婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚

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6章

6-6

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 ソファに腰掛けたエドワルド王太子は、改めてシルフィーネの容姿を見つめていた。失礼にならない程度ではあるが、彼の瞳には隠しきれない興味と admiration(称賛)がある。



「公爵殿、夫人、そしてシルフィーネ令嬢。先の事件……グラント侯爵家の不正を暴き、国を救った働きには、私も深い敬意を抱いております。異国のことながら、その話はノルディア王宮にも届いておりました。令嬢の強さと聡明さに感銘を受け、ぜひお会いしたいと考えていたのです」



 言葉尻だけを取れば社交辞令のようにも聞こえるが、エドワルドの眼差しは真摯だった。そこに嘘や誇張は感じられない。ルドルフ公爵も胸を張りながら、「娘は立派に立ち回ったわけではありませんが……」と謙遜を交えて話す。



「閣下にそこまで言っていただくのは、娘としても光栄でしょう。しかし、娘はまだ怪我の後遺症もあり、本来の力を出し切れない状態です。どうかご理解いただきたい」



「ええ、もちろんです。私はただ、こうして直接お姿を拝見し、お話できるだけで充分。――実は、私自身、貴女の“勇気”というか、“強さ”に憧れていたんですよ」



 エドワルド王太子が穏やかな笑みを浮かべる。その笑顔は不思議と見る者を和ませ、嫌味を感じさせない。シルフィーネは一瞬、動揺を覚える。――自分のことを“勇気ある”とか“強さ”があるとか言われても、ピンとこないのだ。

 けれど、あの婚約破棄騒動やライオネルとの決闘(実際に剣を交わしたのは事実)を外側から見れば、確かに“大変な修羅場を乗り越えた公爵令嬢”と映るのだろう。



「そ、そうでしょうか……私は、自分が何をしたか、まだ整理もできていないんです。気づいたら、長い眠りについていて……」



「聞いております。大怪我を負われたとか。実際、その容態でよくぞご無事に戻られた。まさに奇跡だと思いますよ」



 エドワルドの口から“奇跡”という言葉が出ると、シルフィーネの胸は微妙に締めつけられた。――確かに、自分の生存は奇跡かもしれない。しかし、それは多くの苦しみや失った時間を伴っている。すべてを“奇跡”で片付けるのは酷かもしれないが、今は言うまい。



 その後、軽い雑談が続く中でエドワルド王太子は笑顔を絶やさず、シルフィーネに積極的に話を振ってくる。例えば、ノルディア王国の風景や気候、王城の様子などを興味深そうに語り、「いつか貴女に見せたい」とすら言ってのける。その言葉に、シルフィーネは少なからず胸が高鳴るのを感じる。――まだ初対面というのに、彼は明らかに“好意”を示しているのだ。



(これが、政略結婚の相手としてだけでなく、私自身を見てくれているということ……?)



 ライオネルの時は、最初こそ優しかったが、最終的には「子供っぽい」と突き放された。あの苦い記憶があるからこそ、エドワルド王太子の“溺愛”とも受け取れる言動には戸惑いと嬉しさが同時に押し寄せる。こんなにも率直に褒められ、優しく気遣われる経験は、これまでなかったからだ。



 しばらく会話を交わしたところで、ルドルフ公爵が「娘の体調もありますし、あまり長くは……」と遠慮気味に水を向ける。すると、エドワルドはすぐに理解を示し、「もちろん、今日は無理をさせるつもりはありません」と頷いた。



「とはいえ、私はしばらくこの国に滞在します。王宮での行事だけでなく、エルフィンベルク公爵家とも何度かお会いしたい。もし可能なら、シルフィーネ令嬢にも、無理のない範囲でいろいろとお話を……」



「ええ、喜んで。私も閣下のことをもっと知りたいです。……あの、私、あまり外出をしてこなかったので、よければノルディアの文化や風習など、いろいろ教えていただけませんか?」



 シルフィーネが勇気を出してそう口にすると、エドワルドは目を輝かせる。まるで「なんと嬉しい言葉だ」とでも言わんばかりに軽く身を乗り出し、柔らかな声で答えた。



「もちろん。私でよければ、いくらでも。……実は、こう見えて旅行好きなんですよ。ノルディア王国の各地を巡るのが好きで、この国にも興味があって……。だからこそ、エルフィンベルク令嬢のことを知った時、強く惹かれたのかもしれません」



 これを聞いたルドルフ公爵とマリア夫人は少し複雑な表情ながらも、王太子が娘に好感を持っているらしいことが分かって安心する。もしエドワルドが強引な人物なら、初対面の今日から婚約を押し付けるような態度を取るかもしれないが、彼はあくまで「令嬢の体調を尊重したい」と繰り返すだけ。そこに押し付けがましさは感じられない。



(この人なら……と、今はまだ断言できないけれど、少なくとも以前のような苦痛な“結婚”にはならなさそう)



 シルフィーネはほっと胸をなで下ろす。その一方で、エドワルドの振る舞いの端々から見え隠れする“積極的な好意”に、少し戸惑いがあった。政略結婚のはずが、彼自身が本気で惚れ込んでいるかのような雰囲気――これは本当に“溺愛”という展開に繋がるのだろうか。

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