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14話
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第4章-2:王の激怒
エルマーが謁見の間を後にしてからしばらく、玉座の間には静寂が流れていた。
王レオポルト三世は玉座の上から立ち上がることなく、ただ一つの視線で重臣たちに語りかける。
「……国王の名のもとに命じた政略結婚を、王子自らの一存で公に破棄する。
この事態がいかに深刻か、皆も理解していよう」
「はっ、恐れながら……」
老宰相オルデンが一歩前に出て、静かに膝を折る。
「ラファール王国側は未だに公式の抗議は出しておりませんが、各方面での外交停滞はすでに始まっております。
財界、貴族社会の反応も芳しくなく……これは、確実に尾を引くでしょう」
王は目を細め、厳かに頷く。
「当然だろう。ラファールの第二王女、クレハ・アルフェリア・ラファール殿下は、王族であると同時にこの時代を動かす知将だ」
周囲の者たちも頷く。
「外交儀礼、経済理論、さらには複数の企業経営を担う才女。
我が王国の商人たちすら、彼女の後援により市場参入を果たした者がいるほどだ」
「はい、殿下。国内の高等学院でも、クレハ殿下の政策論文は高く評価されております。
経済理論、商業倫理、そして法制度への提言までも……」
王の眉がわずかに上がる。
「……あの愚息が“顔も見たことがない”という理由で、そんな人物を侮辱したのだ。
まさに国家の面汚しだ」
王の語調には怒気が滲んでいた。
それは“王”としての怒りであると同時に、“父親”としての失望でもあった。
「民は王家を信じて生きている。
貴族は我らの決定を外交の象徴と見る。
エルマーの行動は、その両方を裏切る結果になった」
「殿下……ご決断を」
と、オルデンが口を開く。
「現在、国内外では『アインヘリヤル家の王子がラファール王家を侮辱した』との噂が既成事実化しつつあります。
これを放置すれば、信用失墜は避けられません」
王は腕を組み、数瞬の間、考え込んだ。
やがて重々しい口調で口を開く。
「謝罪だ。
我が王家は、いかなる理由があろうとも約束を一方的に破るような軽率な家ではないということを、行動で示す」
「……殿下ご自身が?」
「いや、違う。
責任を取るべきは本人――エルマーだ」
王の言葉に周囲が静まり返る。
「身分に守られて育ったあの愚か者に、己の行いがどれほど重いかを学ばせねばならん。
“謝罪の旅”は罰であり、学びの機会でもある」
「しかし……王子を直に向かわせるのは、リスクもございます」
重臣の一人が慎重に進言する。
「護衛はつける。ただし、過剰なものではない。
あくまでも“誠意”を示すための訪問とせよ」
「はっ」
王は静かに立ち上がる。
「……私も、あれが王子として成長することを、どこかで期待していたのだろう」
誰にともなく呟いたその言葉に、玉座の間にいた全員が胸を打たれる。
「だが、あれが“王”になれる器かどうか……それは、この一件で見極める」
静かに振り返ると、王は一人、玉座の階段を降りてゆく。
その背には、これから始まる新たな試練の影が落ちていた。
エルマーが謁見の間を後にしてからしばらく、玉座の間には静寂が流れていた。
王レオポルト三世は玉座の上から立ち上がることなく、ただ一つの視線で重臣たちに語りかける。
「……国王の名のもとに命じた政略結婚を、王子自らの一存で公に破棄する。
この事態がいかに深刻か、皆も理解していよう」
「はっ、恐れながら……」
老宰相オルデンが一歩前に出て、静かに膝を折る。
「ラファール王国側は未だに公式の抗議は出しておりませんが、各方面での外交停滞はすでに始まっております。
財界、貴族社会の反応も芳しくなく……これは、確実に尾を引くでしょう」
王は目を細め、厳かに頷く。
「当然だろう。ラファールの第二王女、クレハ・アルフェリア・ラファール殿下は、王族であると同時にこの時代を動かす知将だ」
周囲の者たちも頷く。
「外交儀礼、経済理論、さらには複数の企業経営を担う才女。
我が王国の商人たちすら、彼女の後援により市場参入を果たした者がいるほどだ」
「はい、殿下。国内の高等学院でも、クレハ殿下の政策論文は高く評価されております。
経済理論、商業倫理、そして法制度への提言までも……」
王の眉がわずかに上がる。
「……あの愚息が“顔も見たことがない”という理由で、そんな人物を侮辱したのだ。
まさに国家の面汚しだ」
王の語調には怒気が滲んでいた。
それは“王”としての怒りであると同時に、“父親”としての失望でもあった。
「民は王家を信じて生きている。
貴族は我らの決定を外交の象徴と見る。
エルマーの行動は、その両方を裏切る結果になった」
「殿下……ご決断を」
と、オルデンが口を開く。
「現在、国内外では『アインヘリヤル家の王子がラファール王家を侮辱した』との噂が既成事実化しつつあります。
これを放置すれば、信用失墜は避けられません」
王は腕を組み、数瞬の間、考え込んだ。
やがて重々しい口調で口を開く。
「謝罪だ。
我が王家は、いかなる理由があろうとも約束を一方的に破るような軽率な家ではないということを、行動で示す」
「……殿下ご自身が?」
「いや、違う。
責任を取るべきは本人――エルマーだ」
王の言葉に周囲が静まり返る。
「身分に守られて育ったあの愚か者に、己の行いがどれほど重いかを学ばせねばならん。
“謝罪の旅”は罰であり、学びの機会でもある」
「しかし……王子を直に向かわせるのは、リスクもございます」
重臣の一人が慎重に進言する。
「護衛はつける。ただし、過剰なものではない。
あくまでも“誠意”を示すための訪問とせよ」
「はっ」
王は静かに立ち上がる。
「……私も、あれが王子として成長することを、どこかで期待していたのだろう」
誰にともなく呟いたその言葉に、玉座の間にいた全員が胸を打たれる。
「だが、あれが“王”になれる器かどうか……それは、この一件で見極める」
静かに振り返ると、王は一人、玉座の階段を降りてゆく。
その背には、これから始まる新たな試練の影が落ちていた。
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