婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚

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7章

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 夕方の茶会を終え、シルフィーネは帰りの馬車を待っていたが、エドワルド王太子が「よろしければ私の馬車で送らせていただきたい」と申し出てきた。最初は公爵家の侍女たちが戸惑い、シルフィーネ自身も「そんな、そこまでしていただくなんて……」と戸惑ったが、エドワルドは強い意志で「あなたの体を少しでも楽にしたい」と微笑む。



「大丈夫。護衛がついていますし、あなたの家の近くまで私が責任をもってお送りいたします。何かあれば、すぐに医師を手配することも可能ですしね」



 その言葉に、シルフィーネは心を揺さぶられる。確かに彼の用意した馬車は広くゆったりしていて、体への負担も少ないだろう。家までの道のり、彼ともう少し言葉を交わすチャンスでもある。



(政略結婚だというのに、こんな甘やかな雰囲気で進んでいいのかしら……)



 少しだけ自嘲しつつ、最終的には彼の提案を受け入れることにした。侍女は「お嬢様……くれぐれもお気をつけて」と不安そうに送り出すが、エドワルドは「そこはお任せを」と頼もしげに笑う。



 こうして、シルフィーネはエドワルドと同じ馬車に乗り込み、王宮を後にした。車内には二人きり――とはいえ、御者台や護衛はいるので完全に無防備というわけではないが、やはり空気が近く、独特の緊張感が漂う。



 走り出してしばらく、エドワルドは窓から外の景色を眺めていたが、やがて彼女に向き直り、静かに口を開く。



「こうして馬車を並んでいると、不思議な気分ですね。まるで恋人同士のような……いえ、失礼。まだそんな関係をお認めいただいたわけではないのに」



「い、いえ、そんな……」



 シルフィーネは思わずうろたえる。エドワルドは苦笑しつつも、どこか真剣さを失わない眼差しで続ける。



「私は、もしあなたが望むなら、もっとあなたを大切にしていきたい。王太子としての地位や責務はもちろんあるし、政略という側面も認めざるを得ない。でも、それとは別に、私はあなたを心から愛したいと思っている。――これって、わがままでしょうか」



 シルフィーネは胸がきゅっと締めつけられる感覚を覚える。政略結婚に“愛”を持ち込むなど、ある意味では理想論にすぎない。しかし、彼は本気でそれを望んでいるのだ。

 自分も、本当ならば“愛”に満ちた結婚をしたいと思っていた。ライオネルに裏切られた悲しみはまだ癒えてはいないが、こうして再び誰かを信じられる可能性を提示されると、不思議な安心感が生まれてくる。



 答えに窮したシルフィーネは、小声で「わがままだとは思いません……」とだけ返す。するとエドワルドは嬉しそうに微笑み、彼女の手にそっと触れようとする。が、まだ正式に許可を得ているわけでもないので、ぎりぎりで手を止める。



「ありがとうございます。無理に急かしたりしません。ただ、あなたが少しでも私を受け入れてくれるのなら、それが今の私にとって何よりの喜びだ」



 その言葉にシルフィーネは頷くことしかできなかった。頬が熱く、心の中は“幸せ”という言葉に近い感情でいっぱいになる。まさに“溺愛”が始まっているのだと感じずにはいられない。
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