ、わたし……?」

「お前が俺を選ぶのか、それとも……
“選ばない可能性”があるのか」

(……え……
そんなところまで見て……!?)

「アレクシスは昔から、
“完璧に見えるもののほころび”を探すのが得意だ。
そして……見つけた瞬間に付け込む」

ゾクリとした。

(それって……私の“恋心の曖昧さ”も……?)

「だから……
お前の言葉が、俺には救いだった」

(そ、そんな……!
わたしは、ただ……勇気を振り絞っただけで……!)

クルト様はゆっくり歩み寄り、
私の前で膝をついた。

そして、そっと手を伸ばし――
震える私の指先を、優しく包む。

「……カチュア」

「は、はい……」

「俺は、お前を絶対に離さない」

言葉があまりに真剣で、
胸がきゅうっと痛む。

「アレクシスが何と言おうと……
誰がどう揺さぶろうと……
俺は、お前を守り続ける」

「……っ……」

「だから……
怖い時は、俺に言ってくれ」

その瞳には迷いがなく、
ただひとつの真実だけが宿っていた。

(こんなふうに言われて……
心が動かないわけ、ありませんわ……)

私は胸の前で手を重ね、
ゆっくり頷いた。

「……はい……」

その瞬間、
クルト様の表情がふっと和らぎ、
少しだけ微笑んだ。

「……ありがとう」

だが――

その優しさは長く続かなかった。

部屋の扉がノックもなく開き、
空気が一変する。

「お邪魔だったかな?」

アレクシスだった。

ニコリと微笑んだその顔。
柔らかい雰囲気なのに、奥底は読めない。

「……ノックくらいしろ」
クルト様が苛立ちを隠さない。

「ごめんごめん。
クルトが“独占中”だとは知らなかったからね」

(わ、わたしを巻き込まないで欲しいんですけど!!)

アレクシスは私とクルト様の距離を見て、
意味深に目を細めた。

「確認したいことがあってね。
カチュア、少しいい?」

「だ、ダメですわ……!」
(無意識に否定してしまった)

アレクシスは軽く眉を上げる。

「理由を聞いてもいいかな?」

(ど、どうしよう……
言えませんわ!
“クルト様が気まずそうだから”なんて……!)

言いよどむ私を見て――
クルト様が先に口を開いた。

「カチュアと話すなら、俺の前で話せ」

「それじゃ意味がないよ」
アレクシスは首を振る。

「カチュア自身の“本心”が知りたいんだ。
君に遠慮して言えないこともあるだろう?」

(や、やめて……
それは図星ですわ……!!)

アレクシスはさらに続けた。

「……カチュアは、本当に君を選ぶのか?」

「――!」

クルト様の目が鋭くなる。

アレクシスは柔らかく笑いながらも、
その瞳は決して笑っていない。

「僕はね……
“幸せではない女の子”を見るのが何より嫌いなんだ」

「……!」

「誰かが無理をしている結婚なんて、
見ていられない」

その瞳が――
まっすぐ、私だけを見ていた。

「だから……知りたい。
君は本当に、クルトといて幸せ?」

(……っ!)

私は息を飲む。

クルト様の視線が私に刺さる。
アレクシスの視線も、まっすぐ注がれている。

どちらも、私の言葉を待っている。

胸が締め付けられる。

(どうしよう……どうすれば……
どちらの気持ちも傷つけたくない……!)

震える私の指先。

そのとき――
クルト様が静かに、
でも確かな声で言った。

「俺は……」

アレクシスの挑発を遮るように。

「――カチュアを、誰にも渡す気はない」

アレクシスの瞳がわずかに細くなった。

「……本気だね」

「当然だ」

その瞬間。

私の手を包んでいたクルト様の指に、
わずかな震えが走った。

(クルト様……
そんなに……そんなに揺れていたなんて……)

胸が痛い。

私のせいで、
二人が争っている。

私のせいで、
クルト様が不安になっている。

そして私は――
心の奥でようやく気づく。

(わたし……
クルト様を……もっと……)

胸の奥に、
はっきりした“答え”が灯り始めていた。


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